王子様

第13話 王子様

 オレが学園に編入させられてから早1か月。クラスや学園の雰囲気に慣れて来た今日この頃。そんな頃にとある行事が行われる事となった。その行事とはーー


「はーい、皆さーん!今日は能力測定がありますよー!」

「「「えーーっ!!?」」」


 そう、これだ。


 まあ、能力測定をするのは構わない。オレ自身、現在の強さを知る事が出来るからな。でも一つだけ気になる事がある。それは何故女子共は驚愕しているのかという事だ。それについてルドルフに説明させるとしよう。


「なあ、ルドルフ……能力測定ってそこまで驚くものなのか?」


 訊ねながらルドルフを見ると、彼女は顔を真っ青にして絶句し、口をパクパクさせていた。これを見るに、能力測定とはかなり絶望的な行事だと思われる。


「おーい、ルドルフー?」


 彼女の眼前で右手を振り、現実に戻そうと試みる。


「………はっ」


 現実に戻り、ルドルフは思いっきり頭を振る。そしてーー


「も、申し訳ありません、少々絶望に浸ってしまいました。それでどうしたんですか?」

「能力測定ってそんなに酷いものなのか?」


 ルドルフの反応的にはかなりのものだと思われるのだが、はてさて、いったいどんな感じに酷いのだろうか?


「ガリル様、男性にとっては修羅場が始まりますよ……覚悟しておいた方が良いです……」

「…………は?」

「ガリル様は何も知らないからそんなボケた面が出来るんですよ……あれは地獄、童貞のガリル様なら尚更地獄です……」

「お前、何げに酷くね?」


 ……まあ、童貞だけど。でも決めつけられるように言われるとかなり傷つく。正直、ルドルフを焼却処分にしたいぐらいだ。しかし彼女のような高ランクの魔族は、そう簡単には死なないから何をやっても結局は生き返る事になるのでその行為は無駄でしかない。こればかりは残念だ。


「それほど酷いんですよ!」

「そ、そうか」


 涙目のルドルフを見てかなり悲惨な事が起きるのだと理解する。


 これは覚悟せねばなるまい。


「本当に童貞のガリル様にとっては負担で仕方ないんです!童貞にとっては、そう!童貞のガリル様にとっーー」

「お前、絶対ワザと言ってるだろ!!」

「えへへぇー」


 ルドルフは悪戯っぽくはにかんだ。そんなルドルフの襟元を右手で掴んで彼女を持ち上げ、左手に拳を作る。


「すみませんすみませんすみません!ちょっとした冗談です!だから許してくださいぃ~!」


 そう言ってルドルフは目を閉じて歯を食いしばり、今から来るであろう痛みに耐えるべく、ん~~ん~、と唸り声を上げる。

 そこまでされると怒る気が無くなる。なのでルドルフから手を放す事にした。


「だ、だからガリル様は童てーー」


 もう一度ルドルフの襟元を右手で掴み、左手に拳を作る。


「ごめんなさいごめんなさい!!」

「………はあ」


 ガチで殴りたいところだがクラスメート達が見ている中でそれをするのは愚行でしかない。なので長いため息を吐いて怒りを吐き出す。そしてルドルフを下ろす。


「ガリル君、童貞だって!」

「私、ガリル君の初めてを奪っちゃおうかなあー?」

「でもガリル君にはルディがいるからなあ……」

「いやいや、ルディはただのパシリでしょ。となるとーー」

「「「「みんなでじゃんけんするわよ!!」」」」


 なんかオレの争奪戦が始まろうとしてる!?


「おい女子共!うるせえぞ!!」


 左斜め後ろーーつまり窓際の一番後ろの席から男性とも女性とも取れる怒声が聞こえた。

 その方へ視線をやると、オレと同じ男子の制服を着ているオレと同じぐらいの身長ですらりとした体系の金髪碧眼のイケメンがいた。そのイケメンは癪だと言わんばかりにこちらを睨んでいる。


「ガリル・クルセイドゥス、貴様もだ!」

「……………誰?」


 オレが訪ねた瞬間、場の空気が凍りつく。


 いったいどうしたのだろうか?というかこんなイケメン初めて見たのだが……この教室にいるということはクラスメートなのか?


「そ、そんな……この俺が……この第5王子のティカ・シェトロハイムが名前を憶えられていないだと………」


 あまりに小さい声なので何を言っているのかは聞こえなかったが、ティカとやらは相当ショックを受けたらしく、崩れ落ちるように地面に両手両膝を突いた。


 もしかしてオレ、失礼なことでも言ったか?


 わけが分からず頭を傾げていると、ルドルフが耳打ちするように小声で解説を始める。


「ヤツはこの国の第5王子で名前はティカ・シェトロハイムと言います。性格は俺様主義でなんでも一番でないと気が済まず、プライドが非常に高いです。今彼が落ち込んでいる理由は恐らくですが自分がこの学園で一番有名であると思っていたのにガリル様に、誰だ?と言われてプライドが砕かれたからでしょう」


 なるほど、そういう事か。

 つまりコイツはかなり面倒くさいヤツだ。


「どうします?面倒くさいから狩りますか?」


 お前、ただ狩りたいだけだろ絶対。


「やめろ、更に面倒くさい事になるから」

「承知しました」


 そう言うとルドルフはオレの後ろにさっと身を引いた。


「ま、まあ、それも仕方のない事かもしれないな!編入されたばっかりだからな!」


 いや、オレここに来て既に1か月は経つんだけど……でもオレに知られていなかったショックを認めたくないんだろうなあ……となるとここはスルーするとしよう。


「ああ、仕方ない!」

「だ、だよな!」

「「あははははっ!」」


 で、笑った後にまた静寂が訪れる。


「ううっ、やっぱり悔しい……」


 どうやら彼はスルーする事が出来なかったらしい。うっすらと目に涙を溜めている。だがこれじゃあ話が進まないからこちらがリードしてやるとしよう。


「で、オレに何用だ?」

「そ、そうだったっ!おい貴様!女子に持て囃されているからって調子に乗ってるだろ!!」

「それはお前の勘違いだ。オレは女には興味ない」

「「「っ!!?」」」


 静寂を保っていた教室がざわめき始める。

 いったいどうしたのだろうか?

 理由を訊ねるべくルドルフを見ると、彼女は思考が停止しているのか遠い目をして身動きせずただ立ち尽くしていた。

 マジでどうしたんだよ。


「そんな……ガリル様が男にしか興味がないなんて……」

「はあっ!?何故そうなる!!?」

「だって……女に興味がないって事はつまり……」


 ……っ!


「待て!違う!オレは男にも興味ない!!」

「そうですか……獣にしか……興味がないんですか……」


 そう言いながらもルドルフは絶対にオレとは目を合わせようとしない。


「だから違うって言ってるだろうが!!」


 まあ、獣耳の種族で美少女なら興味あるけど、というのは言わないでおくとしよう。


「そ、そうか、獣にしか興味ないのか……でも俺は理解力のある人間だ。き、きき、気にしないぞ!」

「めっちゃ気にしてるだろ!!」


 ルドルフ同様、言いながらも目を合わせないティカに全力で突っ込みを入れる。


「それより何キレていたんだ?」


 オレの問いにティカは思い出したかのようにハッとすると、咳払いをして場を仕切り直しにする。


「貴様!女子にデレデレしすぎだ!!」

「…………は?」


 コイツはいったい何を言っているんだ………………まさかっ!?


「なるほど、そういう事か」

「な、なんだよ……?」

「ズバリ嫉妬だな」


 そうに違いない。じゃないとそんな事は言わないはずだ。


「違う!!」


 畜生!見当違いだった!!


「じゃあなんだよ?」


 オレに嫉妬じゃないとすると………まさかっ!?


「女子に嫉妬しているのか!」

「ガリル様に気安く喋りかける女が憎い。だから女どもがガリル様に近付かないよう威嚇をするーーつまりそういう事ですね!さすがガリル様です!女を籠絡するだけじゃなく男までも籠絡するとは!そんなガリル様に私もズッキュン!!」


 ルドルフは両手を胸の前で組んで目をハートにした。とりあえずコイツは無視するとしよう。じゃないと無駄に体力を使いそうだ。


「違うわあっ!!」


 あっ、ティカの額にぶっとい血管が浮かんでる。どうやらいじめ過ぎたようだ。となると、いじるのはここまでにしておいた方が良いな。


「あー、仕切り直しだ。で、オレに何用だ?」

「…………いい」

「なんだって?」

「……もういい」

「はあ?」

「もういいってば!!」


 ティカはズシンズシンと足裏で地鳴りを上げながら去って行った。

 そこでティカのメイドらしき女がこちらに顔を寄せてオレをもの凄い形相で睨み、両手にダガーを構えながら言う。


「いてまうぞゴルア!ああん?」

「す、すみません……」


 このメイドめっちゃ怖い。あまりの恐ろしさに魔王なのに頭を下げてしまったじゃないか。こんな怖い人はオレの経験上親父と老執事の二人しか見たことがない。

 これからはあの女メイドは刺激しないでおこう。


「ガリル様、あの女、狩りますか?」


 こっちにもーー思考だけはーー怖いヤツがいた!!


「止めとけ、この学園でのオレの立場が悪くなる」

「承知しました」


 ルドルフは残念そうにシュンと俯く。そんなに狩りたかったのかよ、でもそうなる気持ちが分かるからあまり文句は言えない。

 慕っている人がたかだか人間ごときに頭を下げる。これほど胸クソ悪いことはない。もしオレがルドルフだったらどうしているだろうか?

 きっと同じ感情を抱いて、同じことを言っているんだろうなあ……だが慕っている相手が止めろと言うのならそれに従うしかない、か。


「じゃあ行くか」

「はい!」


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