第22話 絶交

 次の競技の変化魔法が終了した。評価はダントツで一位だ。でも油断は出来ない。またルドルフ達に点を超されるかもしれないからだ。もしそうなったら次の競技からは全て一位を取るしかない。いくら力を温存していたからと言って、それはティカにとって酷過ぎるからな。だからここはルドルフ達の邪魔をしに行くとしよう。

 と思いながらルドルフ達が居るであろう選手控え室へ向かおうとするとーー


「ガリルー?どこに行こうとしているんだーい?」


 オレの考えを詠んだらしいティカに肩を掴まれた。


「と、トイレ?」

「何故に疑問系?」

「お手洗いに行ってまいります」

「口調がいつもと違うよ?」

「…………」


 さすが親友。全てお見通しか。


「ガリル、俺を信用出来ないのか?」


 そう言ってティカはオレの肩を掴んでいる手に力を入れる。


「いや、決してそういうわけではない。でもオレはどんな手を使ってでもお前を優勝させたい。それとーーいや、何でもない。とにかくお前を優勝させたいだけなんだ」

「…………バカ」

「へ?あだっ!?」


 頭頂部を思いっきりひっぱたかれた。

 何故オレは頭を叩かれたんだ……?

 そう思っていると、ティカは訊ねる。


「何で頭を叩かれたんだ?って思ってるでしょ?」

「うっ……」


 まんまの事を当てられて息を詰まらせる。


「やっぱりね……ガリル、ここから出てって」

「待て、どうして怒ってるんだ?」

「その理由を考えさせる為に君をここから出すんだよ」


 えー……


「ほらーー」


 ティカに背中を押される。


「ーー早く出ていって」

「……分かったよ」


 釈然としないまま、オレはとぼとぼと競技場を出るのであった。














「ったく、あいつは何を考えているんだ……」


 理不尽に思い、ぶつくさ呟いて校舎裏を歩く。


「てか競技場から出すことはないだろ。オレはサポーターなんだぞ?もしお前が負けたらオレが責められるだろうが……」


 本当に何を考えているのか分からない。


「そもそも、勝つために色々と手を尽くす事の何が悪いんだ?」


 オレ達魔族ならそんなの普通にする事だ。それは人間も同じだろうに。

 いや、でもそうじゃないから怒ったのかもしれない。

 それならティカに謝らないといけない事はこの姑息な手を使おうとした事だろう。

 でも魔族間で日常茶飯事だった事を謝罪するのは釈然としない。


「うーん……」


 けれど謝らないと仲直りが出来ないわけで、やはりオレが取るべき行動は一つだけである。


「よし、戻るか」


 そう決めて競技場へ戻るべく踵を返す。

 直後、オレはまた黒装束のヤツらに囲まれている事に気付いた。しかも今度は十人もいる。


「返答が無いのは分かっているが、取り敢えず訊いておく……お前らは何者だ?」


 が、当然の如く黒装束共は何も答えない。

 仕方ない、殺すか。

 幸い、周りには一人も居ない。だからすぐに終わらせれば誰にもバレる事は無いだろう。けれど大きな攻撃や魔法を使ったら誰かが見に来るかもしれないので、静かに且つ敵が攻撃を仕掛けて来る前に殺す事にする。


 敵達が片膝と両手を地に突いた。これはあれだ。つい数時間前に使用していた土壁の魔法だ。それでオレを捕らえるつもりなのだろう。


 オレは無詠唱で敵達の背後に転移する。

 そして敵達がこちらに気付く前に闇属性の呪いが込められたダガーを十個生成し、それを敵達全員の腹部に向かって魔法で飛ばし、突き刺す。

 するとすぐに敵達は障気の黒霧に包まれた。そして数秒して黒霧が消えると敵達の姿も消えていた。


 フゥー、と息を吐く。そして競技場に戻るべく踵を返したらーー


「ガリル……」


 怖い顔のティカがいた。

 見られた!?


「殺したの……?」


 ティカが鬼のような形相でこちらに歩いて来る。


「ねえ、殺したの?」


 マズい……マズいマズいマズい!!何て答える!?今更嘘は吐けない!けど正直に答えたら絶対にティカは激怒する!そうなると確実に絶交だ!!


 どうするべきか考えているうちにティカに両肩を掴まれた。その彼女の目にはうっすらと涙が浮かんでいて、それが今にも溢れ出しそうだ。


「殺したのかって訊いてるだろ!!」


 そう言ってティカはオレの体を前後に揺らす。


「答えて……答えてくれ!!君は今の人達を殺したのか!?いや、その前の人達も殺したの!?」


 ……仕方ない。


 無言で頷く。


「このーー」


 オレはティカに左の頬を叩かれた。


「ーーバカ野郎!!」


 頬を押さえる。

 痛い……ヒリヒリする。でもそれ以上に……心が痛い。あまりの痛さに気絶しそうだ。


「何で殺したんだよ!!」

「……殺さないと殺されていたからだ」


 そう、相手がこちらを殺す気でいるのなら、こちらもそれ相応の覚悟で戦うべきである。

 これはオレの歴史なのだが、オレに戦いを挑む者ーーつまり勇者は全員オレを殺す気でいた。オレはそんな勇者を何人も屠った。それが敬意だと思って……だからオレは間違っていないはずだ。それなのに……それなのにどうしてお前はこんなに怒っているんだ。どうしてお前は泣いているんだ……


「バカ……ガリルのバカ!!バカバカバカバカ!!」


 胸を叩かれる。両手で何度も叩かれる。でも痛くない。それは心が痛いからか?それともティカの力が弱いからなのか?

 ……分からない。オレには何も分からない。でも謝るべきなのは分かる。


「……ごめん」

「……どうして謝るの?」

「オレが悪いからだ」

「何がどう悪いの!?それ分かってる!?」

「…………」


 オレは正しい事をしたはずだ。だから何がどう悪いのか分からないし、答えられない。

 そんなオレを見てティカは更に涙を流す。

 そして三歩下がってオレから離れ、こう言うのであった。


「もう……話し掛けないでくれ……」

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