リリーの湖.02

…君には話したかもしれないけれど、この家は昔私の叔父が住んでいてね。叔父に懐いていた私は度々1人でここを訪れた。

叔父は仕事で精神を病んでしまっていてね。街での暮らしに疲れてしまっていたんだ。

私は叔父の助けになればと、薪割りや山菜採りを覚えたよ。叔父はそんな私の頭を撫でて、たくさんのキャンディをくれた。

あの味はまだ覚えているよ。


私がまだ9歳くらいの頃の話だ。

ある日、叔父が綺麗な花瓶を拾ってきたんだ。綺麗な青の硝子で作られたものだ。


…ふふ、そう。君が今持ってきてくれた、この花瓶だよ。


この花瓶に似合う花を摘んで来てくれないか、と叔父に頼まれてね。叔父はお腹が空いたら食べなさい、とサンドイッチの入った箱を私に手渡した。

この家の近くで花なんて見た事がなかった私は、その日初めて家の裏にある森へと足を踏み入れたんだ。


ちょうどいい長さの枝と、サンドイッチの入った箱。カバンの中にはたくさんのキャンディ。

幼い私は見知らぬ土地に冒険の予感を感じて、意気揚々と森の奥へ奥へと進んで行った。道中、食べれそうなキノコを採ってはカバンに詰めた。


だけど、どれだけ進んでも花は見つからなかった。

いくら不安が押し寄せても幼い私は引き返す事を知らず、もう少し行けば花があるはず、それを摘んだら引き返そう、と不安を誤魔化しながら、森の奥深くへと進んで行ったんだ。


どれほど歩いたかはわからないが、道を進んだ先にボロボロの立札が立っていた。かすれて字は読めなかったが、この先に何かがあると幼い私は確信した。早足で進んで行くと、次第に森が開けて行くのを感じた。 あの時は本当に嬉しかったよ。


森を抜けた先には、湖があった。

その周りに、百合の花がたくさん咲いていた。

私は百合の花に駆け寄り、中でも大きくて綺麗な花を引き抜こうとした。

その時、声をかけられたんだ。


「お花、持ってっちゃうの?」


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