第2話 死闘
オレ達は魔王城から出てシェルの住む都市まで来ていた。この都市は2000年前には無かったもので、シェルの話では100年前に神聖帝国として造られたものらしい。オレからしたらそこまで歴史は長くないが、人間からしたら結構古くからあると思ってしまうらしく、かなり威厳のある場所との事だ。
住んでいるのは大体が人間や妖精、獣人やエルフらしい。2000年前は相容れぬ種族同士だったのだが、いつの間にこうなったのやら。でも和平とは良いものだ。これで魔王も仲間に入れてくれるならどれだけ良いか。
って、それは無理か。魔王は人間を殺しまくる存在だし。
「ねえ、魔王」
「オレの名前はガリルだ。ガリルって呼んでくれ」
こんなところでオレが魔王だなんてバレたら即虐殺が始まる。殺す側はもちろんオレ。口封じのためだ。寝起きで人を殺すのは正直しんどいからそれだけは何としてでも避けたいので、そう呼んでもらえると非常に助かる。
「分かったわ。じゃあガリル」
良かったこれで暴れなくて済む。
「なんだ?」
「セックスってなに?」
「ブフゥーッ!!」
シェルの唐突な際どい質問に思わず咽てしまった。てかこの娘、なんでその単語を知っているんだ?最近の幼女はビッチなのか?
取り敢えずーー
「お前にはまだ早い」
ごまかす事にする。
「えー、あんたもそう言うわけ?なんでみんな教えてくれないんだろう?」
「そりゃあお前がまだ子供だからだ!」
誰が10歳児にその意味を教えるんだ。もしいたら喰い殺すぞ。魔王としてじゃなく人間として殺すぞ。
「あたちは子供じゃない!」
いや、子供だろ。と、言いたいけど変ないざこざを生みそうだから止める。
ここで幼女と喧嘩して泣かせているところなんか見られでもしたら終わりだ。周りの鋭い視線で串刺しになる。それで死んでしまう事ほど虚しいものは無い。
「そうだな、お前は大人だったな」
「うむ!分かればよろしい!」
ごめん、全く分かってないから。
「それより、お前の家ってどこなんだ?」
「聖セルティナス勇者学校よ!」
「セルティナス……もしかしてお前の名前と関係しているのか?」
シェル・【セルティナス】だから何らかの関係があるはずだ。きっとそうに違いない。
シェルは無い胸を張った。その胸が頑張って自己主張しているようで悲しい気持ちになる。
「あたちのお父様が理事長をしているの!」
なるほど。少なからず関係しているだろうとは思っていたが、そこの理事長の娘だったか。
「因みに魔力も賢者並で何でもできるわよ!例えば海を割ることとかも出来るわ!」
「それは凄い」
オレみたいな高位魔族は余裕で出来るが、人間でそれを出来る者はなかなかいない。そう思っていたので、その理事長に興味が出て来た。
是非とも殺し合いをしてみたいものだ。そしてその生首で造ったネックレスを首に飾りたい。
「あんたもそれぐらい出来るの?」
「いいや、それ以上の事も出来る。例えば地球を真っ二つにするとか。一回やってみるか?」
「らめぇ!そんな事したらみんなが死んじゃうじゃない!」
「大丈夫、オレの知り合いに閻魔大王というヤツがいるから、死んだら地獄を紹介してやる」
「全然大丈夫じゃないわ!イヤよ!!」
地獄送りにされたら普通は喜ぶものだ。少なくともオレの知人は皆そうだった。だから彼女も喜んでくれると思ったのだが……人間とは分からない生き物だな。
そう思っているとーー
「あれ?そこにいるのはシェルじゃないか!」
その声の聞こえた方を見ると20代前半と思われる若い男性が立っていた。
「知り合いか?」
「お父様よ!」
「…………」
マジで?あんな若い男が十歳の娘を?
もしあの男が二十歳だとする。そうなるとあの男性が九歳の時に女性と性交をして十歳の時にシェルを産んだという事になる。そんなヤツは魔族にもなかなかいない。
人間怖ぇ……
「因みにああ見えてお父様は32歳なのだぁ-!」
「若いなあ」
でも5000年は生きているのに10代後半の外見をしているオレも人には言えないか。
「お父様ー!」
シェルは男性に掛けて行くとそのまま抱き付いた。
「何してるのですか?」
「ちょっとした勧誘だ」
「勧誘?」
勧誘……宗教とかか?
ああ、確かあの男は勇者を育てる学校を経営しているとシェルが言っていたな。
勇者とは必ず何かしらの宗教に所属しているものだ。だからあの男が勧誘活動をしていても何らおかしくはないな、うん。
そんな事を考えていると、男性がこちらに気付いた。そしてこちらに来るとオレの前で立ち止まる。
「君、勇者に興味はあるかい?」
「……は?」
「いやぁー、君みたいな男を探していたんだよ。魔王を彷彿とさせる溢れんばかりの魔力量があるし、魔王のような鋭い目つきに魔王のような女ったらし顔。まさに僕の探していた人材だ!」
そう言って男性は目を輝かせながらオレの右手を両手で掴んだ。
「ちょっと来てくれ!」
男性はオレを引っ張って歩き始める。
「えっ?ちょっ!?」
マジで!?
「いやぁー、無理矢理連れて来てすまないね!」
男性に連れられて来たのは聖セルティナス勇者学校の学園内にある理事長室だった。
「僕の名前はアルフレッド・セルティナスだ!適当にアルと呼んでくれ!」
「あー、オレはガリルだ」
右手を差し出したアルの手を掴んで握手する。
「単刀直入に訊くけど君は魔王だね?」
「っ!?」
何故初見で分かったんだ!?
「何故初見で分かったんだ?そう思ったね?その答えは簡単だ。僕はね人に触れる事で相手の情報を全て知る事が出来るんだよ。だから君が魔王だって事は丸分かりさ。それに僕は相手の魔力量を目で確認する事が出来るから、君を見た瞬間、魔王だってすぐに分かった」
それって特殊な人間じゃねえか。目で相手の魔力量を確認するって、魔界でもルドルフだけだったぞ。しかもルドルフは鑑定の魔眼持ちだったからそれができたわけで……が、この男がそういった魔眼持ちには見えない。
もしかしてオレが封印されている2000年の間に人類は凄まじい進化でも遂げたのだろうか?
いずれにせよこの男、さすが勇者学校の理事長をしているだけはあるな。
「ここで本題だが君、生徒になる気はないかい?」
「……は?」
オレが生徒に?しかも天敵である勇者を育成する学校に通うだって?出来るわけないだろ。もしオレが生徒に魔王だってバレたらいったいどうなる事か……確実に虐殺が始まる。この男はそれでも良いと思っているのか?もしそうならこの男はどんだけ馬鹿なんだよ。
「大丈夫だ。君が魔王だという事は絶対に誰にもバレないよう僕が手助けする。そうすれば君も安心してこの学園に通えるだろ?」
「それもそうだが拒否だ」
「なら僕が君に戦いで勝ったら入るというものはどうだろうか?」
「ほう、オレに勝てるとでも?」
「思っているさ」
そう言ってアルは不敵な笑みを浮かべる。
なかなかの自信だ。それならーー
「分かった」
この男を倒してさっさとここから去るとしよう。
「後悔するなよ………っ!!」
オレがカッと目を見開いた瞬間、理事長室が大爆発を起こす。その刹那、オレは理事長室の窓から脱出し、浮遊魔法で飛びながらアルとの距離を取った。
あの男がこれ如きで死なないのは分かっている。確実に反撃が来る。
「っ!?」
気付けば無数の光の矢がオレを囲んでいた。これは避ける事が出来ない。
無数の光の矢がこちらに襲いかかる。
「面白い……ならば!!」
高出力の結界を張ってその矢から身を守る。だがそのうちの一つがオレの背中に刺さってしまった。
「ぐあっ!?」
高出力の結界を張ったのにそれを貫通する程の光の矢の威力。これだけでアルがどのぐらい強いのかが分かった。
「ガリル君、それが君の本気かい?」
「言ってくれるじゃないか」
なら仕方ない。
オレは種族上、光魔法は使えない。もし使えばオレは聖なる光の力で浄化されて死んでしまうからだ。だから他の視点で言うと、光の魔法がオレの弱点とも言える。だが逆に闇の魔法は得意だ。なのでこちらは無数の闇の矢を生成する。
そしてそれをアルに向けて一斉に飛ばす。
「ほう、僕と矢で勝負を挑むか。なら僕もそれで応戦しよう」
アルはパチンと右手の指を弾いた。
一瞬で光の矢が生成されてその矢たちが的確にオレの矢を打ち落としてゆく。
こんなものか、と言わんばかりの落胆めいた表情を浮かべるアル。
「マジかよ……」
オレに張り合おうとする勇者は幾人も見たが、こうも余裕の表情でオレと戦うヤツを見るのは初めてだ。
そう思うとゾクゾクして来た。これは恐怖からか?
否!強敵と出会えた喜びからだ!!
「本気を出させてもらう!」
「どうぞどうぞ」
次の攻撃であの余裕の表情を絶望に変えてやる。
アルに向かって右手を翳し、その右手の前に火の玉を生成する。そしてその火を極限まで圧縮して球体を作り、それを放つ。
この球体は手のひらサイズで小さいが、威力はかなりあり、爆発すればこの広い校舎を木っ端みじんにする程の威力を持っている。これはオレがよく使っていた魔法で、大体の勇者はこれで死んだ。だからこれならアルも死ぬだろう。シェルには申し訳ないが、これは死闘だから彼には死んでもらう。
アルに玉が当たる直前でそれが動きを止める。そしてそれが今度はオレを襲う。
嘘だろ!?
玉がオレに直撃し、大規模な爆発を起こした。オレはそのまま落下し、地面に身体を強打する。
「ガリル君、何かおかしいとは思わないかい?」
「お……かしい…?」
「そう、何故魔族の王である君が僕に蹂躙されているのか……謎じゃないかい?」
確かにおかしい。オレは最強なのに何故かアルにやられている。それはいったい何故なのか?
謎である。
「答えは簡単だーー」
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