第5話 『旅立ち』その5
なぜ、ぼくが殺されなければならないのでしょうか。
10年以上前に、会社全体を巻き込んだ大スキャンダル事件が起こりました。
いくつかの、地方の支社が、勝手な会計処理をしていたのです。
数人が逮捕され、複数の自殺者が出ました。
結局、事件当時のある支店長が主犯として上げられ、なんとか終結に至りました。
ぼくが在籍していた場所では、逮捕者や自殺者などはいなかったのですが、世間様からも随分批判にさらされました。まあ、当然の事です。天罰です。
もしかしたら、この事件に、何か関係があるのでしょうか?
とはいえ、ぼくが殺されるような事柄には、まったく思い至りません。
それとも、ぼくが引き起こした、あの恋愛問題でしょうか?
でも、これは全く個人的な事柄で、結局彼女は、何方もふってしまったのですから。
しかも、さっき、会ったばかりですから。
つまり、どっちにしても、怨まれる余地がありません。
どうも、こうした問題ではなさそうです。
きっと、もっともっと、個人的なモノでしょう。
どこかで、知らない間に怨まれていたに違いありません。
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そこは、もう、騒然とした場所でした。
川を渡ろうとする人たちと、それを見送る、ぼんやりと霞んだ人たち。
多くの人が泣き叫んでいます。
なんだか、人間の最後の涙と、砂ぼこりがまじりあって、霧が立ち上ってさえもいるようなのです。
その周囲には、お店がいくつか並んでいます。
「さあ、これが最後のお買い物だよ!」
店先でおばあさんが叫んでいました。
ぼくは、鬼さんから教えられた、『ばあやの店』を探しておりました。
それは、あっと言う間に見つかりました。
その、叫んでいたおばあさんのお店の上に、でかでかとした文字で、そう書かれていたのですから。
ぼくは、男の子の手を引いたまま、そのお店に向かいました。
やかましい鬼さんたちも、これにはまったく、無反応だったのです。
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