第19話 『帰 還』その12
ぼくたちは、ゆったりとしたベッドに横たわって、休憩をしました。
死者が休憩と言うのも、変と言えば変だけれど、ぼくは、つまり、自分たちは、完全に死んでいるわけではないのだ、と自分にいい聞かせておりました。
すこしだけ、まどろんだ様な気がした後、ぼくは男の子の声で、目覚めました。
「・・・おかあさあん・・・・・」
いったい、どんな楽しい夢を見ているのでしょうか?
ぼくは、男の子が、本当にかわいそうになりました。
だって、ぼくがあそこに行かなければ、この子は巻きぞいなんかには、ならなかったのでしょうから。
ぼくは、この子を助けなければならない、と、そう強く思ったのです。
***** *****
汽笛が、大きくふたつ鳴りました。
「ご乗船の皆様、あと15分ほどで、『あちらの地』に到着いたします。下船のご用意をお願いいたします。」
アナウンスが入りました。
ぼくは、大きな窓から向こうを見ましたが、やはりそこは、深い霧の中です。
「しめた。チャンスはある!」
ぼくは、そう思いました。
それから、男の子を起こしました。
「起きてよ、着いたようだから。」
男の子は、目を右手でこすりながら起き上がりました。
「着いたの?」
「ああ、あと15分だそうだよ。」
「15分?」
男の子の表情に、さっと緊張が走るのがわかりました。
無理もありません。
バイクに、はねられて、ここまで旅をしてきたけれど、それはもう、彼にとっては、恐ろしいほどの重圧だったはずです。
船室のドアがノックされました。
そうして、あの、案内の鬼さんが入ってきました。
「さあ、いよいよ、到着の時が来ました。行きましょう。まあ、まあ、そんな、怖い顔しなくて大丈夫ですよ。この先にあるものは、きっと、幸せのみ、なのですから。」
ぼくは、男の子の手を引き、『くまさん』をポケットに入れ、『ぱっちゃくん』を背負って、そうして、その穏やかな部屋から、外に出たのです。
不思議な事に、『くまさん』と『ぱっちゃくん』が、もう、目を覚ましているように感じました。
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