第16話 『帰 還』その9

 ぼくたちは、138億年前のこの宇宙の誕生からあとの出来事を、猛スピードで見て行きました。


「どうやって、作った映像なんだろうなあ・・・・」


 ぼくは、つぶやきました。


「ちょっと、出来すぎだなあ。」


「あなた、ほんとに疑り深い方ですねぇ。だ・か・ら、本物なんですよ。」


 解説者の、多分、鬼さんが、少し笑いながら言いました。


「だって、どうやって撮影したのかわからないから。」


「なるほど。これは、でも撮影ではありません。記憶なのです。」


「記憶ねぇ・・・誰のですか?」


「宇宙さんの記憶です。」


「はあ・・・・宇宙さんですかあ・・・」


 ぼくはつぶやきました。


 なんとなく、ばからしかたったからですが、・・・しかし、考えてみれば、宇宙さんの記憶を否定する根拠だって、最終的にはありません。


 この旅自体が、すでに不合理だとも思ったのですから。


 やがて、ファーストスターの誕生から宇宙の膨張、ぼくたちの太陽が生まれるところ、太陽系の形成、地球上の生物の誕生、人類の出現とその発展をざっと見て行きました。


 そうして、最終的に再確認したのは、今の地球の人類なんて、ほんのチョッピリしか、この宇宙の中で、まだ生きていないんだ、と言う事だったのです。

 

「宇宙人は、出てこないの?」


 男の子が、不満そうに言いました。


「出なかったね。」


 ぼくが答えました。


「結局、人類は宇宙の中で、孤独なのかもしれないけど、地球だけにだって、こんなにも同じ生き物がいるんだ。動物でも人間でも、簡単に殺していいとは思えない。でも、偉そうにしても、さげすんでみても、へりくだってみても、恐れてみても、これまでの歴史が、全て正しいなんて、やっぱり思えないなあ。」


「でしょう? 鬼だって、そうですもの。」


 解説の鬼さんが言いました。


「解釈と解説は人間の得意技ですけれど、鬼の得意技は責めることでした。でも、このところ少しずつ変わってきているのです。

 責めるばかりがよいのかどうか、については昔から意見は沢山あったのです。でも、最近特に、なにが良い事で、何が良くない事なのか、何が功績で、なにがそうではないのかが、人間社会でも複雑化してきました。すると、鬼の側も簡単に言い切れなくなってきたのです。もちろん、はっきり言い切れるものもあるけれど。あなたがおっしゃるように、人が人を裁くことの意味、鬼が人を責めることの意味、たとえば、川を渡る方法の選別をしていたりする意味、天国と地獄の分別の意味、すべてが問い直されています。」


「ふうん・・・」

 ぼくは、つぶやきました。


 ぼくたちを轢いたバイクの人たちは、いったい、どうなんだろう、と考えておりました。



 **********   **********



 ぼくたちは、なんとなく、すっきりとはしないまま、『宇宙劇場』を出ました。


 そうして、言われた通りに、その豪華な「カフェ」に入りました。


 そこには、あの案内の女性の鬼さんが待っておりました。


「いかがでしたか?」


 鬼さんが尋ねてきました。


「なんか、複雑。」


 ぼくが言いました。


「すごかったよ。でも、少し悲しかった。ぼくたち、どうなるんだろう。」


 男の子が、とてもつらい事を、思い出したように言いました。


「まあ、おすわりください。ソフトクリームでも、ご一緒に食べましょう。」



 **********   **********





























 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る