第15話 宣戦布告

 それから飛行魔法の速度と高度の測定、火・水・風魔法の威力測定、魔法耐性の測定でことごとくオレはティカに勝利した。


「これで能力測定は終了です!皆さん、お疲れ様でした!」

「「お疲れ様でしたぁー!!」」


 リリちゃんの労いの言葉の後、女子共は声を揃える。

 これでこの水着地獄から逃れる事が出来る。そう思って安堵したのも束の間、リリちゃんはこう続ける。


「それでは今週末にあるセルティナス祭の代表生を発表しまーす!」


 セルティナス祭……?何だそれは?

 そう思い、説明を求める為、左に立つルドルフに目を向ける。


「……はっ!?ガリル様が私に熱い視線を向けている!こ、これはもしや!?」

「違ぇよ!セルティナス祭についての説明を求めてるだけだから!」

「チッ!」


 変な解釈を訂正すると、ルドルフは悔しそうに舌打ちした。

 この野郎……張り倒してやろうか?

 でも人前で、ましてや女性達が見ている前でそんな事をしたらオレの学園生活が破滅の一途を辿る可能性があるので、グッと堪える事にする。


「セルティナス祭とは、所謂学園祭のようなものです。因みにどんな内容の祭なのかと言うと、それは各クラスの代表同士が競い合って点を取り、総得点が最も多いクラスが最も優れたクラスと認定されるだけのもの……まあ、大規模参加型の競技大会みたいなものですね」


 さすがルドルフ、とても分かりやすい説明だ。


「そうか、それで代表はどうやって決めるんだ?これから何らかの種目で競い合うのか?クラス内で」


 能力測定をしたばかりで大体の人は疲れているはずだ。その状態で競い合うのは何か違う。

 そう懸念していると、ルドルフはこう答える。


「能力測定で大体の人は疲れているはず。この状態で競い合うのは不公平だ……ガリル様はそう思っているのでしょうがーー」


 よくオレの考えが分かったな。


「ーー心配ご無用です。何せ能力測定の結果で代表を決めるのですから」

「あはぁ、それじゃあ両方の意味での能力測定だったってわけか」


 一石二鳥だな。


「さすがガリル様!そのとおりでございます!」


 羨望の眼差しでこちらを見ながら小さく拍手するルドルフ。かなりうざいので止めて欲しい。


「それでは発表しまーす!」


 弾んだ声でそう言うリリちゃん。直後、場の空気が和やかなものから張り詰めたものに変化する。

 みんな代表に選ばれたいと思っているのだろう。オレとルドルフ以外の全員が表情を強ばらせている。中には両手に指を組んでそれを胸の位置まで上げて神に祈願する者までいる。


「代表はガリル・クルセイドゥス君に決定しましたぁー!皆さん拍手ー!」

「「おぉー!!」」

「まあ、当然よね」

「ガリル君、頑張ってね!」


 名前を呼ばれた瞬間、全員に嫉妬の眼差しを向けられると思ったが、盛大な拍手をされたので胸を撫で下ろす。がーー


「納得いきません!!」


 当然と言っちゃあ当然なのだが、ティカが食い付いて来た。しかもかなりお怒りのご様子で、右のこめかみには太い血管が浮かんでいて、眉間には深い溝まで出来ている。


「どうして万年代表生だった俺が選ばれないんですか!?」

「そ、それはですね、ガリル君が能力測定で最も良い成績だったからで……」


 不服だと言わんばかりに猛抗議するティカにたじたじになりながら答えるリリちゃん。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

 まあ、相手はこの国の王子様なんだ。下手したら教師生命が終わって無職になるかもしれないのだから、そうなるのも無理はない。

 可哀想だけど面白いからもう少しだけ傍観しておこう!


「でもアイツはーー」


 ここでティカは右手人差し指でこちらを指差す。


「ーー競技初心者なんですよ!?絶対どこかで失敗するから!!」

「貴様!!これ以上のガリル様への無礼は私が許さないぞ!!」


 あっ、ルドルフがでしゃばりやがった。でも面白いからこれも静観しよう。


「ああん?この王子の俺に楯突こうってのか?」


 そう言ってティカは右手を下ろす。


「はあ?私は王の側近だぞ?」


 【魔】王の側近だけどな。


「な、何だと……お父様からはそんなの一言も……」

「バーカ!私が側近になっているのはこの国のショボい王じゃなくて古代から存在するまおーー」

「はい!そこまでー!!」


 途中で嫌な予感を覚え、その予感ーーつまりルドルフが【魔王】という単語を発しようとする予感が的中する前に、二人の間に物理的に入って言い合いを止める。


「ガリル様、退いてください!でないとヤツを殺れません!!」


 そう言って俺の眼前まで顔を近付けるルドルフ。あまりの近さにギョッとしながら僅かに仰け反って彼から離れる。


「まあ、待てルドルフ。ここはセルティナス祭の競技で勝負して勝った方が代表として出るという事にすれば良いだけだろ」


 そしてそれなりに良い勝負をしていると見せかけてオレが負ければ良いだけの話だ。そしたらティカも納得するだろうし、オレもセルティナス祭とやらで見世物になる事もなくなる。


 実のところ、オレはセルティナス祭に出るのにかなりの抵抗を持っている。何故かと言うと、それはセルティナス祭に出て有名人になってしまったら、正体がバレて再び封印される可能性があるからだ。


 もし封印されてしまったらまた何千年と眠りに就かなくちゃならない。それだけはマジで勘弁だ。ともすれば、ここはもうそういう流れに持って行くしかない。そして負ければ良いだけの話である。


「それも、そうですね……」


 直ぐ様オレの考えを読んだらしい。ルドルフは不服そうではあるが、渋々オレの言葉に同感するフリをした。


「王子、これで文句はないだろう?」

「当然だ」


 ティカはコクりと頷く。


 勝負の許可を求めるべくリリちゃんを見る。すると彼女は考え込むように、うーん……と唸った後、苦笑する。


「分かりました。許可します」


 こうしてオレとティカが勝負する事は決まった。










「とはいえ、どんな内容の競技をするのかが分からないんだよなぁ……」


 オレとルドルフはいつぞやの競技場へと徒歩で向かっていた。その途中でオレはポツリと呟く。


「沢山ございますよ。例えば高速呪文詠唱とか、学園内に作られたコースを飛行魔法で走ったりとか、戦闘とか。恐らくですが、これからあのクソ王子と競うのはこれら三つかと思われます」

「へぇー」


 本格的だな……そして汗でベタベタして気持ち悪い。

 競技場の入口に到着したので、オレはシャワーを浴びる事に決める。


「ルドルフ、オレは汗を流してくるからお前はもう観客席に行ってろ」

「承知致しました。それではお背中をーー」

「いらん」


 即却下し、シャワーのある男子更衣室へと向かう。


 それにしても、どうやって負けようか?あまり簡単に負けるのは良くない、というかバカにしてると思われるだろうし、良い勝負をして間違って勝ってしまうわけにもいかない。


「うーむ……おっ」


 気付けば男子更衣室に到着していた。


「どうしたものか……」


 ぶつぶつ呟きながらシャワールームへ。そして適当に服を脱ぎ、個室に入ろうとしたところでティカがシャワールームに入って来た。


「あわわわわわ……」


 顔を真っ赤にしながらオレのモツをガン見するティカ。

 男同士だってのに何故そんなに恥ずかしがってるんだ……


「ああああああ……」


 ティカの目に涙が浮かんで来た。

 そしてーー


「あの汚らわしいものを切り落とせ!!」


 ティカがメイドに命令した直後、ティカの後ろにいたメイドの姿が一瞬で消えた。


「ひゃうっ!?」


 次にメイドが姿を現したのはオレの正面下。しかもいつの間にかオレのナニを右手で掴み、左手に持ったダガーで根っ子から切り落とそうとしていたーー

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