Encore
「あった」
ミライが寝て、ようやくあたしは仕事に取り掛かった。
今日が金曜日ということもあって、ミライはスマホをいじっていてなかなか寝ないし、あたしが活動し始めたのは、深夜2時を回ったところからだった。
シナリオを最初から一語一句見逃さずに読んで2時間。ようやく、あたしは怪しい場所を見つけた。
「ある夜中、二人は初めて言葉を交わし、互いを知るようになる」
こんな文章、前には絶対に存在してなかった。巻き戻されなかった原因はこれだと思う。
「あーあ。なぁんだ、全部わかっちゃったの?」
ミライが起きていた。窓から指す淡い月明かりが、彼女の妖艶ささえも感じられる不気味な笑みを照らす。
「あたしもね、しばらくはあたしがあなただってことに気付かずに生活してたのよ。人間って最高ね、捨てられないし、見捨てられもしない。この10年間?あたしは幸せだった。でもね、本来あるべき姿・・・人形のことを思い出したらね、虫酸が走ったわ。やっぱり悪いのは人間よ。だから、どちらにせよ人間は消すべきだって思ったの。あたし自身もね」
あたしは、ミライがだいぶ血迷った事を言っていることに驚いた。自らを消したら、全て水の泡になるのに。そんな目線を送っているのがミライにバレたのか、彼女は肩をすくめた。
「しょうがないじゃない。あたしの身体も今は人間。でも、あなたにこの身体を返すつもりもないのよ。だって大切にされるんだもの。死ぬまではその温もりに触れていたいじゃない。今のあなたにも分かるでしょ?そうやって隅っこで存在も忘れられたまま眠ることの寂しさ。あたしはね、もうそんな思いをしたくないのよ」
あたしはそれで確信した。
このままミライがあたしの身体を借りて生きていたら、
いつか自分自身を滅ぼしてしまう。
傷つけてしまう。
心を閉ざしてしまう。
だから・・・
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