第18話 『帰 還』その11

 ぼくたちは、やっと、ふたりきりに、なれたのでした。


 大きな窓があり、そこからは、川が見えていましたが、実際、深い深い霧ばかりです。


 ぼくは、大きくて、豪華な船室の、これまた超豪華なソファで、男の子の直ぐ横に座りました。


 天井からは、どこかの王宮くらいでないと出会えないような、華麗なシャンデリアがぶら下がっております。


 ぼくは、男の子に小さな声で話しかけました。


 鬼さんたちに、聞かれたくないからです。


 もっとも、こんなV.I.P.専用ルームで、そんなことがあるとも、思えませんでしたけれど。


「向こうに着いたら、ぼくは隙を見て逃げる。クラシック喫茶のマスターが言っていた、現世への通路を探すんだ。きっと、簡単には行かないと思う、永遠に見つからないかもしれないし、鬼さんたちに捕まったら、こんどはどうなるか、わからない。ただ、もし、あちら側も霧が深いなのならば、チャンスはあるさ。君はどうする?」


「一緒に逃げるよ。もちろん、この世に帰るんだ。帰って、悪者たちを退治してやる。」


 男の子は、両手を交差させながら、ぶんぶん、相手をぶん殴るしぐさをしました。


「うん。わかった。いいかい、でもね、鬼さんたちが言うのを聞くと、何かが君を待っているらしい。心当たりはある?」


「さあ・・・おじいちゃんかなあ。でも、おじいちゃんなら、分かってくれるよ。きっとね。」


「ふうん・・・・でも、いいかい、一応合図を決めておこう。走り出す前に、ぼくは咳払いをする、2回ね。『おほん、おほん』とね。もし、万が一、君が一緒に逃げないと決めたら、「こほんこほん」と言うんだ。いいね?」


「うん、「こほんこほん」ね。でも、ないよそんなこと。」


「合図がなかったら、ぼくは君の手をひっぱって逃げる。でも、なにが起こるかわからないよ。はぐれたら、ほら、これ。」


「ふえだ!」


「うん。ポケットに入ってたんだ。気休めだけどね。幸運を祈る!!」


「うん!!」


        ***   ***



 「くまさん」と「ぱっちゃくん」はソファの上で、まだ、すやすやと、眠っておりました。





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