第16話 勝負
「一応確認します。お切りしてもよろしいでしょうか?」
「ダメに決まってるでしょうが!!てかあんた男性の陰茎握って抵抗感じないのかよ!?」
それを聞いてメイドは頬を赤らめて僅かに顔を伏せる。そして数秒して再び顔を上げると言う。それはもうとても冷ややかな目で。
「承知しました。お切りします」
オレの陰茎を掴む手に力を入れる。
「ひゃんっ!?」
そしてメイドはーー
「ではお切りしまーー」
ーーオレのナニを切らずに姿を消した。
一体何が起きたんだ……?
そう思っていると、更衣室の扉が開いた。
「ガリル様ー!やっぱり背中をお流し致しまーーん?」
そこからルドルフが入って来る。
「どうしたんですか?」
「何でもありません」
ハテナマークを頭の上に浮かべるかのように首を傾げるルドルフにいつの間にかティカの背後に戻っていたメイドが答える。
お前は隠密か!そしてルドルフありがとう!
心の中でメイドに突っ込みを入れつつルドルフに感謝する。
「ですよね、ガリル様?」
「あ、あぁ」
言ったら殺す、と言わんばかりの眼光をこちらに向けるメイドに恐怖を覚え、反射的に話を合わせる。するとティカは不機嫌気味に鼻を鳴らしてシャワールームの一番奥の個室に入って行った。
間一髪ってこの事を言うんだろうなぁ……
心底思うオレであった。
『では競技を始めます!』
その司会の言葉にクラスメート達は歓声を上げる。その熱とは対照的にオレの心はまるで氷のように冷めていた。自分のこれからの学園生活に関わる事なんだ。そうなるのも無理は無いというものだろう。
まずは良い感じに詠唱して途中で然り気無く噛むか。
そう決めてオレは競技に取り組む事にした。
『詠唱するのはこの呪文!』
席に付いているオレの机の上に皮紙が置かれる。その皮紙には呪文がびっしりと書かれていた。大体三百文字ぐらいは書かれているだろうか。それを見てオレは、この呪文はなかなか強力な攻撃魔法なのだろう、と悟る。
『これは相手を肩こりにする魔法の呪文です!これをくらったら一週間は肩こりに悩まされるでしょう!』
「しょぼっ!?魔法しょぼっ!?」
なかなかの文字量に対する代価の悪さに思わず突っ込みを入れる。
『うるせえよこのハゲ!』
「ハゲてねえよ!!」
『それではカウントダウンがゼロになったら始めてください!行きますよー?三、二、一……ゼロ!!』
「って、流されたし唐突に開始されたし!!」
「この世の全てを治める神よーー」
司会に全力で突っ込みを入れている間にティカが詠唱を始めた。
「あー、もう!!この世の全てを治める神よーー」
思いっきり遅れてオレも呪文の詠唱を始める。
とは言え、オレ、高速呪文詠唱が得意なんだよなぁ……だから確実に追い抜いてしまう。どこで噛んだものか……
ティカの詠唱速度はなかなかのものだ。だがどんどんオレとの差が埋まって行っている。このままでは本当に追い抜いてしまう。
ともすればここかな?
「~~我、汝の命によって魔ほぅっ!?」
よし、上手い具合に噛む事が出来た!
こちらを見てニヤリと笑うティカ。どうやらオレの演技はバレていないらしい。
そしてティカは最後の一節を読み終え、オレに魔法を掛ける。
「食らえ!フィジカルブレイカー!!」
魔法が発動した瞬間、オレの両肩に痛みが走った。しかも思いの外強力な魔法だったらしく、まるで四十肩のように腕が上がらない。
『おーっと!ティカ様の魔法が炸裂したぁー!!これにて第一回戦は終了となります!!』
よし!
心の中でガッツポーズしながら項垂れるふりをするオレであった。
次にレースがあった。
最初は良い勝負をしていたが、最終的にオレがミスをしてティカが勝利した。
そしてーー
『さー!最後は決闘となっております!果たしてどちらが勝つのか!?これは見ものです!!』
コロシアムの中心で十メートル程の距離を置いて睨み合うオレとティカ。
因みに、勝負のルールでは先に二勝先取した方の勝利という事になっていたが、ティカが力の差を見せ付ける為、という事で決闘をする事になった。
力の差を見せ付ける、か……ここはそうするとしよう。どうせティカの勝ちなんだ。ここで勝っても文句は言われないだろ。
そう思った瞬間、ティカがこちらに真っ直ぐ向かって来た。もしかしたら肉弾戦をご所望なのかもしれない。
それならそれに応えるしかないよな。
「せああああああ!!」
最接近したところでティカはオレの鳩尾に向けて掌低を放つ。
後ろに跳んで難なく避ける。そして大技を放った直後で動けないティカの所へ猛ダッシュ。そしてティカの腹部に渾身の右膝蹴りをお見舞いする。
「はぐぅっ!?」
上手くティカの腹に当たり、ティカはくの字になった。
そこからティカの後頭部に体重を乗せた肘打ちを食らわせる。
するとティカはそのまま気絶した。
あまりの呆気なさに静まり返る場内。
拳を天に突き上げて勝利のポーズ。
それから数秒遅れて会場は沸き上がった。
更にガリルコールが始まる。
な、なんて気持ちの良いコールなんだ……
あまりの快感に思わず体がブルッと震える。
「うおおおおおお!!」
そして雄叫びを上げるオレであった。
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