第7話 アンデッドドラゴン戦2

 闇魔法の一つ、グラビティプレスでアンデッドドラゴンに荷重をかける。すると、ヤツは上から何かに押しつぶされているかのように項垂れながら地面に突っ伏した。それと同時にヤツの足元の地盤がクレーターを造る。


「おおっ!さっすがガリル君だ!」

「いや、まだだ。アイツはアンデッドだから闇魔法も使える。すぐに順応して反撃してくるだろう」


 それに、アンデッド系の弱点である炎魔法での攻撃を試したけど、有効打は与えられなかったと、先程アルが言っていた。となると、はっきり言ってお手上げだ。


「じゃあどうするんだーーっ!?」

「おっ!?」


 アンデッドドラゴンがこちらに向かって黒い吐瀉物を吐き出した。オレ達は左右に分かれてそれを軽々と避ける。

 何となく吐瀉物の進行上にあった校舎を見る。


「マジかよ……」


 コンクリートで造られているにも関わらずドロドロに溶けていた。


「あれをくらったら一巻の終わりだね」


 そう言うとアルは何かを悟ったのか、ふむっと首を縦に振る。


「ガリル君、実験の為にあれを被る気はないかい?魔族なら何とかなるだろ?」

「ならねえよ!確実に死ぬから!」

「君はつまらない人間だね……あっ、魔王か。君はつまらない魔王だね!」


 激しい憤りを覚え、本気でアルを殺したくなる。だがここで仲間割れというカオスな状況を作り出すのは本意じゃないので、グッと堪え「うるせっ!」の一言で済ませた。だが後で殴る事は忘れないでおこう、うん。


「さて、ガリル君。彼はもう完全復活したようなのだが、これからどうしようか?」


 アルの言う彼ことアンデッドドラゴンを見ると、確かに復活してピンピンしていた。しかも怒り狂って咆哮を上げているし。これを見たら普通の人間はおしっこ漏らすだろうなあ……と、そんなどうでも良い事は置いておくとして、さっさと倒す手段を考えよう。


「アル、この学園にソード系の武具はあるか?」

「なくはない。しかしそれはここから二千メートル程離れた場所にあるから持って来るまでには時間がかかるね」

「じゃあ取って来てくれ」

「何をする気だい?」

「それは秘密だ。それより急いでくれ!」

「了解した」


 そう言うとアルはその武具のあるであろう方角へと飛んで行った。

 さて、邪魔者も消えた事だし、さっさとヤツを狩るか!

 実のところオレは、アルが邪魔だからこの場から消えてもらった。それはアイツに点数を取られたくないからだ。

 アイツはアンデッドドラゴンと戦いながら雑魚モンスターとも戦っていた。なのでこのままだとオレがゲームに負ける可能性が大いにある。そうなると面倒だ。それにアルなら絶対に無理難題を押し付けて来るだろうからどうしても負けるわけにはいかない。


召喚サモン!」


 そう言うとオレの右の手の平から黒い剣の切っ先が現れた。

 それがどんどん伸びてゆき、百二十センチ程の長さになると柄も現れる。

 その柄を右手で掴む。


 この剣の名前はダーク・ハルモニアと言って、超微振動で動いている。なので切れ味は抜群。しかも刀身に触れると人間ならその触れた部分から呪詛が回り、ものの数秒で腐って死ぬ。全く、悪趣味な剣だ。

 因みにその効果は魔物には利かないのでオレ達相手に使用してもあまり意味がない。ただの切れ味の良い剣になるだけだ。

 ならなんでこんなものを使うのか?その理由はごくごく簡単で格好良いからだ。それと魔法攻撃は喰らわないが斬撃は与えられるので、これほどヤツに有効な武器はないと思ったからである。


「行くぞ、ハルモニア!!」


 勇ましい魔物のような咆哮を上げながらアンデッドドラゴンとの距離を詰め、ヤツの右の眼球に向かって剣で突いてみる。すると深々と刺さった。これで相手の視界は悪くなっただろう。後は連撃を与えるだけだ。


「くうらえええ!!」


 剣を抜いてアンデッドドラゴンの頭上へ浮遊魔法で移動。その魔法を解除して、重力の法則に従いドラゴンと最接近すると、首に二回の前転斬り、喉仏からデコルテにかけて目にも止まらぬ七連撃、再び浮遊魔法を使用して落下の衝撃を和らげながら着地。だがここで終わるわけもなく、今度は走りながら一直線に腹を裂く。


「うぎゅるうううう!!」


 アンデッドドラゴンは断末魔のような悲鳴を上げながら、腐った内臓を金魚のふんみたいに垂らして、まるでボイルされて苦しんでいる魚介類みたいに激しくうねり始めた。

 どうやら剣撃には効果があるようだな。ならーー

 ソードの腹を左手の親指以外の指でゆっくりなぞる。そしてなぞり終えるとソードは橙色に輝き始めた。

 武器に対する魔法の付与。今オレが行ったのはこれだ。基本、この武器に対する魔法の付与は鍛冶屋でしか出来ない。だがそれは人間だけの話で、魔族なら簡単にそうする事が出来る。そして今、オレはそれを成し遂げた。

 そんな凄技を瞬時に披露したオレは、誰かにおっぱいを触らせれもらっても良いのではなかろうか?後でルドルフにでも触らせてもらうか?いや、オレは下部にわいせつ行為を働くような性魔神ではない。魔王だがオレにも倫理観はある。なので止めておこう。


「行くぞおおお!!」


 疾駆で一気にアンデッドドラゴンとの距離を詰め、ヤツの腹部を広範囲に斬り付ける。するとヤツは悲痛の声を上げて再び暴れ始めた。

 真下にいるオレを足裏で踏みつぶそうと暴れるが、冷静にそれを避けて更に腹に連撃を加える。そしてトドメにアンデッドドラゴンの右足を一刀両断し、ヤツの体勢を崩させて最後に頭頂部に剣を突き刺す。これでヤツは死んだだろう。

 アンデッドドラゴンの眼球をペチペチと叩きながら『おーい!』と呼びかけるが、やはりと言うべきか反応はない。

 オレの勝ちだな。

 そう思い頭から降りた瞬間、アンデッドドラゴンは喉を鳴らし始めた。どうやらさっき見せたコンクリートをも溶かす胃液を吐くつもりらしい。

 オレは今、アンデッドドラゴンの口の真正面にいる。このままだとオレは吐瀉物を浴びてしまうだろう。


「くそっ!」


 オレが躱すのが早いか、アンデッドドラゴンが吐くのが早いか。これはかなり際どいところだ。だがオレなら避けることは可能なはず。


「のわっ!?」


 右に跳躍する寸での所で右の足首をぐねってしまった。

 マズい!間に合わない!!

 死を悟り、オレは目を瞑る……だがいつまで経ってもオレに胃液がかからない。

 何だ?

 ゆっくりと目を開ける。するとアルが刀身五メートルはあるであろう両手剣を使い、アンデッドドラゴンの胴体と頭部を切断しているのが見えた。

 マジかよ……


「ガリル君、大丈夫かい?」

「な、何とかな」

「それは良かった」


 アルはニコッと笑う。だがその笑顔が造り物に見えて仕方がない。きっとオレの事なんて全く心配していないだろう。こう、魔王だから死なないでしょ、みたいな感じで。まあ、確かに死なないんだけど。でも酷い。


「いやぁー、さすがアンデッドなだけはあるね。吐気を催してしまう程の悪臭だ。ガリル君、これの駆除を手伝ってもらえるかい?」

「イヤだ、面倒くさい」

「君が気に入るような可愛い娘を紹介すると言ってもかい?」

「分かった。手伝おう」


 我ながら単純だ。こんな事で手を貸してしまうとは……

 そしてオレ達は魔法で壊れた校舎を直し、モンスターの死骸は消し炭にした。











「もうこんな時間か」


 校舎が遮光で茜色に染まっている事に気づき、時計台に掛けられた柱時計で時間を確認して呟く。

 時計の針は夕方の六時ちょい過ぎを指していた。後三十分程したら日は沈むだろう。


「これで完璧に修復と駆除作業は終わりだ。ガリル君、お疲れ様。かなり疲弊してるだろう?」

「ああ、もうこんな事はしたくないぐらい疲れたな」


 こういう時になって初めて自分の魔力がどれだけ弱っているのかを思い知る。


「というわけでオレはもう帰るからじゃあな」

「どこへ帰るんだい?」

「魔王城だ」

「でもそこはもう君の弟の物なんだろう?行っても意味ないんじゃないか?」


 そうでした。

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