第18話 約束
ティカがオレの右手を握手する形で掴んだ。
「俺は特殊なアビリティを持っている」
「と、特殊なアビリティ……?」
「そう、それは触れた者の過去を見る事が出来るというものでな」
「っ!?」
マズい!オレが魔王だって事がバレる!!もしバレたら……また封印だ!!
「だからお前の過去を知る事も可能だ」
そう言うとティカはニヤリと笑った。
直後、オレの脳がスパークを起こし、思考が纏まらなくなる。
まるで何かに脳内を蹂躙凌辱されているような気持ちになる。しかもこの脳の痺れがまた心地良い。逝っている時の感覚と同じような快感がある。
「あ……ああああ……う、うそ……」
ティカの顔から血の気が一気に失せた。
絶望ーー彼女の今の表情を言葉で例えるならそれしかない。
ティカが手を離し、ガクガクと震える足で二歩後退して尻餅を突いた。
「おおおおお、お前……ままま、魔おーー」
「ちょーっと待て!!色々とマズいからそれから先は口にするな!!絶対に口にするな!!でないとどうなるか想像は出来るだろ!!」
震える左手でこちらを指差して『魔王』という単語を発そうとするティカを脅す。
するとティカは左手を下ろしてコクコク頷いた。
取り敢えず一難去ったのでホッと一安心。
それにしてもどうしたものか……秘密を知られたからには口封じする必要がある。その方法として最も良いのが殺害なのだが、相手はこの国の王女だからなぁ……それならーー
「ひ、一つだけ訊いても良いか……?」
「なんだ?」
「お前……この国をどうするつもりなんだ……?まさか崩壊させるつもりなんじゃーー」
「それは無い」
ティカが言い切る前にはっきりと答える。
「オレはお前ら種族と仲良くしたいと思っている。だからそれは本当に無い」
まあ、また封印されたくないからそう思っているだけなんだけど。
「じゃあこの秘密を知った俺を殺すつもりはーー」
「無い!これは自信を持って言える!!」
「ど、どうして……?」
『どうして?』だって?そんなの決まってるじゃないか。
「それは……お前がオレの好みの女性だからだ!!」
これは本当の事だ。もし出来るのならオレの嫁にしたい。良い体してるし、男装女子というところも高評価だ。もしティカの魅力を百点満点で評価出来るのなら、二百点を付けてやりたい。それぐらいティカはオレ好みだ。
「…………」
オレの言葉が理解出来なかったのか、ポカンと口を開けて固まるティカ。
それから約十秒後、時間差で理解したらしく、顔を蒸気爆発させる。
「ななな、何を言っているんだ貴様は!?馬鹿か!?馬鹿なのかっ!?」
いや、オレはただ正直に答えただけなのだが……てか照れすぎだろ。
「まあ、落ち着け。兎に角オレはお前を殺すつもりもこの国を崩壊させるつもりもない。ただ普通に暮らしたいだけなんだ。だからオレの秘密は誰にも言わないでくれ。オレもお前の秘密は誰にも話さないから」
「……分かった」
安堵の息を吐いた後にそう答えるティカ。これにて一件落着だ。
そう確信した瞬間、ティカはこう続ける。
「じゃあ祭りの日が終わるまで付き合ってくれるのなら考えても良い」
「…………はあっ!?」
な、何言ってんのこいつ!?付き合ってくれるのならって、それってまさか交際の申し込みか!?もしそうなら吝かではないが……でも急すぎるだろ!!てか今までの流れでどうしてこうなるんだよ!?お前こそ馬鹿じゃねえの!?
そんなオレの考えを詠んでか、ティカは慌てた様子で両手と頭を振ってこう訂正する。
「ま、待て!付き合って、と言うのは魔法の特訓に付き合ってくれという事だ!決して交際の申し込みではない!!」
「お、おう……」
良かった、こいつが本物の馬鹿じゃなくて……
「それで、どうするんだ?付き合うのか?付き合わないのか?」
若干不機嫌気味に腕を組んでそっぽを向きながら訊ねるティカ。そんな彼女に言うべき言葉はきっとこれしかないのだろう。
表情を引き締める。
そしてーー
「分かった、付き合おう!」
オレがそう言うとティカの表情がパァーッと明るくなる。
「おう!!」
これにて一件落着だ。
「と、ところで……」
オレの下半身を見ながらモジモジするティカ。
いったいどうしたんだ?
そう思っていると彼女はオレの前でしゃがみこんで言う。
「さ、触ってみても良い……?」
「ダメだ!!」
当然、彼女の頭をひっぱたかせてもらいました。
「それでは祭りの代表選手はティカ君にけってー!」
クラス中の生徒が激励の意味も込めて盛大な拍手をする。もちろんオレもだ。
「そう言えばガリル様」
非常に不服そうな顔で拍手するルドルフがこちらに声を掛ける。
「ん、何だ?」
「更衣室から戻ってくるのが遅かったようなのですが……まさかあの王子と何かあったのですか?」
こいつ鋭いな。
オレの事をいつも気遣ってくれているだけあって、オレの異変には直ぐ様気付く。さすが側近というところだろうか。
ーーいちおうわけを話しておくか。
「まあな。ただ祭りの日が終わるまで魔法の特訓に付き合うだけだよ」
「なっ!?」
驚愕の後、ティカを睨むルドルフ。そんな彼の頭頂部に軽いチョップを食らわせる。するとルドルフは「あうっ」と言った後、頭頂部を両手で押さえてこちらにジト目を向けた。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「何だよ」
「何でもありません!」
不機嫌そうに答えると、ルドルフは頬を膨らませる。
「もうどうなっても知りませんからね!」
ルドルフがそう言ったところで今日一日の授業は終わった。そしてこれから帰って寝ようかと考えたところでーー
「おい、ガリル!」
やはりと言うかティカに声を掛けられる。
声の聞こえた右方向を目を向けると、ティカがこちらに歩いて来ていた。
「これから特訓するぞ!」
「了解した。どこでする?」
「競技場だ。あそこでなら決闘も出来るからな!」
「分かった。では行こうーーん?」
ふとルドルフを見ると彼女は相変わらず不機嫌そうな表情をしながら去って行った。
「どうした?」
「いや、何でもない」
何か気になるが……まあ、良いか。
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