第12話 『帰 還』その5

 竜のお船は、どんどんと岸を離れてゆきます。


 川の向こう側は、まるでアイスクリームのような深い白色に、どっしりと覆われ


ていて、やはり、もう何も見えませんでした。


「船室に入って休みませんか? 着くまでには、大体3時間はかかりますから。」


 鬼さんが言いました。


 男の子は、じっさい、もう疲れ果てた感じもありました。 


 お船の周囲は、すでに深い霧に包まれてはいたのですが、それでも、時々霧の隙


間から、川面が見え隠れはするのです。


 そうして、ぼくたちは、身体半分、船室内に入ろうとしていた矢先に見たので


す。


 たくさんの、小さなお船でした。


 それでも、京都か、どこかの川下り船のように、屋根がきちんと載っています。


 しっかりとした、観光船のような趣もあるお船で、けっして、粗末な感じではな


いのですが、いったいどうやって動いているのかは、よく解りません。


 船頭さんらしき鬼さんが、お船の前と後ろに乗っていますが、櫓をこいだりして


いる様子もありませんでした。


「やれ進め~、とく進め~、とわの彼方に~~~・・・」


 鬼さんが、国籍不明の歌を、ベルカントで、うたっています。


「あれは、どうやって動くのですか?」


 ぼくが尋ねました。


「詳しい事は知らないのですが、重力を使って動くのだそうです。昔からそうなの


です。」


 案内の鬼さんが教えてくれました。


「はあ・・・すごい技術かも・・・」


「お船に入ってみようよ。」


 男の子は、豪華な船室の中に、相当な興味があるようでした。


「うん。そうしよう。」


 ぼくたちは、七色に輝く、その竜さんの背中に乗った船室に入りました。



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