第20話 『帰 還』その13

 とうとう、竜さんの船は、向こう岸に到着したのです。


 ここは、きっと、もう『あの世』なのでしょう。


 あたりは、思った通りに、深い霧の中です。


「さあ、降りましょう。」


 案内の鬼さんが、優しく言いました。


 ぼくと、その男の子は、うなずき合って、長い階段の上に立ちました。


 いったい、誰が、男の子を待っていると言うのでしょうか。


 霧が深かったのは、ぼくの計画にとっては、きっと好都合だったけれど、でも、何も見えないために、そこで、誰が男の子を待っているのかが、まったく分からなかったのは、ちょっと困りました。


 「さあ、あなたには、迎えの方が来ているはずですよ。」


 鬼さんは男の子に言いました。


 「あなたは、バスに乗って、審判所に向かいます。でも、あなたのことは、天国に行けるように、向こう岸の長官からも嘆願していますから、このままならば、まず、地獄に落ちることはないはずです。」


 それは、ぼくには、「おかしな事は、しないでね!」と、言われているようにも聞こえました。


 ぼくたちは、長い長い階段を、ゆっくりと、降りて行きました。


 まだ、地上は何も見えません。




 そうして、なぜか、少し風が吹いてきたようでした。


 霧がゆっくりと動いています。


 その霧の中に、ぼんやりと、人影が浮かんできたのです。


 ひとりでは、ありません。


 そこには、ふたりの人が、立っているような感じがしました。




 ついに、地面に降りたつと、その影が、ゆっくりと近づいてきたのです。


 そうして、ようやく、すぐ目の前に来た時、それが男の人と、女の人だと分かりました。


 男の子が、あの扇風機の箱を両手で持ったままで、大きな声を上げたのです。


「おかあさん! おとうさん!」



 ぼくは、立ち尽くしました。






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