光を待つ.02

「ただいま。」


「あ、おかえりお兄ちゃん。」

「ご飯ある?」

「野菜炒め作ったよ。温めるから待ってね。」

「ありがと。あ、これ。廃棄だけど、店長が持ってけってさ。ケーキ。甘いもの食べたいだろ。」

バイト先のコンビニでもらったケーキを優衣ゆいに手渡す。


「いいの…?」

優衣が浮かない顔でこちらを見る。胸が痛い。

「大丈夫だよ。あの人達に見つかるとめんどくさいから、早く食べちゃいな。食べ終わったらゴミもらうね。」

「ありがとう!」

結衣はニコっと笑って台所へと向かった。



狭い部屋の静かな食卓。

僕が野菜を咀嚼する音が響いてるような気がした。

結衣はケーキを食べながら、ずっと昔に買ってもらった漫画を読んでいる。

繰り返し読まれたその漫画の表紙は、ボロボロになっていた。


「お兄ちゃん。」

「ん?」

「私やっぱり中学出たら働くよ。」

「またそんな事言ってんのか。」

「…学費だって生活費だって、お兄ちゃんの負担になりたくない……。」

「大丈夫だって。優衣の事、負担なんて思わないから。大丈夫。」

「うぅ……。」


結衣はゴシゴシと、涙を拭った。

また、胸が痛む。


「泣くな優衣。優衣はいっぱい勉強して、いい大学に入って。いつでもケーキくらい、誰の目も気にせず食べれるようになれ。」

「でもお兄ちゃんが…。」

「兄ちゃんは強いんだぞ?店長からケーキもらえるしな。はは。」

僕は一生懸命おどけてみせた。

「…あはは、ありがとう。」

「だから働くなんて言うな。結衣の成績ならいい高校行けるはずだから。推薦も取れそう?」

「先生は取れるって言ってくれた。迷ってたからまだお願いはしてないけどね。」

「じゃあ推薦のお願いも明日してきな。他の事は何も心配しなくていいから。な?」

「ありがとう。」

「うん。野菜炒め、おいしいよ。」

「ふふ。あ、お兄ちゃん。そろそろシャワーしとかなきゃ怒られちゃう。」


時計に目をやる。22時過ぎ。


「…うん。」

「ケーキありがとう。ゴミここ置いておくね。」

「うん。おいしかった、ごちそうさま。食器お願いね。早く寝るんだよ。」

「はーい。」


ケーキのゴミが入った袋をスクールバッグに詰め込みバスルームに向かう。


両親の残した、ただ1つの宝物。

結衣に、どうにか幸せになってほしい。

誰かの目を気にして食べるケーキも。

ボロボロになるまで読み返した漫画も。

見る度に胸が痛む。

もっと自由で良いはずなのに。

気にしなくても良いはずなのに。


胸が張り裂けそうなほど痛い。

結衣の泣き顔を思い出して。

シャンプーを洗い流しながら、僕は少し泣いた。

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