第26話 『生 還』その6

 ぼくたちは、どきどきしながら、洞窟の入口に立ちました。


 『お札』が剥がれていないかは、もう一度しっかり、確認しました。


 大丈夫です。


 でも、中は真っ暗なのです。


 懐中電灯も、何も明かりを持たずに、真っ暗な洞窟の中に入るのは、相当な勇気が要りますでしょう?


 お化け屋敷の入口あたりだって、急激に真っ暗になり、どっちに行ったらいいかわからなくなって、「うわっ!」と、立ち往生することがあります。


 でも、ぼくは、意を決して、一歩中に入りました。


 大丈夫です。


 消滅していません。


 ぱっちゃくんが、ますます、しがみついてきます。


 二歩目。


 そこは、もう、暗闇の支配する世界です。


 ぼくは、目が慣れてくるまで、少し待とうと思いました。


「ふぅ~~~~!」


 くまさんが息を吐くように鳴きました。


「ぎょわわ~~~~~~~!」


 ぱっちゃくんが、小さい声で、震えながら鳴きました。


 少しだけ明かるさが見えてきましたが、これは洞窟の入口からくる光によるものです。


 奥に進むのは、なかなか大変そうでした。


 でも、進むしかないのです。


 現世に戻るまで、進むしかないのです!


 ぼくは、ひんやりと、ぬるぬるした壁を伝いながら、ゆっくりと前進しました。



    *****     *****



 入口は、だんだん小さくなります。


 しかも、途中で少しカーブしたおかげで、とうとう、見えなくなりました。


 そこは、まったくの、暗闇です。


 見たことがないような暗闇です。


 「くー! みえないよお・・・」


  くまさんが言いました。


  完全に光が入らない世界です。


  その状況で、ぼくはしばらく前進したのです。



   *****   *****



  やがて・・・・・・・・


  なぜだか、ふっと周囲が明るくなったように思いました。


 「あららあ・・・・・? なんだろう?」


  次の瞬間、地球が爆発したような、激しい光が周囲を飛び交ったのです。


  そうして、ぼくは、自分が再び、おかしな世界にいる事に気が付きました。



  なんと・・・それは、現世です!


 「やた! 帰れた!」


  ぼくはそう思い、飛び上がりました。


  しかし、そうではなかったのです。




  ************   ************



  ぼくは、ぼくを見ました。


  道路を、うつむきながら、ぼんやり歩いている、あわれな、ぼくです。


 「こいつ、なにやってるんだ!」


  ぼくは、ぼくをみて、そう思いました。


  なんと、情けない奴だ。


  自分に、怒りさえ感じたのです。


  「ちゃんと、顔を上げて歩け!」


  しかし、そのぼくには、何も聞こえないようでした。


  こちらを見ることも、まったく、ありません。


 「そうか・・・・これは、もしかして、映像なん、だろうか・・・」


  ぼくは、なんとなく、勘づきました。


  

  ********     ********



 そこでは、まったく、不可思議で、異常な映像が、次々と、繰り広げられたのです。


 もう、夕闇の時間が迫る中で、ふらふらと、歩いて来たぼく。


 「あああ、やっぱり、あの時だ!」


 そうなのです。


 ぼくが二台のバイクに轢かれた、あの時です。


 こうして周りを、広く見ながら観察すると、本当によくわかるのでした。


 右側は、電車の高架橋です。


 左側は、小さな川が流れています。


 ここは、その間の、近隣の人たちの、生活道路なのです。


 そうして・・・


 向こう側からは、男の子が一人、ポツンと歩いてきておりました。


 こちらもまた、うつむいて、とても、さみしそうです。



 それから、・・・・・ぼくは、はっきりと、見ました。


 二台の大型バイクが、いったん向こう側で止まった後、再び猛スピードで、僕に向かって、突っ込んできました。


 それから、あの男の子も、跳ね飛ばしました。


 可哀そうな男の子は、何メートルも、空を飛んで、川の淵まで、吹っ飛んでしまいました。


 それから、その映像は、自然にアップになりました。


 ぼくは その走り去ろうとする、二台のバイクの、ナンバープレートを、はっきりと見たのです。



  **********   **********



 ぼくらが轢かれてしまった、さらに、その後のことでしょうか。


 映像が変わりました。


 そこは、街の中心街でした。


 どうやら、警察署の入口の交差点あたりでしょう。



 二人の方が、立ち話をしています。


 もう、私服になっております。


 それは、あの男の子のご両親だと、ぼくには、すぐにわかりました。


「たまには、一緒に帰って、驚かせてやろう。」


「そうねえ。毎日、すれちがいばかりだから。」


「ああ。せっかくだから、ケーキと、それから欲しいと言ってた、おもちゃの扇風機を買って帰ってやろう。」


「まあ、珍しい。」


「それと、焼き鳥も。」


「それは、あなたのものでしょう?」


「ぶわっはははははははは!」


 お父さんは、豪快に笑いました。


 それから、・・・・・


 大きな音がして、二台のバイクが、暴走してきたのです。


「あの、ばかやろうども! こんな場所で、なに、やってるんだ。止めるぞ!!」


「了解。」


 二人は駆け出しました。


 そうして、ぼくは見ました。


 バイクを制止しようとする、男の子のご両親を、彼らは、こんどは、その二人を次々と跳ね飛ばし、また、轢いたのです。


 あっという間でした。


 もう、夕闇が、降りてきた中ではありましたが、ぼくはまた、アップになった映像で、そのナンバーをはっきりと確認しました。


 ぼくらを轢いた、あの、大型バイクと、まったく同じものです。


 まもなく、あたりは大騒ぎとなり、救急車やパトカーがやってきましたが、お二人は、もう、すっかり、動きませんでした。


 バイクは、その影も形もありませんでした。






  ************   ************























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