第20話 謎の黒装束連中

 開会式が終わり、第一試合の時間が近付いていた。

 最初の競技は射的。内容としては、魔法で作成した偽物の小鳥を魔法で撃ち落とすというもので、その撃ち落とした数で順位を決める。

 因みに使える魔法は直径三十センチ未満のファイアボールのみ。それ以外は認められない。逆に言えば、それだけを使うのならどんな手を使っても大丈夫だ。

 更に因みにだが、場所はお馴染みの円形競技場で、選手はその中心で鳥を撃ち落としまくる。


 フゥー、と息を吐いて表情を引き締めるティカ。そしてこちらを見据える。


「ガリル、作戦は?」


 既に作戦は立ててある。だがそれを変更するなら今のうちだぞ、と言うかのような質問をするティカ。


「今のところ作戦の変更は無い。そもそもお前のスペックが高過ぎるから本当はそんなのいらないんだ」


 それを聞いてティカは頬を赤く染めた。きっとオレが適当におだてていると思って憤りを覚えたのだろう。でもこれは本当の事なので真顔のまま続けさせてもらう。


「でも計画どおり初戦は周りの様子見と魔力の温存の為に手加減して戦え。分かったな?」


 それを聞いてフッと笑うティカ。


「何がおかしい?」

「いや、ただ俺がどれだけ君を信頼しているのかを自覚しただけだ」


 ここ数日でオレとティカはかなり互いを信頼するようになった。今日に至るまでに行った事は、共に食事、互いの部屋をお邪魔する、一緒に寝る。一番最後のはただ特訓で疲れていつの間にか二人野外で寄り添って寝ていたってだけではあるが、それらを一緒に行ってゆくにつれてオレ達はまるで家族のようになっていった。ティカはその全てを思い出したのだろう。それと同時に、それらをする仲になった事があまりにもおかしくて笑ったのだと思われる。


「魔王と王女がここまで仲良くなるのは異常だよな」


 魔王は国を滅ぼす側で、王女は国を守る側。その二つが相容れる事は絶対にない。それなのにオレ達はここまで仲良くなった。これを異常と言わずして何と言う。

 その異常さに思わずオレも笑みを浮かべる。とは言っても苦い笑みだ。


「確かに。でも俺はこうなれて良かったと心底思っているよ」

「どうして?」


 立場上、逆の事を思うのが普通のはずなのだが……


「それは祭りが終わったら話すよ」

「またそれか……でも分かった。だから今はーー」


『次はティカ・シェトロハイム君です!!』


「行ってこい!」


 アナウンスの後、ティカに発破をかけるように彼女の背中をバシッと叩く。


「おう!」


 そしてティカの第一競技は始まるのであった。













 競技場の中心で持参した黒革手袋を両手に嵌めるティカ。それから間もなくしてティカの正面五十メートル先、五メートル上に浮いた四つの赤い光の玉が一つずつ消えてゆく。

 ティカの周りには既に沢山の魔法で造られた鳥達が羽ばたいている。計百匹はいるだろう。

 そして最後の玉が消滅すると同時に、心臓に響く程の大きな爆発音が鳴り響く。

 その瞬間、ティカは両手を左右に広げ、手袋の上に赤い魔方陣を生成し、火の玉を物凄い数と速度で乱射し始める。その速度たるや雷の如く、その数たるや片手で秒に六個。


 これで手加減してるのだから、化け物としか言いようがないな……


 みるみるうちに焼滅してゆく標的。次々と新しい標的が生成されてゆくが、それが間に合っていない。

 そして後り数匹で全滅というところでブーーー!!という競技終了音が鳴り響く。










 ティカの競技が終わった後、オレとティカは無駄に広い校庭を散歩していた。現在も競技は引き続き行われていて、殆どの生徒はその競技を観戦しているので、周りに人は殆どいない。敢えてそんな場所を選んだ。その理由はもちろん次の作戦を練る為だ。それとティカに休息を取ってもらう為である。


「手加減したのに現在の順位は一位か……」


 彼女の順位は現時点でトップ。しかも二位との差は圧倒的。このまま何も起こらなければティカは射的競技で一位になるだろう。そしたらオレ達クラスはかなり優位に立てる。魔力を温存しての一位だからそれは尚更だ。


「さすがだな」

「君が特訓に付き合ってくれたおかげさ」


 それもあるのかもしれない。けれど競技に出たのはティカだ。だからこれはティカ自身の実力である。なのでーー


「ーーそう謙遜する事もない。お前は凄いよ」

「そ、そうかな?」


 お世辞と思ったのか、心配げな表情で質問するティカの頭にポンと手を置いて軽く髪を撫でる。そして笑みを浮かべながらオレはこう答える事にした。


「あぁ、お前は凄い。親友としてとても誇りに思うよ」

「親友……?」

「そうだ、親友だ」

「…………」


 何故か俯いて黙り込むティカ。もしかしてあまりにも照れ臭くてオレの顔を見る事が出来ないのだろうか。


「……そんな関係は嫌なんだけどなぁ……」


 ぼそりと呟くティカ。


「ん?ごめん、もう一度言ってくれ」


 聞こえなかったのでそう言うと、ティカは顔を上げて軽くこちらを睨んだ。


「ガリルのバカ!」


 えー、何で怒ってるのー?


 そう訊ねたいところだが、更に不機嫌になりそうなので、それは止めておく事にする。


「「っ!?」」


 ここでオレ達は気付く。

 いつの間にか黒装束の六人に囲まれている事にーー


「ガリル、コイツらは君の知り合いかい……?」

「いや、知らんな。そっちの知り合いじゃないのか?」


 首を横に振って答えた後、周りの敵達を睨みながら訊ねる。


「違う。こんなヤバそうなヤツらは知らない」


 やはりティカは否定した。


「なら本人達の口から聞くしかなさそうだな」

「そのようだね」

「倒すのは半々?」

「俺はそれで構わない。あっ、何なら全員倒してあげても良いよ」


 これほど自信を持たれると全て任せたくなるじゃないか。けどそれじゃあティカを無駄に疲れさせてしまう。そうなるとオレ達クラスの優勝に影響が出そうなのでーー


「ーーそんな事させられるかっての。それよりとっとと片付けるぞ!」

「おう!」


 ティカの返事を聞くや、無詠唱魔法で右四メートルの位置にある花壇を囲っている長方形の石を三つ浮かせて、オレの前方にいる三人の敵に向けて飛ばす。すると三人の頭部に直撃した。


 瞬殺だったな。


 そう思ったが、三人が倒れる事はなかった。寧ろ石が直撃した瞬間、石の方が崩壊ーーいや、爆砕した。


「カウンター系の障壁を予め身に纏っていたか……」


 あまりの忌々しさに自然と舌打つ。


「ティカ、気を付けろ。コイツら手練れっぽいぞ」


 カウンター系の、特に標的を爆砕する系の障壁を生成するにはかなりの魔力を要する。それにその障壁は熟練した者にしか扱えない代物だ。そんなものを予め使用していたという事は、つまりかなりの手練れである。これは気を抜いたら殺られる。


「分かってるさ」


 ティカがそう返した直後、敵達が一斉に地面に片膝と両手を突いた。

 次の瞬間、オレ達の周りの土がドーム状に盛り上がり、オレ達を閉じ込める。


「ティカ!大丈夫か!?」

「あぁ、俺は何ともない。それよりここからどうやって抜け出す?」

「うーん……この壁、確実にただの壁じゃないよな?」


 手練れ六人で造ったものなんだ。確実に普通の土壁より硬い。


 壁の右側を右手の指で二回叩いてみる。

 すると分厚い物を叩いた時のような鈍い音が聞こえた。

 今度は人差し指で引っ掻いてみる。

 全く土崩れしない。指に土が付着する事もない。


 ほらやっぱり。


「ガリル、魔法でこの壁を壊せる?」

「可能だ。でもその場合、お前は死ぬ事になるぞ」

「そ、それは勘弁願いたい……」


 暗くて見えないが、今ティカはかなりひきつった顔をしているだろう。声だけでそれが分かる。


「因みにその魔法とは自爆だ」

「尚更勘弁してくれ!!」

「ははっ、分かってるって!それより、敵さんはオレ達を閉じ込めて何をしようとしてるんだろうな」

「さあ?一体何をするつもりなんだろーー」


 ティカがそこまで言ったところでオレ達の足元にオレンジ色の魔方陣が現れた。


「この魔方陣は……?」


 不思議そうな声色で訊ねるティカ。


 これは……


「……転移魔法だっ!」

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