第7話 『旅立ち』その7
それにしても、おかしいなあ、とは思ったのです。
なぜ、ぼくは子供に戻った姿なんだろうか?
この子は、多忙とは思われても、家族もしっかりいるようなのに、なぜ、ほって
おかれたように、孤独な旅をしているのでしょうか?
何も持たされていないのは、少しおかしいように思います。
そんなことも、考えてはおりましたが、周囲はそれどころの状態ではなかったの
です。
大きな川が、目の前に流れていました。
三途の川。
渡る方法が三つだったので、そう呼ばれたとか。
また、渡るための料金は、古来六文とか。
フィンランドでは、『トゥオネラ川』と呼ばれます。
『トゥオネラ(死の国)の川』には、白鳥が浮かんでいるといいます。
*** ***
いずれにせよ、周囲はもう、騒然としていました。
川の入口には大きな門が作られていて、そこで鬼さんたちが通行する人々を見分
し、仕訳しているようです。
ぼくは、身体中に震えが来ました。
ここまでは、なんとなくぼんやりと歩いて来たけれど、ここに来て、はじめて、
とてつもないところに来てしまったと感じるのです。
大方の人は、皆そうかと思いきや、意外とみなさん、淡々とした表情で、門に
入って行くのです。
男の子は、もう泣きだしているのかと思ったら、これもまた意外と、じっと門の
向こうの川を見つめているようでした。
しかし、川の途中からの向こう側は、厚い霧に覆われてしまっていて、まったく
見えていませんでした。
これがまた、ぼくの恐怖心を増長させていたのです。
でも、きっと、僕の顔にも、表情というものはなかったのです。
そこに気が付くのには、ちょっとだけ時間が要りました。
つまり、ぼくはもう、生きてはいないのだと。
でも、ならば、この子はやはり、少しおかしいのかな、そうも、また思ったのです。
ぼくは、小さな「くまさん」をだっこし、大きな「ぱっちゃくん」を背内におん
ぶして、その男の子の手を引きながら、大きな門に近づいてゆきました。
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