第10話 『帰 還』その3
「じゃあ、君に、とてもよいことを、教えてあげよう。」
その大きな青鬼さんが言いました。
「君が、大きなお船に乗って向こう岸に着いたら、素晴らしく良い事が待っている
んだ。」
男の子は、目を丸くして言いました。
「え? なに?」
青鬼さんは、片目をつぶって、ちょっと意地悪く言いました。
「それは、向こう岸についてからのお楽しみだよ。」
男の子は、少し困っていました。
彼は、実はお船には,乗ってみたかったのです。
そこで、意を決したように言いました。
「じゃあ、行って、みる。それから考える。」
「うん。それこそが正解というものだ。」
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ぼくたちは、この館の鬼さんたちにお別れをして、船着き場に向かいました。
案内は、あの女性の鬼さんがしてくれるというのです。
「わたくしが、向こう岸までご案内いたしましょう。」
船着き場には、今のところ何もいませんでした。
ここは、一般の船着き場とは、大きな樹々で隔てられていましたが、そのせいな
のか、向こう側の雑踏は、ほとんどなにも聞こえて来ませんでした。
そこに、深い霧の中から、突然船が現れました。
「うわ~!!」
男の子が声を上げました。
それはもう、ぼくだってびっくりしたのです。
巨大な、本物の竜さんでした。
時々、首をよじっては、お口から火が噴き出ています。
「あれは、プラズマ現象なのです。」
女性の鬼さんが説明してくれました。
大きなその目は、とても恐ろしそうでしたが、よくよく見ると、なにか慈愛にあ
ふれているような気持ちもいたしました。
でも、それは間違いなく、お船だったのです。
竜さんの背中には、きらびやかな『館』が、乗っかって、いたのですから。
「す・・すごい。」
「ここで、一番豪華な船でございます。めったに使いません。あの世の偉い方が視
察に来るときとか、我々にもよくわからない、栄光のある方々がお乗りになること
が、ときにあるくらいです。わたくしも、実際に乗船するのは2度目ですが。」
美しい女性の鬼さんが言いました。
「あのお・・・、こうしたお船には、向こうから人が乗って来ることは、あるので
すか?」
ぼくが、何気なく尋ねました。
「ありません。先ほど申し上げたような方以外の、普通の人が、向こう側からこち
ら側に来ることは、どうしても出来ないのです。それは自然の決めた論理ですか
ら、変わらないのです。今のところは。」
「もしかしたら、いつか、変わる?」
「そうですね。もし、人間たちが自然の論理を全て解き明かし、あらゆる宇宙の力
を自由に操ることができるようになったら、そこは、変わるかもしれませんね。わ
たくしたち鬼たちには、そうした力はありませんが、人間には可能性が残されてお
ります。」
「ふうん・・・・」
「さあ、まいりました。乗りましょうか。」
「ぼく、怖いなあ、やっぱり。」
男の子が言いました。
無理もないと、ぼくは、思いました。
しかし、ぼくは、向こう岸に着いた後の、脱出行動の事を、考えていたのです。
いったい、なにが待っているのかも、まったく分かりませんでしたけれども。
決行するときは、近づいてきておりました。
くまさんが『く~』と、小さく、なきました。
くまさんが、実際に声を出したのを、ぼくは、このとき、初めて聞きました。
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