第14話 能力測定

 こうしてオレたちは測定会場へと向かうことに……と思ったが、どうやらその前に専用の運動着に着替えないといけないらしい。らしいのだが……


「なぜお前まで更衣室にいるんだ」


 オレの後ろを歩いていたルドルフが何食わぬ顔でオレの後ろを歩いてきていた。


「だってガリル様、一人じゃ着替えも出来ないじゃないですか」

「出来るわあ!!」

「でも子どもの頃はいつも私が着替えをさせていたじゃないですか」

「今は大人だ!」


 まあ、人間の時間で言うと何千年も生きているオレは既に老人になるんだけど。

 でも見た目は若いからそんな事関係ない。

 そう、関係ないのだ。


「あそこはまだまだ子どもじゃないですか」

「うっ、うるさい!!」


 コイツ痛いところを突いてきたな。だがオレは平均的な大きさだ。そんな事を言われる筋合いはない。と、思う。


「ガリル様の肉棒は五センチメートル-!」

「そんな短くない!!てかそういうお前はないじゃないか!」

「はっ……!」

「短小どころじゃないぞ。このちんこ無し!」

「で、でも胸はあります!大きいヤツが!!」


 倒置法を使いやがった!?そこまで胸を強調したいのか!?いや、まあ、今のルドルフの胸はかなりデカいけど……でもそれとこれとは話が別のような気がする。


「そうだな、じゃあ触らせてくれ」

「ガリル様の変態!!」


 えー、なんでー?お前本当は男なんだから別に触られても何とも思わないだろー。


「この凌○魔!レ○パー!鬼畜!クズ!短しょーー!!」


 言いたい放題文句を言うとルドルフは泣きながら走り去って行った。


「てか短小言うな……ん?」


 呟きながら更衣室のドアを開けると、着替え中のティカがいた。その隣には先ほどの怖いメイドもいる。


「な、ななな、何故貴様がここに来るんだ……」

「いや、ここ男子更衣室だから普通来るだろ」


 さて、さっさと着替えるか……って!


「えっ!?」


 オレは思いっきり驚愕した。何故か?その理由は……


「お前なんで女性用下着をつけているんだよ!!」


 そう、ティカが女性用下着を穿いていたからだ。

 上は体操着を着ているからブラを装着してるかどうか確認できないが、下の体操着はまだ穿いていないから、思いっきりパンティーが見える。しかも女の子らしい小さなピンクのリボンが付いた可愛い白パンだ。

 ティカはオレが指摘した直後、数秒青ざめた顔で固まっていたが、すぐに顔を真っ赤にして慌てふためき始めた、と思った瞬間目の前に大きなカーテンが広がり、ティカの姿が見えなくなる。


「変態だ!!ここに変態がいーーっ!?」


 人を呼ぼうとそこまで言ったところでメイドがオレの首筋にダガーを突き付けている事に気づく。


「静かにしろ」


 メイドが心臓に響くような低い声で命令する。


「ひっ!?」


 メイドの眼光の鋭さに自然と小さな悲鳴が上がる。

 これほど恐怖した事が今まであっただろうか?

 レッドドラゴンと対峙した時も、勇者にトドメを刺される直前も、親父に怒られた時もこれほど恐怖した事はなかった。となるとここまで強い恐怖を感じるのは初めてだ。


「大きい声を出したらお前を殺す。分かったな?」


 コクコクと首を縦に振る。するとダガーはオレの首筋から離れた。


「おい、ガリル・クルセイドゥス」


 カーテン越しにティカの震える声が聞こえる。


「なんだ?」

「見た……か?」

「ああ、見た」

「……誰にも言うなよ」

「大丈夫だーー」


 男なのに女性用の下着を着ているなんて恥ずかしい事知られたらおしまいだ。オレなら自殺して千年は甦らないだろう。だがティカは人間だから一度死ねばそこで終わり。となると方法は一つ、絶対に他の人に言わないよう口止めするしかない。


「ーーお前が女性物の下着を着る変態男だってことは誰にも言わないよ」

「えっ!?」

「ん、どうした?それだけじゃ不満か?」

「い、いや、なんでもない」

「???」

「と、とにかく誰にも言うなよ!!」

「はいはい」


 彼はいったい何に驚いたのだろうか?


「…………」


 まあ、知る由はないか。





 ここは天国か?いいや、違う。人によっては地獄だ。そしてオレはその二つのうちの地獄を味わっている。そして『これがルドルフの言った地獄なのか』と思い知る。

 何故そう思ったか?それは女どもが全員ビキニ姿だったからだ。しかもかなり際どく、布の面積が少ない。一応、あとぎりぎりのところで乳首が見えそうとか、あまりの布面積の低さに陰毛が見えそうとかではないが、明らかに面積が少ない。童貞のオレにとってこれは鼻血が出そうな状況だ。


「ガリル様、私の言った意味が分かりましたか?」

「ああ、分かった。マジで地獄だ、今すぐ帰りたい」


 女どもがキャピキャピしている姿を見ながら呟く。そして次の瞬間、何故か女どもと同じくビキニを着ているリリちゃんが現れる。


「ではこれから能力測定を始めます!」

「「「はーい!!」」」





 まずは魔法で鉄球を投げて瞬間的にどれだけの魔力量を放出できるかという測定が始まった。


「ティカ君、お願いします!」

「はい!」


 リリちゃんの頼みに呼応しティカが魔法で鉄球を持ち上げる。そして短く呪文を唱えた後、カッと目を見開いてフン!と唸りながら鉄球を飛ばす。


「「「おーーっ!!」」」


 飛距離はだいたい百五十メートル程。計測中、今までで最も飛んだ距離は六十メートルだったのだがティカはそれを遥かに上回りやがった。これには素直に驚く。

 ティカはこちらを見てフッと笑った。恐らく、お前もこれぐらい飛ばしてみろと言いたいのだろう。それならそれに応えるしかない。


「百五十五メートルですね。次、ガリル君!」


 リリちゃんは皮用紙に記録を書き込むと次はオレを名指しした。


「はい」


 さて、オレはこんな感じで能力測定をした事がない。なのでどこまで飛ばせるのか分からない。しかしオレは魔王だからここで凄いところを見せないとメンツが丸つぶれになりそうだ。なので本気を出させてもらうとしよう。

 鉄球を睨み付け、魔力で持ち上げる。そして進行先を見ると小さく『行け』と命令してそれを飛ばす。

 鉄球はまるで大砲から放たれたかのような勢いで空を飛び、弧を描いて地面に落下した。

 飛距離……百五十メートル付近。距離的にはティカと同等だ。

 さて、どちらの飛距離が長いだろうか。

 まだ力は戻っていないが本気は本気、真面目にやった。だからこれで負けていても悔いはない。だがショックはかなり受けるだろう。


「百五十七メートルです!」

「「「おーーっ!!?」」」


 よし、勝った。

 ティカを見ると、彼はかなり悔しそうに下唇を噛んでこちらを睨んでいた。

 ご愁傷様です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る