第3話 どうやら側近は女になってしまったらしい

「君が完全ではないからだよ」

「どういう……意味だ…?」

「君は相当な魔力を持っているが、蘇ったばかりで完全じゃないから魔法を上手く使えない。だから今の君は僕よりはるかに弱い。まあ、この学園の生徒の中では最強だけどね」


 なるほど、少なからず違和感は感じていたがそういう事か。なら不服だがここは折れるしかなさそうだ。

 このオレが勇者になるなんて本当に不本意だが仕方あるまい。


「オレの負けだ。この学園の生徒になってやるよ」

「じゃ、早速編入手続きだ!と、言いたいところだけど部屋の修復を手伝ってもらえるかな?というか手伝え」

「………分かった」


 面倒くさい事になったな。










「ガリル君、私があなたのクラス担任をするリリー・ローズマリーです。親しみを込めてリリちゃん先生って呼んでくださいね!」


 身長が170センチのオレの頭一つ分小さくて、長い金髪、碧眼でボン、キュッ、ボン、そして色白の女性が教室へ向かう道中で言う。


「分かったよ、リンちゃん」

「リリちゃんです!」

「ゲリちゃん?」

「なんで下ネタになっているんですか!リリちゃんですよ!」

「ゲロちゃん?」

「リリちゃんですってば!!はい!一緒に言ってください!せーの!リリちゃーー」

「ゲンさん!」

「はうぅ~、もう良いです。先生泣いちゃいます……」

「ごめん、リリちゃん」


 魔族の血が騒いでイジメ過ぎてしまった。反省しよう。だが面白いのでちょくちょくはイジメーーいや、弄らせてもらおうか。


 てかリリちゃん良い身体してるな。ぶっちゃけオレの好みだ。これは未来の嫁候補だな。


「ところでガリル君が魔王と言うのは本当なのですか?」


 因みに、アルはリリちゃんにだけはオレが魔王である事を知らせている。

 アル曰く、その方が色々と都合が良いとの事だ。

 それを聞いて俺が、コイツ面倒くさいからリリちゃんに丸投げしたな、と思ったのは言うまでもない。

 まったく、抜け目のない男だ。

 まあ、それはそれとして、面白そうだからリリちゃんを脅してみよう。


「いかにも我が魔王だ。貴様を凌辱して無理矢理我の女にしてやろうか?」

「…………」


 リリちゃんは恐怖を感じたのガクガクと足を震わせた。


「…………た」

「なんだって?」

「少し漏れました」

「…………」


 どうやらやり過ぎてしまったようだ。


「で、でもリリちゃんは先生です!全然ビビッていません!」

「でも漏らしたじゃん」

「も、漏らしてませんよ!リリちゃんは先生ですよ!?」


 いやいや、今さっき自分で『少し漏れました』って言ってたじゃないか。もしかしてこれが教師の威厳というヤツなのだろうか?もしそうなら教師って面倒くさい職業だ。


「で、でもガリル君が魔王である事は十分に分かりました。凄まじい迫力です」

「そうか。ところでリリちゃん、オレの入るクラスってどんなヤツらがいるんだ?」


 これは気になるところだ。もしクラスメート達が面倒くさいヤツらだったらこれから大変な学園生活を送る事になる。それだけはマジで勘弁願いたい。それにあまりにムカついたらこの学園で猟奇的殺人事件が起こりかねない。そうなるとオレは即退学だ。いや、別に退学になっても良いがせっかく編入したんだ。出来れば学園生活を楽しみたい。だからマジでクラスメートがどんなヤツらなのかが気になる。


「みなさん元気ですよ!それはもうーー」


 リリちゃんがそこまで言ったところで急に少し進んだ先の左の教室で爆発が起こり、窓ガラスや扉が吹き飛んだ。


「ーーこんな感じに」


 リリちゃんはニコッと笑う。

 元気で済ませて良い範疇なのか?これは明らかに元気じゃなくて問題児だぞ。


「なんで勝手にあたしのお菓子を食べたのよ!?」


 その声と共に浅黒い肌で銀髪のダークエルフらしき長身のナイスバディーの女子が教室から飛び出す。


「私のものは私のもの、貴様のものも私のものだ!」


 なんだあの無茶苦茶な考えは。傲慢にもほどがあるだろ。でもオレはその言葉、嫌いじゃない。


 ふと、そのダークエルフと目が合う。すると彼女は目を見開いて口を半開きにした。そして数秒経つと嬉々とした笑みを浮かべてこちらに駆けて来る。


「ガリル様!やっとお目覚めになったのですね!」

「…………誰だお前?」


 正面で立ち止まると、ダークエルフは右手を左胸に添えて敬礼のようなポーズを取った。


「私です!ルドルフですよ!」

「ルドルフ……?」


 ルドルフは男だ。だがこのダークエルフは女である。となると、コイツは偽物に違いない。


「疑っていますね?ではガリル様の恥ずかしいお話を一つ!幼き頃、ガリル様は偶然レッドドラゴンと対峙してしまい、あまりの恐怖におしっこを漏らしーー」

「分かった。お前はルドルフだ」


 こんな恥ずかしい事を知っているのは小さい頃からずっと一緒にいたルドルフだけだ。だからコイツはルドルフ本人で間違いない。


「嗚呼、またガリル様とお会い出来るとは……ルドルフは感激のあまり失禁しそうです!」

「それは止めてくれ」


 てかこの時代の女はみんな失禁するのが得意なのか?もしそうなら失望するぞ。

 まあ、そそられるけどーーって、何を言わせるんだ!!


「でも何でお前、女の格好なんだ?」

「それは長い話になります。あれはそうですね……」

「はい、ルディさん。ホームルームを始めるので早く教室に入ってください」


 リリちゃんのその言葉にルドルフはチッと舌打つ。


「はーい」


 ルドルフは不満げな表情を浮かべながらも教室に入って行った。てか何でアイツ、こんな所にいるんだ?


「ガリル君も早く教室に入ってください」

「お、おう」


 教室に入ってゆくリリちゃんに続いてオレも教室に入る。

 そしてーー


「彼の名前はガリル・クルセイドゥス君です!今日からみなさんの仲間になるので仲良くしてあげてくださいね!」


 今気付いたのだが、このクラスには女子しかいない。もしかしてオレはその中で学園生活を送る事になるのだろうか?もしそうならマジで勘弁だ。今すぐ魔王城に帰りたい。だがアルと約束してしまった以上、ここは我慢するしかないだろう。


「ねえねえ、彼、格好良くない?」

「うん、格好良いわ」

「わたし、仲良くしちゃおうかな?」


 うん、女子の花園に男が飛び込んだらきっと即排除されると思ったが、その心配はないみたいだ。良かった良かった。


「さすがガリル様です!自己紹介にも威厳がある!嗚呼、ガリル様と結婚したい!ビバ!ガリル様!」

「黙れ」


 うっとりとした表情のルドルフに白い目を向けながら突っ込む。


「ヒャッホーウ!ガ・リ・ル!ガ・リ・ル!」


 何処から出したか、オレの名前の書かれた大きな旗を振り回しながら奇声を上げるルドルフ。取り敢えずアイツは後でぶん殴るとしよう。


「ルディさん、静かにしてください」

「はーい!」


 ムフフと笑いながらルドルフは嬉々として席に就いた。


「というわけで、ガリル君の席は……ルディさんの右隣にしますか」

「うげっ……」


 何でよりにもよってルドルフの隣なんだよ。絶対に面倒くさい事になるぞ。

 ふと、とある少女が視界に映った。その少女とはシェルだ。

 アイツ、同じクラスだったのか。ならーー

 シェルの右隣にある席まで行き、椅子を引いて腰を下ろす。


「よろしく」

「………ふん」


 シェルにそっぽを向かれた。

 なんだよコイツ。


「ううっ、ガリル様のいけず……」


 ルドルフの悲しそうな声が聞こえるが、それは無視するとしよう。








「ガリル君ってどこから来たの?」

「好きなタイプはどんな人?」

「エッチな女の子って好き?」


 で、ホームルームが終わってすぐ質問責めだ。きっと人間からしたら新人は魅力的に見えるのだろう。

 魔界では、新人というものは戦いを妨げる邪魔者でしかなかった。それなのに人間の女という生き物は……バカなのか?

 いや、でも邪魔者扱いされたらかなり癪だからそれで良いのかもしれない。

 だがそうだとしてもこの質問責めにだけは堪えられない。


「貴様ら散れ!下等生物風情が気安くガリル様に喋りかけるな!」


 背後からルドルフの声。

 助かった、これでこの地獄から抜け出す事が出来る。


「ガリル様は私のものだ!!」


 と思ったが、更に地獄の深くまて落とされた。


「おいコラ勘違いされるだろうが!!」

「いや、私はガリル様のものだと言えば良いのか……?まあ、良い。私はガリル様のものだ!!」

「だから勘違いされるような事を言うなって言っているだろうが!!」


 そして当然の如くーー


「キャーー!」

「凄いわ!」

「でも負けない!」


 こういう如何わしい空気になる、と。

 最悪だ。


 ふと、シェルを見ると彼女はこちらを見て不機嫌そうな顔をしていた。と思ったら席を立ち、教室を出て行く。

 アイツいったいどうしたんだ?

 取り敢えずオレも立ち上がり、彼女の後を追う。










「おい、シェル!」


 づけづけと歩くシェルの右肩を掴んで彼女の動きを止める。


「お前、何でそこまで機嫌が悪いんだよ?オレ何か悪い事でもしたか?」

「あたしに話しかけないで」


 コイツ何でこんなにツンツンしているんだ?さっきまで素直な女の子だったのに……まさか!?


「これはツンデレか!」


 オレはツンデレ勇者が好きだ。コイツはそれを知っていて敢えてツンデレを演じているのだろう。

 何故オレがそれを好んでいる事を知っているのかは分からないが、きっとそうに違いない。


「違うわよ!!」


 チッ!違うのかよ。


「じゃあ何だ?」

「別にあんたには関係ないでしょ!」

「やっぱりツンデレだ」

「違うって……言っているでしょうがあっ!!」

「うごふぅっ!?」


 腹部にシェルの前蹴りが突き刺さり、オレはその勢いで二メートル程飛ばされ、壁に激突する。


「ナイスキック……」


 これ程気持ちの良い蹴りをくらわす勇者と遭うのは久しぶりだ。少しだけ興奮して来た。言っとくが性的な意味じゃないぞ?


「ふん!」


 鼻を鳴らすとシェルは走り去って行った。


「何なんだよ……」


 あの様子だとオレが嫌いというわけではなさそうなのだが、いったい何故あんな態度を取っているのだろうか?たまたま機嫌が悪かったとかか?


「あの落ちこぼれが!なにガリル様に蹴りを入れているんだ!!」


 声の聞こえた背後を見ると、ルドルフがこめかみに血管を浮かべて激怒していた。


 そういやアイツ、みんなに落ちこぼれと言われたくないからオレを蘇らせたって言ってたな。まさかそれが関係しているのか?もしそうなら……


「なあ、ルドルフ」

「なんでしょうか!?」


 ルドルフは嬉々とした表情で訊ねる。

 コイツ、相変わらずだな。

 ルドルフはオレに話しかけられると、いつも嬉しそうにしていた。どうやら未だにその癖は抜けていないらしい。


「アイツ、もしかしてクラスでハブられているのか?」

「いえ、それはありません。ただ、彼女があの理事長の娘なのに何も出来ない事を面白がってバカにする人が多いだけです。『アイツは落ちこぼれだ!』という感じでですね……彼女はそれが嫌だからみんなと距離を置いているんです。でも勘違いなさらないでください。本当はみんな彼女の事が大好きなんですよ」

「そうか」


 つまりアイツの被害妄想から来る孤立というわけか。

 確かに落ちこぼれ扱いされるのは癪だ。しかしそれ以外はみんなに愛されている。でもアイツはそれに気付いていない。残念にも程がある。

 まったく、人間とは面倒な生き物だ。


「それより聞いてください!」

「何をだ?」

「私が女になった理由です!」


 ああ、その話もあったか。


「私が長い眠りから目覚めた時、その時は男でした」


 勝手に話し始めるなよ。でも気になるから聞いてやるとしよう。


「それで?」

「それで、目覚めた直後に黒いフード姿の1人の勇者が目の前に立っているのに気付いたのです。その勇者は今まで見た事のない魔法を私にかけました。その魔法がこの羞恥的な格好になる魔法だったのです!!」

「わけが分からん」

「ですよね!?わけが分からないですよね!?それにそのせいで私の魔力も弱まって……最悪です!!」

「お前、オレに適当な嘘ついているだろ」

「そんな……ガリル様酷いっ!!」


 酷いのはお前の話だ。


「でもまあ、その話を信じてやろう」

「ガリル様……」


 ルドルフはジーンと感涙し始めた。


 それにしたって分からないな。

 何故ルドルフにそんなおかしな魔法を掛けた?そもそも何がしたかったんだ?いたずらか?いたずらがしたかったのか?いや、そうだとしても何故相手がルドルフなんだ?分からない……分からない事だらけだ……よし、これ以上は考えないでおこう。思考回路がおかしくなる。

 それよりシェルをどうにかしないといけない。このまま放置するのは彼女にとって何の得にもならないからな。


「ガリル様?深刻な顔をしてどうしたのですか?」

「いや、ちょっとした考え事だ」

「そんな……ガリル様がわたくしめの為に考えてくださるなんて……」

「いや、違うから」

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