3-3 後悔
「とまあ、この島のことについて知っていることを話させてもらった訳だが。どうだ、何か他に聞きたいこととかはあるか?」
バーバリライオンは一段落付いたところで一旦話をまとめた。
「――じゃあ、かばんちゃんを追い出すような事情って何?」
サーバルがその問いかけをした刹那。そこを取り巻く空気が一瞬にして凍った。
「サーバル…わかった、聞かれたからには応えよう。それはこの島の均衡を保つ為だ」
バーバリライオンの放つ言葉には凍った空気に罅を入れるようなそんな重みがあった。
「そう、顔を強ばらせなくてもいい。我々に事情があるのと同じ様、お前達にもちゃんとした事があるのはわかっている」
「じゃあなんでかばんちゃんに出て行けなんて言ったのさ!」
「そ、そうなのだ!かばんさんはな、困っているフレンズを一生懸命助けようとする、とっても偉い人なんだぞー!」
「そうかそうか、お前達にとっての『ヒト』というのはそういうもんなんだな」
サーバル達がかばんを弁護する声を上げるが、ケープライオンはそれを一蹴する。
「お前達がなんと言おうが俺達の考えは変わらねぇ、お前達が思ってる『ヒト』のイメージと俺達の持ってる『ヒト』のイメージは違うからな」
追い打ちをかける様にケープライオンが唸る。
「お前達の知っているかばんってのも本当はそんな優しい生ぬるい奴じゃねぇかもな!所詮はヒトだ、心の底ではお前らみたいな弱っちい獣、いつか捨ててやろうとか思ってるんじゃねぇか?」
「そ、そんなことない…そんなことないよ!!」
吐き出される言葉には、ヒトというものに恨みを持つ者の本物の重みがあった。その言葉は、かばんというヒトを大親友に思うサーバルへ、深い傷を負わせる。
「ケラー!この子らには罪は何も無いだろうそこまで強く当たるな」
バーバリライオンも流石に止めに入った。
「クッ、、でもな、俺は俺がされた事をしっかり覚えてるんだ。バリーもだ。しかも不幸なことに自分が死ぬ瞬間を覚えてるんだよ」
ケラーは顔を歪ませる。
「お前達は知ってるか?自分の目の前で仲間が朽ちる瞬間を。お前達は覚えているか?自分がこの姿になる前のことを」
今にも血を吐き出しそうな勢いで吠えるケープライオン。その形相にバーバリライオンまでもが圧倒されていた。
「すまねぇ、俺は席を外させてもらう。思い出したくねぇことも思い出しちまった」
おもむろに立ち上がるケープライオン。サーバル達は何も言うことが出来なかった
「あ、最後に一つだけ言っておくか」
去り際にケープライオンは言った。
「俺が思っている『ヒト』へのイメージは、『脅威』だ。」
そう言い残すと、ケープライオンは森の中に消えていった。
ケープライオンが去り、残った四人。サーバルらは立ち尽くすしか無かった。あまりにも衝撃の大きい事が立て続けに起こり言葉を失った。
「すまない、ケラーも悪気があってお前達に当たっている訳では無い…ただ、あいつにとってヒトという存在はあまりにも辛く苦しい記憶が付き纏う『本当の恐怖の対象』そのものなんだ」
バーバリライオンの今までの威厳はとうに消え、かなりまいっている様子だった。この重い空気をかき分けフェネックはバーバリライオンに問いかける。
「あ、あの…ケープライオンが言っていた『死ぬ時の記憶がある』ってどういうこと?何のことか全くわからないんだけど」
恐怖から泣きそうになるのを抑えながらも問うフェネック。その問いは尋ねたフェネック本人をも胸を抉るような苦しみを与える。
「そうだな…死ぬ時の、と言うよりかは動物だったころの記憶があるって言った方が正しい。実際のところ私はそこまで詳しくは覚えていないんだが…」
遠くを見て目を閉じるバーバリライオン。ケープライオンの様子と今のバーバリライオンの様子からただならぬ物を感じた3人。やはりヒトと言うものは自分たちには計り知れないほどの知らないことがあるらしい。
ヒトのフレンズであるかばんが大好きなサーバルにとってはヒトが本当に悪いものなのか、今まで一緒に冒険してきたあのかばんがヒトというものなのか全く考えられなかった。
「ケラーは…ケープライオンは私以上に自分の本当の姿だった時のことを覚えているらしい。まぁそいうことなんだ。できればその話題は控えてほしい」
「アライさんもちょっと怖かったのだ…」
「触らぬ神に祟りなし…か。バリーさんもその話はしたくないってことだね」
「まぁ、そうだな。自分の死を好き好んで語りたいものなど誰も居ないだろう」
「でも、でもやっぱりかばんちゃんはそんなことする子じゃないよ…」
サーバルが耳を垂らし力なくも反論する。
友達がそんな事をするはずないと信じたいがバーバリライオンとケープライオンを見るとそのことまで疑いそうになる。島で一緒の冒険してきたかばんは本当は自分の事なんてなんとも思っていないのか。
「ねぇ…本当に『ヒト』って悪い子達なの?全員が全員悪い子じゃないとかだったりしないかな…もしもヒトが本当に悪い子達だったとしても、かばんちゃんだけは、ううん、少しだけでもいい子だっているんじゃないかな…?」
「ふむ、お前達はそれほどあのかばんというヒトのことを信用しているということだな」
バーバリライオンの問いかけに3人は深く頷いた。
「私、かばんちゃんと出会ってからずっといっしょにいるんだもん…かばんちゃんが好きなことも苦手なことも、いっしょに旅をしてきたから、たくさんたくさん、いいところ知ってるもん!だから…」
サーバルは今にも涙を零すような表情だ。
「すまない、もう私からもこれ以上何かを言うことがはできない…もう太陽が天井に来ている。お前達もお腹が空く頃だろう、それぞれの居候場所に戻るのが良い。サーバルは付いてくるんだ」
バーバリライオンも悲しい表情を浮かべている。3人は仕方なくそれぞれの居候場所に戻ることにした。
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