空を舞うクラゲ.04
「椎名っていつも何してるの?」
「何ってなに。強く生きてるよ。」
私はムッとした。
少しだけ椎名の行動に興味が沸いた私は何の気なしに話しかけてみたのだが、この返し、やっぱり腹が立つ。
「質問が悪かったな。勉強とか掃除とか、中学生のお勤めをサボって何して遊んでるの。」
「遊ぶことも中学生のお勤めだと思うな。俺達はまだまだ子供だからね。」
「お前…性格悪いな。質問の答えをもらってないんだけど。」
「何にでもすぐに答えを求めるなんてことを覚えたら、ロクな大人にならないよ。あはは。」
椎名は私の質問をのらりくらりと
そうだった。そう言うやつだった。
いいだろう。椎名がその気ならば。
後日。今日の私は椎名の謎を解明することにした。昼放課はもちろん、掃除の時間すらどこにいるかわならない椎名の行動を監視してやろうと思っていた。
「おはようございます。」
「「おはようございまーす。」」
先生の号令と共に、朝のホームルームが始まる。椎名が「遊ぶことお勤め」と言うのであれば、私が何かを知ろうとすることだって中学生には大事なお勤めだろう。今日の私はいつもの私じゃない。アイツの行動を徹底的に監視してやるんだ。
チャイムと共に1限目が始まった。
私は勉強しているふりだけして、気づかれないようにチラチラと椎名に目をやる。
椎名は今日もあやとりをしているのだが、指を動かすスピードが以前とは比べ物にならないくらい早くなっていた。なんだあの動きは。超速で三段
私はノートの1番後ろのページを開き、メモをする。
『1限目 あやとり ストップウォッチで計測(体育倉庫の備品?)』
2時限目。椎名は前席の生徒の陰でトランプタワーを作っていた。毎回2段目から失敗しているのだが、1段も作れない私は見入ってしまっていた。心のどこかで応援してしまっていた。
「海月さーん。」
「え?」
椎名がこちらに目もやらずに声かける。監視がバレたか?
「人生ってトランプタワーみたいだよね。」
よかった、違うみたいだ。
「不安定だけど、こんな頼りない物でも寄り添い合えばなんとか立てたり、上手くいってるって思うと突然崩れたりさ。」
私は小さく笑って返す。
「お前、それは達観し過ぎだろ。トランプタワーに人生を見るなんて、まだ私達のすることじゃない。」
「かなぁ。」
「まだ中学生なんだから。崩れたらときにクソー!って言ってるだけでいいんだよ。」
時計に目をやる。2時限目が終わりそうだ。
『2時限目 トランプタワーに人生を見る』
3時限目と4時限目。椎名は寝てしまっていた。
顔をこちらに向け、スースーと小さく寝息を立てている。やはりこうして見ると椎名は少しだけカッコいい。ムカつくが。私はノートに『4時限目まで 睡眠』とメモを残し、授業に集中する。
給食が終わり、掃除の時間がやってきた。
私の掃除場所は階段なのだが、椎名はすぐ上の廊下だ。しかし椎名はいつもいない。どこかへ行ってしまっているのだ。そういう時、椎名が何をしているのか。突き止めてやる。私は意気込んでいた。
私は階段側の壁からそっと顔を出し、椎名を探す。探す。探す。
いた。廊下の奥の方でその後ろ姿を捉えた。すでにどこかへ向かっているようだ。
私はクラスメートに掃除を押し付け小走りで椎名の後を追った。
椎名の後を見つからないようにコソコソと尾行して行くと、椎名は下駄箱で靴を履き替えて外に行ってしまった。アイツ、何してるんだ。いっつも外で遊んでたのか?私も靴に履き替えて後を追う。
一定の距離を保ったまま尾行を続けて行くと、中庭に辿り着いた。椎名は大きな木の前で立ち止まり、辺りをキョロキョロと見回す。私はくるりと背中を向け、顔を見られないようにした。バレたか?
椎名はそのまましゃがみ込み、ポケットからメモ帳とシャーペンを取り出して猛スピードで何かを書いている。バレてはいないようだが、何をしているのか。
しばらくすると椎名はもう一度辺りを見回した後、目の前の大きな木の下にメモを放り投げ、その場を後にした。
あのメモはなんだ。気になる、気になる。ラブレターか?誰かとここで密会する約束でもしていたのだろうか。何にせよ、椎名の謎を暴くその時が来たのだ。私は椎名がいなくなったことを確認してから小走りでそのメモを拾いに行った。
なになに…。
『こんにちは。海月さん。』
!?
椎名の残したメモはご挨拶と私の名前で始まっていた。
『今日はいいお天気だね。絶好の尾行日和だと思うよ。けどね海月さん。残念ながら君の足音が丸聞こえなんだ。もう少し慎重にした方がいいと思うよ。』
バレていたのか。
『きっと君は悔しがるだろう。けど、何事も諦めない気持ちは大切だと思う。海月さんが今日、今朝から俺の行動を監視してやろうとした、そのチャレンジ精神は評価する。』
クソ椎名め!全部バレてるじゃないか。
『評価はするんだけど、残念ながら今は掃除の時間なんだ。君はこのメモが気になりすぎて、その場で読んでしまうだろう。そして、君はこの長いメモを読むことによって俺の姿を見失う。海月さん、俺は今頃どこにいると思う?ヒントは後ろに見える校舎の2階の窓。』
私はハッと振り返って、2階の窓に目をやる。
椎名がヒラヒラと手を振っている。
「クソ椎名!」
私は叫んだ。
そのとき、椎名が近くを歩く担任を呼び止めた。
少し会話を交わし、事もあろうに私を指さした。
先生が窓から顔を覗かせ、私を見る。やべ。
「佐藤さん、何してるの?」
「…すぐ戻りまーす!」
私は椎名に、敗北した。
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