Ever Doll's Stage

目が覚めると、そこはあたしの部屋だった。

ただ、あたしは床で寝ていた。

「…家に帰れた?」

そう思って、立ち上がろうとしたけれど、体はおろか、指一本動かせなかった。

視界に入る、銀色の髪と、身につけている真紅のドレスには見覚えがあった。


今、あたしは人間じゃない!

人形になってるんだ…。


すると、ぱたぱたと足音がした。

「ママー!ミライをつれてってもいいでしょう?」

「しょうがないわね…、でも、外に出るんだから、地面に置いたりしちゃダメよ?」

「はーい!」

その瞬間、あたしは宙に浮いた。どうやら小さな子に抱き上げられてる状態らしい。間違いない、その子は小さい頃のあたしだ。

目が合うと、小さい頃のあたしは、少し怯えた表情を浮かべたあと、にっこり笑った。


夜になっても、あたしは意識がはっきりとしたままだった。

その途端、鎖から解き放たれるように体が自在に動くようになった。

かと思えば、体が突然人間のものになった。

「どうして…」

声まで出るようになった。部屋にあった鏡を覗くと、あたしの容姿は、さっきまで見ていたミライそのものだった。ただ、ミライの目からは、無機質な光を感じていたけれど、あたしの目は、まだ暖かさを感じられた。

その鏡をぼーっと見つめていると、小さい頃のあたしが寝言を呟いていた。

「んん…、違う…。そのままじゃ、進めない…。台本通りじゃあ…」

台本?あたしの行っていた幼稚園のおゆうぎ会は、この時期じゃ無かったはず。そして、あたしは2年制が導入されている幼稚園に年中から入園したから、まだおゆうぎ会を体験したことは無かったはず。

「台本…。なんのことだろう」

「え…、誰?まさか、ミライ…?」

え、マズい、あたしが起きてる。

声が大きかったのかな?

その途端、何かに首を掴まれたような感覚を覚えた。


…えっ?

目が覚めると、あたしはまた床に寝ていた。

「ママー、ミライをつれてってもいいでしょう?」

「しょうがないわね…、でも、外に出るんだから、地面に置いたりしちゃダメよ?」

「はーい!」

小さい頃のあたしが、また人形のあたしを抱える。

そして!夜になれば、

「んん…、違う…。そのままじゃ、進めない…。台本通りじゃあ…」

と、昨日と同じ寝言を、一語一句間違えずに呟く。

今度は、声に出さないように考えた。

どうして、同じことが起きたのか。

謎の台本の存在。

それが、なんの台本なのか。

おゆうぎ会をしていないあたしが何で知ってるのか。

何で夜になるとあたしは人間になるのか。


そんな様々な謎を抱えたまま、あたしはあたし自身の成長を人形サイドから見ていった。

その際、たまに同じことを2日、3日、多い時で1週間以上繰り返す日があった。

前日と一語一句変わらない会話と行動。

まるで日にちを巻き戻し、あたしだけがその巻き戻しに巻き込まれていないかのようだった。

そのことには、あたしだけが気づいているみたいで、小さい頃のあたしも、ママも、たまに現れるお兄ちゃんも、巻き戻されているなんて考えていないようだった。


そうして、あっという間に今のあたしと同い年になった。


台本の存在は、あたしが毎晩のように寝言で呟いていた。

あたしが人形になってから、今日で10年。その間に、だいぶ台本について分かってきた。


台本は、小さい頃のあたしの夢であり、目標だったらしい。

「いつか、人形でいっぱいになったら、あたしは台本を作って人形劇をやってみたい」

そんな風に寝言を言ってた時もあった。小さいなりに、台本に賭ける思いは大きかったということはひしひしと伝わってきた。


小学一年生になり、勉強机を買ってもらってからは、毎日学校から帰ってきたと思えば、いつも台本を自由帳に書き、あたしを使って試していた。

そんなこと、あたしが追体験するまですっかり忘れていた。

それは、高校生になった今でも、うっすらと残っているらしく、あたしや、他の人形を見るたびに動かしてみたり、話しかけていた。


その日の夜、人間の体で部屋を歩き回っていると、ようやく探していたものを見つけた。

古ぼけた自由帳に書かれた、あたしの夢であり目標。

後から付け足されたように、題名の部分には、

「Ever Doll・End Roll」

と綴られていた。

キャストを見てみると、今まであたしが貰ってきた人形全てと、あたしが出ていた。

手書きのシナリオは、小学生らしく少し崩れているものもあれば、最近付け足した部分も見受けられた。

シナリオを要約すると、

悲しい顔をした人形が増えていく中、あたしが人形の世界に迷い込み、ちょっとしたことからミライと体を入れ替えて生活することになった。

そして、悲しい顔をした人形を消すために、人間の手によって人形はどんどん焼かれてしまう。そうして、悲しい顔をした人形が消え、人形たちは幸せな顔をし始め、つられてあたしまで笑顔になった…。

というような話。

どこか空想の話ではないような気がした。

「…ん?ミライと入れ替わる?」

寝ているあたしを起こさないよう、控えめに驚きを表して、台本へと目を移した。

間違いない、今までの出来事がシナリオ通りに進んでる。あの時、ミライがあたしをシナリオに引き込んだんだ。

クリスタルで閉じ込み、あたしの動きを封じてる間に魂を入れ替えるため。


つまり、今起きていることがシナリオに沿ってなかった場合、シナリオから外れる前まで巻き戻されてしまう。

初めて巻き戻された日は、動いてるところをあたしに見られたから。

だとすると今まで起きてきたことと全て繋がる。けれど、シナリオには違和感が残った。

なんだろう、どこがおかしい?入れ替わり、人形、燃やす…。

「人形が焼かれるなんてことになれば、たくさんの人の命が!!」

どうしよう、あたしはどこまで進んだ?

もしこれより先に進んでいたら、やり直さないと!

今のあたしは15歳。だとしたら、エンドまではもう1年も残ってない!


そうして、あたしは全てをやり直すために、自らの人形としての命を一時的に絶った。

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