再度、幕上げ

ハッピーエンドの為に、最初から演り直し《やりなおし》だ。

主役であるあたしが命を絶つことで、話は進まなくなる。

それは、シナリオに沿っていないという事。なら、巻き戻しが起こるはず。だから、あたしはあえて命を絶ち、最初から演り直すことにした。

そこで、心臓にあたる部分をナイフで刺した。心臓は無いから痛く無いかなと思ったら、かなり鋭い痛みを感じた。それもそのはず、夜の間は人間の体だったからだ。

そうして、あたしは一時的に命を絶った。


それから、今に至るまでの演り直しの10年間、必要なところは寸分違わずに、シナリオ通りに、と慎重に進めていった。ただ、問題なのは、人形が焼かれてしまう事。シナリオ通りにしてしまえば、沢山の人の命を犠牲にしてしまう。でも、シナリオに沿っていなければ物語は進まず、巻き戻されてしまう。ならば、シナリオを書き換える他に方法は無い。

そして夜、あたしが寝静まってから、そっと台本を開く。そこで、少しの迷いが生まれた。

今は、あたしがミライ、ミライがあたし。書き換えても大丈夫なのかな。

その時、むくっとあたしが起き上がった。

「また巻き戻されちゃうじゃない…」

あたしは悪態をついた。でも、何も起こらない。

「あなた、誰?」

訝しげにこっちを見つめてくる。ミライは、あたしと入れ替わってることに気づいていないのかな。

「あたしは未来…、いいえ、ミライ」

「ミライって、あの人形の?それならあの棚の上に…ない。本当に人形のミライなの?」

巻き戻しが起こらない。なら、このチャンスを利用するのみ!

「ええ。なぜか夜にはこの姿になるのよ。そんなことより、少し手伝って」

あたしは、台本の部分の書き換えを手早く指示した。ミライは、あたしの言う通りに書き換えた。

「これでいいの?」

「ええ、これなら…」

台本は整った。これで、物語はハッピーエンドに終わる。あとはあたしがシナリオ通りに事を進めればいいだけ。

「ありがとう、これで良い舞台になるわ。そのうちに演じましょう」

「ええ。いずれはミュージカルにでもなれば良いわね」

あたしとミライは意味ありげな笑みを浮かべた。


そして、あたしは書き換えられた通り、「悲しい顔をした人形たちを元気付け」ていった。同じ人形同士、話せば話すほど気が通う。そして、家の人形の顔から悲しみを消すことができた。あたしがミライと入れ替わった日は、あたしの誕生日の1日。つまり、エンドまであと3日。ここまでは滞りなく進んでいる。

すると、階下から足音と声が聞こえた。海翔はたまたま講義がなくて休みだけど、その声ではなかった。

「ただいま…、あ、お兄ちゃんいたんだっけ」

あたしの声だ。鼓動が速くなる。

「未来?とうとう授業サボるようになったのかよ…」

「ううん、今日は午前授業だよ」

「あ、そうだったっけ?俺の高校はさ、今日はもともと通常授業だったんだけど、攫われたと思われる奴らがスッゲー増えて。んで、なんか学校が休みになった。高校のクセにゆるいよな。そういえばさ、最近、に…うが…」

あたしはお兄ちゃんの言葉を遮るように頭の中が真っ白になっていった。

どうして、シナリオ通りに進んだはずなのに!そんなのあり得ない!

まさか、人形遣いの力?

それだったら、全人形が操られるからあたしも身動きが取れなくなるはず。

だとしたら、事を操れるのはミライしかないない。ミライは何か感づいてる。あたしがミライに見られても、巻き戻しが起きなかったという事が何よりの証拠。きっと、こうなっても巻き戻らないように台本のどこかに書き足したかもしれない。

シナリオの見直しを残り3日でしなくちゃいけないなんて…。

あまりにも酷だ。

でも、やらなきゃいけない。

ミライや、他の人形、犠牲になった人たちのために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る