第11話 デート2
あれから色々と回り、現在アイスを買う為に行列に並んでいる。
この店のアイスはこの都市の学生には有名らしく、なんかジンクスがあるらしい。確か、この店のアイスを二人で一緒に食べたらその二人は結ばれるとかなんとか。
まあ、オレは自力で色んな欲望を満たして来た魔王だから、そんな不明瞭な都市伝説なんてどうでも良いんだけど。
「お兄ちゃん、色々とありがとうございます」
「唐突にどうした?」
「いえ、普通は見ず知らずの女にこんなに良くするわけないじゃないですか。それなのにお兄ちゃんはわたしにこんなに良くしてくれて……」
「気にするな」
そう言って微笑むオレを見てナルルも微笑する。
「はーい、嬢ちゃん。チョコとイチゴのダブルだぞー」
「あ、ありがとうございます!」
店長らしき男からコーン付きのアイスを右手で受け取るナルル。そのついでにオレの頼んだアイスも左手で受け取り、こちらに差し出す。
「ありがとう」
それを右手で受け取るとナルルは近くにあるベンチへと歩を進める。そしてーー
「どういたしましーーひゃんっ!?」
途中で盛大にこけてアイスを地面に落としてしまう。
「「…………」」
……可愛い!!って、それどころじゃないだろ!!
両目に涙を溜めるナルルの頭に右手を置く。そしてーー
「痛いの痛いの飛んでけー!」
「わたしは子供じゃありません!」
「す、すまん」
「もう!お兄ちゃんなんか知りません!」
何となくこうなるだろうな、と思っていたが案の定怒られてしまった。でも萌えー。
「お詫びにオレのをあげるから許してくれ」
「やったぁー!」
ナルルは嬉しそうに万歳する。きっとそうなるほどあの店のアイスを食べたかったのだろう。
「じゃあいただきます!」
バッとアイスを奪うナルル。その際、手が触れてオレは違和感を覚える。何となくナルルの魔力が乱れているような気がする。原因は一体何なのだろうか?
まあ、分からないから考えないでおくとしよう。
「美味いか?」
「はい!美味しいです!」
そう答えてナルルはハッとした。
直後、こちらにアイスを差し出す。
「どうした?」
もういらないのか?
そう思っているとナルルはこう答える。
「わ、わたしだけ食べるのは申し訳ないです。だからお兄ちゃんも食べてください!」
なるほど、罪悪感か。
「いや、オレは別にーー」
「食べてください!!」
「は、はい!」
剣幕に圧され、アイスを一口。
舌触りが良く、濃厚な味わい、それでいて甘すぎない。オレが今まで食べたアイスの中で一番美味い。あの店長をコックとして雇いたいぐらいだ。
「ど、どうですか……?」
「うん、美味しいよ」
「ですよね!美味しいですよね!」
ナルルはえへへ、と笑う。
ここである事を思い出す。それは先程ナルルが、オレが『男漁りか?』みたいな事を言った時に若干悲しそうな顔をしていた事だ。
「ナルル」
取り敢えず理由を訊いてみよう。
「何ですか?」
「お前、男漁りはしていないのか?」
「えっ……」
マズい、直球過ぎたか?
「……してませんよ」
そう言って悲しげに眉を乢ませたナルルだったが、すぐに真顔に戻る。
「そうか、でもお前はそろそろ伴侶を見付けないとヤバいんだろ?なら普通は男漁りするだろ」
なにせ自分の命が掛かっているんだからな。
「本当はそうですが、わたしは手あたり次第に異性を選ぶなんて事はしたくないです。だってその人と一生一緒にいないといけないんですよ。それも呪いの鎖に繋がれるかのように……わたしは適当に選んだ人とそんな鎖に繋がれたくないです。本当に好きと思える人と繋がれたいです。だから男漁りなんて絶対にしません!!」
「……そうか」
となると、ルドルフの言っていた事はデマか。
「で、でもお兄ちゃんみたいな人となら……」
「何か言ったか?」
「何でもないです!!」
何故ナルルはキレているのだろうか?
……まあ、いいか。
「そう言えばサキュバスってどうやって伴侶から生気を手に入れるんだ?」
しまった、生気って事はつまりあれだ。性こ……何でもない。
「キスでですよ?」
「そ、そうか」
こんな幼い少女が性行為をするのかと思うと衝撃を受けそうになった。しかしお子ちゃまな答えが聞けて安堵する。
「…………っ!!」
何かに気付いたのか一気に顔を赤くしてゆくナルル。そして紅潮具合が最高に達するとーー
「お兄ちゃんのエッチ!」
と、恥ずかしそうに罵倒する。
「今更かよっ!!」
嗚呼、ナルルの将来が心配になって来た。
ビッチになったら困るなぁ……いや、ナルルは純粋な娘だ。そんな女になるわけがない。なるわけがない!!
「く、暗くなって来たしオレはそろそろ帰るわ」
陽が沈んで既に1時間は経過している。そろそろ門限が切れるのでとっとと帰路に就くべきだ。でないと寮母に今度こそ殺される。
オレは一度だけ門限を破った事がある。その時寮母に物凄い形相で怒られた。魔王だがあまりの形相に恐怖を感じたぐらい怒られた。その際、今度門限を破ったら殺されると思った。だから早く帰った方が良い。というか帰りたい。
ベンチから立ち上がる。
「お前はどうする?」
「わたしはもう少し街を回ってから帰ります」
「……そうか」
ここは付き合うべきだろうか?でも門限が……よし!
誰だって自分の身は可愛い。なのでナルルを置いて行くとしよう。それにこの街は比較的平和だ。そうそう事件に巻き込まれる事はないだろう。
「じゃあな。お前も早く帰れよ」
「はい!」
それを聞いてオレは、身を翻してこの場を去るのであった。
※※※※※※
--えへへっ!お兄ちゃんが増えちゃった!
実の兄と離れてもう五年は経つ。なので兄という存在の大きさは痛いほど分かった。だからガリルが兄になった事はナルルにとってはとても嬉しい事だ。あまりの嬉しさに感涙しそうである。だがこれぐらいで泣いたら実の兄に笑われるかもしれない。それは嬉しい事ではあるが恥ずかしい事でもある。なのでここは泣かないでおこうと決め、ナルルはパシンと両頬を両手で叩いて気を引き締める。
そのナルルの前に先程絡んできたウェアウルフ達が現れる。しかも仲間も連れて来たらしく、数は10人余りにまで増えていた。
「おうお前!さっきはよくもやってくれたな!」
「やっちまうべ?」
ふと、空を見ると真ん丸の月が昇っていた。
ウェアウルフは月の大小で強さが変わる。これはさすがに--マズいわね……
心の中で呟いた直後、先程ガリルにやられた男がナルルの右腕を掴む。
「イヤ!放してください!」
「うっせえクソあまぁ!大人しく付いて来い!」
ナルルはそのまま無理矢理手を引かれて路地裏まで連れて行かれる。
誰か……助けて……お兄ちゃん!!
『あらあら、大変そうね』
それは心の中から聞こえた。
『ミルル!?』
声の主はナルルのもう一つの人格であるミルルだ。
『わたしが変わってあげようか?』
『それはダメ!だってあなたが出たら彼らに何をするか分からないもん!』
『大丈夫、悪いようにはしないから』
『だとしても……』
『あなた、自分の置かれた状況をちゃんと理解しているの?このままだとこの男たちに凌辱されるわよ?それでも良いの?』
「言い訳ないじゃない!」
「おい、なに独り言言っているんだ?」
リーダー格の男がナルルの両肩を正面から掴んで力を入れる。
「痛っ!」
爪が肉に食い込み、激しい痛みを感じる。
「止めてください!!」
「ああん?止めるわけねえだろ。さっきの仕返しに散々弄んでやるよ!!」
「ヒィッ!」
魔族特有の凶悪な形相を見てナルルは小さく悲鳴を上げる。
『早く代わりなさい』
『でも今ミルルに代わったら絶対にあなたはーー』
『ならそのまま蹂躙凌辱される?』
『それはイヤ!!』
『だったら答えはもう分かっているでしょ?』
『……分かった。でも絶対にこの人達は殺さないで』
『もちろんそのつもりよ』
そしてナルルの意識は途切れる。
気付いた時、周りを見るとそこは地獄絵図となっていた。しかし死んでいる者は一人もいなかった。
それからナルルは帰路に就く。
『ミルル!!』
『なによ?』
『何であんなに酷くしたのよ!!』
『何でって、ああしないとわたし達は確実に犯られていたわ』
『でもだからってーー』
『ナルル、あなたは優し過ぎるわ。でもそれは弱い部分とも言えるの』
『分かってる!でも……』
『大丈夫、わたしが補ってあげるわ。ぬいぐるみの件もね』
『いったい何をするつもり……?』
『あなたは気にしなくても良いのよ。それに、このまま言いなりになっても良いの?ぬいぐるみが無事に帰って来る保証もないのに?』
『それは……でもきっと返してくれるよ』
『それを優し過ぎるって言うのよ。大丈夫よ、あなたはわたしと入れ替わっていたら良いの。その間にわたしが何とかするわ』
『……うん』
『良い子ね。じゃあ明日、取り返すわよ』
『……分かった』
ナルルは渋々頷くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます