空を舞うクラゲ.05
「クソ椎名のせいで先生に怒られた。」
「海ちゃんが変なことするからだよ。尾行なんて。」
帰り道。早紀に今日の出来事を愚痴っていた。早紀は私の愚痴をいつでもニコニコしながら聞いてくれている。本当に助かる。
「わざわざ手紙で足止めとか普通思いつく?しっかり先生にもチクってさぁ。アイツホントに何者なんだよ…。」
「海ちゃん、もしかして椎名のことやっぱり気になるの?」
「えっ」
早紀はいつも純粋な疑問をぶつけてくる。私には無いものだった。羨ましかった。私は散らかった心を見渡して、言葉を探す。
「そんなんじゃないけど…なんだろうなぁ。椎名を見てるとモヤモヤするんだよね。気にはなるけど、恋愛とかの気になるじゃない。うん、好きとかじゃない。」
私は自分の心の中を整理しながら早紀に話した。そう。気にはなるが、その気持ちは好きとは違う気がする。気がする?なんだろう。
「よかったー。私椎名のことちょっと好きなんだよね!」
「え、え?」
まだ心の整理中の私には処理しきれない。
「え?」
「椎名のこと好きかも。わかんないけど。」
「あ…あー…。うんうん。」
かなり適当な返しだった。眉間に皺が寄り、目線は宙を泳いでいた。
「椎名って、なんか不思議な感じがしてカッコよくない?顔も雰囲気も。あと優しいし。」
「優しいって、席借してくれてるくらいじゃないの…。」
「早紀ちゃんって呼ばれてびっくりしちゃった!キャーってなって、もう…」
早紀はまるで私の話を聞いていなかった。恋愛を乗せた暴走機関車のように、早紀の勢いは増していく。ブレーキは壊れてしまったのだろうか。止まらない。もう止まらない。こんなに早口であのクソ椎名を褒めれるなんて。褒め倒せるなんて。あぁ。これが恋か。まだ何か喋っているが、私の耳には届かなかった。
「聞いてる!?」
「あ、うんうん!聞いてるよ。」
「でね、海ちゃんにお願いがあるんだけど。」
このパターンはいつものヤツだ。
「『私の事どう思ってるか聞いてほしい』、かな?」
「そうなの!少ししか喋ったことないからさ。さすが海ちゃん、話がわかるね。」
「う、うん。わかった、聞いとくよ…。」
「ありがとう!じゃあまた明日ね!」
「バイバーイ…。」
椎名が以前、『あんまり興味がない』と言っていたことを思い出して私は憂鬱になった。親友の悲しむ顔は見たくない。なんて言えばいいのか。
帰宅後、私はすぐ自室に篭った。
クソ椎名にハメられたこと。クソ椎名に早紀が恋をしていたこと。しかしクソ椎名は全く興味が無いこと。
そして私が、嫌いなクソ椎名に興味を持ち始めたこと。
「ふぅ。」
いつもの様に、ベッドに倒れ込む。
なんだろう。
脳内を椎名が占領している。あのニヤけた
………………。
青く、海。
クラゲと共に海中を漂うように沈む。
あぁ、私は寝たのか。
深く、光はだんだんと遠く。
辺りは何もなく、水の中。
なんとなく気づいた。私は寂しいのだ。何かが邪魔して思春期を楽しめない自分が寂しい。それに加え親友も恋色だ。
深く深く。濃く、青く。
ほとんど何も見えない。
仲間外れのような孤独感がこの深海なのか、と理解できた。私の気持ちが、これなのか。と。
深く。奥深く。深海。
このまま私は青と闇に溶けるのだろう。
何も思うことはない。
椎名。
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