空を舞うクラゲ.02


「海ちゃんと椎名って仲良いよね。」

「え?」


帰り道。親友の早紀がとんでもないことを言い出した。

「いや、いっつも授業中なんかしてない?今日も遊んでたよね?」

「椎名からだよ!アイツがちょっかいかけてくるんだよ!」

「ほら、仲良いよね。実は好きだったりする?」

「ちょ、ホントにない。椎名嫌いだってば。」

本当だ。私は椎名のことが本当に嫌いだ。

「へー。」

早紀はニヤニヤして私を見ている。完全に恋バナをする女子の顔だった。

「じゃあ海ちゃん今好きな人は?」


恋バナだった。

「え…。いない。」

「気になるなーって人も?」

「いないなぁ…。私恋とか向いてないのかな。あんまりそう言うの無いんだよね。」

「えぇ意外。結構女子から相談受けてるよね?」

確かに私はよく恋の相談をされる。相手が自分をどう思ってるのか聞いてほしいとか、話すきっかけを作ってほしいとか。軽い内容の物ばかりだが。


「うん。たぶん男っぽい性格だからじゃない?」

「ははは。海ちゃんサバサバしてるもんね。」

「こう言うとこ治したいけどねー。もっとキャピキャピしたかったなぁ。」

「今からでもできるよ。海ちゃん可愛いし。」

「やめてよもう。じゃあまた明日ね。」

「うん、じゃーねー。」

「バイバーイ。」


家の前で早紀と別れた。

ママにただいまを言って、自分の部屋に篭る。私は自分の部屋が好きだ。


私だって女子らしくしたい。それは本当だ。

誰かに相談してまで相手の気持ちを知りたがる不安定さを、誰かにきっかけを作ってくれと頼み込む弱さと強さを、私も体験したい。恋がしてみたい。

「ふぅ。」

ため息と共に制服のまま、ベッドに倒れ込む。


男子に魅力を感じない訳ではない。カッコいいヤツは実際私から見てもカッコいい。しかし何故か恋愛対象には見れない。たぶん、私に思春期は早すぎたんだろう。恋バナは嫌いじゃないけど、バスケをしてる方が楽しい。


けど、恋はしたい。

けど、焦ってする恋なんてロクな物じゃないと私は思っている。

だけどやっぱり、恋がしてみたい。ジレンマだ。


そんな行き着く先のない考え事をしていると、次第に眠気がやってきた。

まどろみに入るその手前。夢と現実の区別がつかなくなるそのとき、私にはいつも湧いて出てくるイメージがあった。

ベッドに横たわる私の身体が、スっと海に沈みこんで行く。どんどんと奥深くまで沈んで、次第に陽の光も届かない深海に落ちていく。

暗くて何も無い。魚の影すら見えない。自分がまだ沈み続けているのかもわからない。『無』がそこにある。深海。

こんな中で1人は怖い。深海の暗闇に飲まれて、私も『無』の一部になるのは怖い。


嫌だなぁ、なんて思って思っているうちに私は完全な睡眠状態に入っていた。ご飯の時間になりママに起こされるまで、熟睡していた。

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