第7話 寺田屋事件は「勅定体制」を確立するためだった?

文久元年12月25日(1862年1月24日)、久光は大久保を上京させ、朝廷工作にあたらせた。大久保は、薩摩藩と縁の深い近衛忠房に薩摩藩の上洛計画を説明し、支持を求めた。安政の大獄の記憶も新しい近衛は申し入れを断ったが、一方で、幕政改革を幕府に建白して聞き入れられない時は、公然朝廷に願い出れば勅命が出るだろうと伝えた。大久保は2月に帰国した。


文久2年3月16日(1862年4月14日)「率兵上京」鹿児島発。

   無位無官の久光が千人もの兵、銃砲100 野戦大砲4を引き連れて上洛。

文久2年4月6日(1862年5月1日) 上京途中の島津久光、姫路着。

  西郷隆盛の捕縛を命じる。

文久2年4月10日、島津久光は大坂に到着。

  藩内急進派に対して、ひそかに諸藩士・浪人に面会し、命令を受けずにみだりに各方面に奔走することがないようにとの諭告をしたそうです。

文久2年4月16日 (1862年5月14日)島津久光は孝明天皇からひそかに下された勅命。

「浪士鎮撫のため京に滞在すべし」

文久2年4月17日(1862年5月15日)島津久光は入京。

文久2年4月21日(1862年5月19日)長州藩士長井雅楽は、藩主毛利敬親上京を促す内勅を奉じて江戸藩邸に入り、藩主に伝えました。

文久2年4月23日(1862年5月21日) 寺田屋事件。久光の命令により薩摩藩攘夷派一掃される。

文久2年4月24日(1862年5月22日) 孝明天皇は薩摩藩国父島津久光に対して、浪士鎮撫を賞する内勅を下しました。

文久2年5月   久光は 勅使と共に大軍を率いて江戸へと向かう。

文久2年6月7日(1862年7月3日) 島津久光江戸到着、幕閣との交渉を開始



 年表を見るとこのころから、朝廷の命により武士が従う「勅定体制」が築かれたと考えられます。それは「率兵上京」の目的の一つであったと思われます。


 島津久光は内勅がないまま「率兵上京」を開始していますが、京都に入る前日に 「浪士鎮撫のため京に滞在すべし」の勅命を受けています。

 この内勅は島津久光が孝明天皇に対して浪士の鎮圧を理由に上京の勅命をいただけるよう願い出たものと推測します。


 そして、文久2年4月23日(1862年5月21日) 寺田屋事件が起こります。

この事件は、理不尽にも薩摩藩の藩士同士の斬り合いにより、過激派を鎮圧した事になっていますが、実は自作自演であったと思われます。

 理由は「勅定体制」を確立する必要があったからです。

「精忠組」の藩士たちは島津久光のこの想いに応えるために身を犠牲にして「忠義」を貫いたのだと考えられるのです。

 君主の願いが朝廷に届くようにとの想いがあって壮絶な斬り合いになったものと思われます。 「浪士鎮撫のため京に滞在すべし」の勅命を入京の理由としているのですから実行しない訳にはいかなかったのです。


 この事件の裏で活躍したのが西郷隆盛とみられます。彼は久光が京都からの勅命を待って「率兵上京」をしようと考えていたのを「ジゴロ(田舎者)」と言ってたしなめたのは、いつまでも待っても勅命は出ない事、話し合いで朝廷を説得することが難しいことを西郷は感じていたものと思われます。


 そこで、京において浪士たちの不穏な動きがあり見過ごせない状態になっているから、それを鎮圧するために上京する必要がある。上京のための公式な理由として勅命をいただく。


 という筋書きを描き、そのために「精忠組」を作り、命に変えても忠義を尽くす藩士たちが必要であったのだと思われます。

 結果として、西郷を含む「精忠組」家臣の忠義が久光を動かし、久光の忠義が朝廷を動かしたと考えることができるのではないでしょうか。

 上京途中の島津久光が姫路に到着した時に西郷隆盛の捕縛を命じていますが、これは、西郷を寺田屋事件に参加しないように引き止める手段だと思われます。

 また、久光は京都に入ることができたので、作戦の中止を試みたようですが、精忠組が君主が嘘をついたとの惜しめを受けることのないように、上意討ちを決行したのではないかと想像するところです。


 調べた訳ではないので間違いかもしれませんが、おそらく島津久光に出された 「浪士鎮撫のため京に滞在すべし」の勅命が孝明天皇にとっての武士を動かした最初の勅命ではないかと思っています。時代を変える歴史的な勅命と言えるでしょう。

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