第21話 嘘
「転移魔法!?」
オレの言葉に焦りと驚愕の表情を浮かべるティカ。このままではすぐに見知らぬ地に転移させられるかもしれないんだ。そうなるのも無理はない。
「あぁ、このままじゃマズい」
敵の目的は分からないけど、もし転移先が上空何千メートルとか、脱出不可の監獄とかだったら最悪だ。その場合、オレ達はきっと死ぬか惨たらしい殺され方をする。それだけは本当に勘弁だ。
一応、オレは死ねばまた何千年かの眠りに就くだけだから良い。でもティカはそうじゃない。死んだらそこで全て終わりだ。
親友には長生きして欲しい。だからそう簡単に死なせるわけにはいかない。
となればここは必殺技を使うしかなさそうだ。
「ティカ、耳を塞げ。それともしバフ系の魔法を使用していたら今すぐ解除して、魔具を装着しているのなら全て外して地面に置け。でないと危険だぞ」
「な、何をするつもーー」
「時間が無い!後五秒でしろ!!」
「わ、分かった!」
ティカは慌ててオレの指示に従う。
オレが行おうとしているのはある意味最凶最悪のカウンター系闇魔法だ。その魔法を使ったら、詠唱を耳にした者は精神に異常を来して廃人になり、カウンターを食らった者は確実に死ぬ。
因みにカウンターを食らう対象は魔力を放出中の者に限る。だからティカにはバフ魔法の解除を頼んだ。
魔具を外された理由については、魔具が常に装備している者の魔力を吸っているからである。魔力を吸われているという事は、魔力を放出しているのと同じなのでカウンターの標的になる。外さないと危険だ。
「もう良いぞ!」
「了解、じゃあ耳を塞ぐんだ」
「あ、あぁ!」
さて、やりますか。
心の中で呟いた後、詠唱をーー
「いや待て!」
開始しようとしたら途中で止められた。
「どうした?」
「お前……殺すつもりじゃないよな……?」
「…………」
そう言えば人間って殺しに抵抗を持つ生き物なんだっけ……
恐る恐るという感じの声を聞いてそれを思い出す。
人間は殺しを嫌う。同種に対しての殺しはより一層嫌う。それはティカも同じなはずだ。でも殺さないとオレ達が殺される可能性がある。そうなるぐらいなら敵を殺した方が何倍もマシだ。となると、ティカには本当の事は言わないでおいた方が良いだろう。そして殺してすぐにヤツらを転移させれば良いだけだ。そう、敵共が生成したこの壁が崩壊する前にーー
「大丈夫だ。殺しはしない」
至っていつもどおりの声で返す。
「それは安心した。じゃあ頼む」
「おう!」
すまない、ティカ。
心の中で謝罪。嘘を付いた事で僅かばかり胸が締め付けられる。
「ではーー」
そして脱出と殺害、転移魔法の解除は無事成功した。もちろんティカにはバレていない。それだけは幸いだが、その一部始終を見ていた者がいたのは災いだった。その事を知るのはこれから数時間後の事だ。
「何だよこれ……」
競技場へ戻り、オレは驚愕する。その理由はティカの圧倒的スコアが僅差でとあるクラスに抜かれていたからだ。そのクラスはあの年下サキュバスことナルルのいるクラス。しかも選手はナルルときた。
アイツ、まさかの優等生だったのか!?いや、サポーターが優秀なのかもしれない。
そう思いながら競技場中を見回す。
きっとサポーターはナルルの隣にいるはず。ソイツを確認できれば良いのだが……
ふと、ルドルフの姿を発見した。
彼は競技場の隅で誰かと話をしている。
目を凝らしてルドルフの右隣にいる相手を確認すると、そこにはナルルがいた。
「まさか!?」
「そのまさかよ」
嫌な予感が過ったところで背後からロリ声が聞こえた。その背後を振り返るとシェルがいた。彼女は忌々しげな表情でルドルフを睨んでいる。
「あのバカ、あたし達を裏切って他クラスの代表のサポーターをしてるのよ」
「マジでバカだな」
頭がおかしいにも程がある。でも何故ルドルフはナルルのサポーターをしてーー
「ーーっ!」
ここで思い出す。ルドルフが『もうどうなっても知りませんからね!』と言っていた事を……
「あのバカ本当にバカだなぁっ!!」
「ん、何か思い当たる節でもあるの?」
最悪だ!この事態を招いたのがオレってところはもっと最悪だ!これがバレたらきっとオレは大顰蹙を買う!!そうならない為には……
「ま、全くないぞ?」
「何で疑問系?」
訝しむような表情で訊ねるシェル。
「いや、本当に全くないから」
これ以上墓穴を掘らないよう真顔で答える。
「……そう、とにかくあのバカには後でお仕置きをする必要がありそうね」
いつものバカ面に戻るとシェルはそう言って去っていった。
一先ず安堵。胸を撫で下ろす。
「本当はあるでしょ?」
さすが親友と言うべきか、ティカだけはオレの嘘に気付いたらしい。
コイツには嘘を吐けないな。
「……バリバリある」
「やっぱりか。それで、原因は?」
「それはーー」
ルドルフが裏切った原因はティカにもある。もしそれを知ったらきっと競技に支障が出るだろう。なのでーー
「ーー秘密だ」
と言う事にした。
それを聞いてティカは釈然としない表情を浮かべる。しかしすぐに「そっか」と言ってどこかへ歩き始める。
もしかして怒ったか?
そう思っていると、ティカは立ち止まり身を翻してこちらを見た。
「次の競技が始まるよ。早く選手控え室に行こう」
そう言うとティカは再び歩き始める。
「お、おう!」
どうやら怒ってはいないらしい。
それが分かってホッと安堵する。
そしてオレは急いで歩き、ティカの右隣に来ると彼女の歩く速度に会わせて選手控え室へ向かうのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます