第29話 『最終回』


 病院でのぼくは、検査、手術、検査、再手術・・・


 の繰り返しでした。す


 あの旅の中でのぼくは、まだ少年、という姿でしたが、実際は還暦も過ぎたおじさまです。


 2か月も過ぎた頃になって、ようやく体も落ち着き、少しは動けるようになってきました。


 こんどは、リハビリの毎日です。


 「また、警察の方、来たあ・・・・」


 奥様の、びーちゃんが言いました。


 若い男性の警察官と、少し年上のような、女性の警察官の方です。


 なんとなく、こう言う場合は、あの世の鬼さんに似ていると言うのが定石なのですが、実際にそうだったのです。


 男の警官さんは、ぼくに引換券をくれた鬼さんと、そうして女性の警官さんは、それこそ、あの案内の鬼さんにそっくりだったのですから。


「ども。大分よくなりましたね。よかった。」


「はあ・・・まあ、どうも。」


 男の警官さんが言いました。


「実は、続報です。」


 女の警官さんが続けました。


 彼女の方が格が上らしいです。


「あなたをはねた男たちが、ようやく逮捕されました。伊豆の山中に逃げ込んでいて、空き家に潜んでいたのですが、用心ぶかくて・・・。時間がかかって申し訳ないです。」


「ぼくは生きてるから良いけど、男の子の方にしっかり報告してください。認めたんですか?」


「はい。認めました。あなたがおっしゃった通りのバイクも押収しました。納屋の地下深くに隠していました。犯行を指示した人物の所有する別荘でした。あなたの記憶が役に立ちました。本人たちも、あなたの記憶とほぼ同じ証言をしております。また、あなた達を轢いた後、男の子のご両親をはねたことも認めています。」


「はあ・・・・それは、まあ、良かったですけど・・・」


「けど・・・?」


「いやあ・・・・今まで言ってなかったけど、あれはですね・・・」


 ぼくは、ここではじめて、あの記憶がどこから来たのかの由来を説明いたしました。


 だって、あの旅のお話なんか、警察にできるわけがないでしょう。


「ううん・・・・それは、また、な・・・、なんとも。つまり、実際の目撃証言じゃあなくて、夢の中のお話ですかあ?」


 男の警官さんが言いました。


「まあ、ね。でも、合ってたんでしょう?」


「確かに、そうですが・・・・そりゃあまた、証拠能力ゼロですなあ。」


「まあ、そうでもないわ。」


 女性の警官さんが言いました。


「轢かれる直前に見ていたものが、夢の中で再現されたのよ。おかしくはないわ。」


「なるほど、警部のおっしゃる通りかも、ですな。ただ、後ろ盾の存在は、さすがに見えなかったでしょうに?」


「そうよね。あのですね、実は、黒幕がいたことも、実際に、事実なのです。いま、その人物の聞き取りを行っております。」


「ほお!」


「話は、結構複雑です。ある大企業の大物幹部が、不正経理やさまざまな違法行為をしていたのです。そのことが許せなかった一人の部下が、その証拠資料を握ったまま、ある日突然、辞表だけ残していなくなりました。大物幹部は、不正に協力していた高級社員にる、『あいつ、処分しろ。』と、指示したのです。殺せとは言っていない『資料を消せと言っただけ・・』と、本人は言っていますがね。『解釈の相違だ。』とも述べております。それだけでも、大問題ですけどね。しかし、その高級社員は、『殺せ』と指示された、と判断し、知り合いのギャングのボスに仕事を依頼しました。ギャングのボスと言っても、表向きは企業の経営者ですよ。彼は、大きな債権を握っていた、ある小さな会社の、跡取り息子二人・・・これが実行犯なのですが、に、その姿をくらました社員の殺害を持ちかけました。この二人の親は、目下どちらも病気入院中で、決して良い状態ではないのです。しかも、その会社は非常に危ない状態になっておりました。黒幕さんは、足が付かないようにと、資料などは一切渡さず、一定の情報だけ見せて、知らせたようです。ですが、その社員さんが、偶然にもあなたに、そっくりだったという訳です。

 そこで、あせっていた彼らは、よく調べもせず、犯行に及びました。

 愚かなことでは、ありましたね。人を殺してしまった。三人もですね。」


「でも、なんであの子のご両親まで?」


「それは、こう言っています。大変なことをしてしまったと思った、兄の方が、やや錯乱状態になり、警察に駆け込もうとして、街の中を暴走していたらしいのです。弟は必至で追いかけた。警察に行く交差点あたりで、二人の男女に制止されそうになり、これもまた常軌を逸した行為に及んでしまった。結局そのまま逃走したのです。それが、あの子のご両親だった。同じ警察署の警官、つまり私の親友でした。」


「はあ・・・・」


「まあ、我々としても、絶対に許せなかったのです。必ず検挙すると、皆で天に誓ったのです。」


「はあ・・・それで、天賦が降ったのかなあ・・・」


「まあ、そこは、分からないですけれどもね。」


「その、ぼくが間違われた方(かた)は、どうなっているのですか?」


「これは、また、九州の親戚の家に帰って、農業をなさっていたのですが、ニュースを見て、わざわざ出て来てくださいました。不正の資料も一緒にね。たしかに、あなたによく似ていらっしゃいます。それに、あなたのお家の近くのマンションに、住んでいらっしゃったことがあります。実は、現在もまだ、所有したままにしています。会社に対する目くらましだったようですね。お会いになりませんでしたか?」


「いやあ・・・・さすがにねえ。近くと言っても、マンションも結構、多いしなあ・・・」


「確かに、ご近所の方の顔と言われても、分からないことは多いですな。」


 男性の警官が同意してくれました。


「まあ、あなたにとっては、迷惑なことでした。早くよくなってください。」


「あの、男の子の家に、行ってやりたいのですが。」


「ああ、それは、退院なさる際に、配慮いたしましょう、あの子も喜ぶでょうから。」



 ************   ************



 ぼくは、しばらくして退院しました。


 それから、おふたりに付き添われて、男の子のお家に行きました。


 おばあさまが出迎えてくださいました。


 お線香をあげました。


 その写真は、まさにあの男の子です。


 ご両親も、あそこで見たままでした。


「ありがとうございました。」


「いえ、ご迷惑をおかけいたしました。ぼくが、あそこを歩きさえしなければ、こんなことは起こらなかったのです。」


 ぼくは、思わず泣きました。


「いいえ、あなたの責任は、まったくございません。」


 おばあさまは、優しく言ってくださいました。


「だれも、そのようなことは予測できないのですから。」


 ぼくは、やっと、ふと気が付きました。


 暗い、大きな仏壇の奥に、見覚えのある箱がありました。


「これは・・・・」


「ああ、おもちゃの扇風機の箱なんですよ。道路脇の側溝から出て来ました。不思議なことに、中身が見つからないのです。あの子、こんなのが欲しいと、盛んに言っていましたけれど。一人で買って帰ろうとしてたんじゃないかと。お小遣いを少しづつ、ためてたんでしょうかねえ・・・」


 いいや、あのとき、彼は、こうした箱は持っていませんでした。


 でも、あの川のほとりの『ばあやの店』で買ったのは、確かに、これでした。


「見て、いいですか?」


 ぼくは、箱を手に取りました。


 懐かしい感じがします。


 そっと、ふたを開けてみました。


 すると、箱の上蓋のうしろに、鉛筆で、字が書いてあったのです。


「おにいさん、ありがとう。」



   ***   **



 ちなみに、ぼくの、くまさんと、ぱっちゃくんは、特に変わったことはなく、お家の中で大人しくしていましたけれど。












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 『旅立ち』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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