魔王様曰く「勇者を目指す!」との事です。

スーザン

目覚めると目の前に幼女がいた。

第1話 目覚めると目の前に幼女がいた。

 この世には沢山の生物が存在する。


 人間、エルフ、ゴブリン、ツンデレ勇者、獣耳、獣耳、獣耳、ツンデレ勇者、ツンデレ勇者、ツンデレ勇者、そして魔王。


 その中の一つ、魔王がこのオレ【ガリル・クルセイドゥス】である。


 まあ、それはどうでも良いとして、オレは今、2000年の眠りから覚めた。覚めたのだが目の前に幼女がいて、オレはその幼女に襲われている。なーぜー?


「コノォッ!魔王のくせに!何故避ける!」


 言っとくがオレは、幼女の攻撃を避けるどころか一歩も動いていない。なのに何故彼女がオレが避けているように言っているのか?一見、謎のように思えるだろうが答えは簡単だ。


「くぅ~!剣が重いよぉ~!」


 そう、幼女がちゃんと剣を持ち上げきれていないからだ。何とか持ち上げきれたとしても、オレに攻撃が当たる前に筋力不足で落としてしまう。これで幼女が訳のわからない事を言っている意味が分かっただろう。


「ううっ……」


 幼女はプルプル震えながら涙目でこちらを見た。


「お願い……手伝って……」

「いやです」


 何でオレが自分を倒す手伝いをせにゃならん。なにか?自滅すれば全て解決するって言いたいのか?でもやっと2000年の眠りから目覚めたんだぞ。即封印なんてされたくないだろうが。


「ううっ……酷い…」


 酷いのはどっちだよ。


「もう……泣いちゃうもん!」

「待て、泣くのはよしてくれ!」


 オレは怖い怖ーい魔王様だから人の囀りを聞くのが大好きだ。しかし寝起きで誰かに囀られるとイラッとする。例えるなら寝起きで勇者に殺されるぐらいイラッと来る。


「うわあああああん!!魔王の馬鹿ぁーー!!」

「……は、ははっ……」


 もう苦笑するしかない。


 あっ、そうだ!こういう時は飴をあげると良いと聞いた事がある!ここは魔法で飴を出すとしよう。


召喚サモン!」


 オレが言うと、右の手のひらに小さな魔法陣が現れた。そしてその中から拳大の平べったいペロペロキャンディーが出現する。


 オレは魔王だから色んなものを召喚する事が出来る。だから飴を召喚するぐらい容易だ。


 魔法陣が消え、飴が落下を開始した瞬間、それを右手で掴み、幼女に差し出す。


「ほら、これでも食って落ち着け!」

「……うん」


 幼女はオレから飴を受け取ると、涙目で舐め始めた。これで機嫌を直してくれるだろう、と思ったら飴から大きな目がギョロリ現れた。


「うぎゃあああ!!魔物おおおお!!」


 幼女はビックリし、慌てて飴を投げ捨てる。よく考えたら、オレが召喚できるのは魔物だけだった。


「貴様!謀ったな!!」


 涙目で牙を剥き出しにし、フー!フー!と唸りながらこちらを睨みつける幼女。


「ご、ごめん」

「ふん!あんたなんか大っ嫌い!ばーかばーか!」


 お前はガキか!

 ……って、ガキか。


「で、お前さんの名前は?」


 幼女は立ち上がり、無い胸を張る。そしてフンと鼻を鳴らして、自慢げに自己紹介を始めるのであった。


「あたちは勇者!名前はシェル・セルティナスよ!身長は130センチで大人。年齢は10歳で大人。背中までかかる長い銀髪が大人。灼眼が妖艶で魅力的な大人の女性よ!」

「詳細までありがとう」


 てかやっぱりガキじゃねえか。


「だから大人しくくたばりなさい!」


 幼女は立ち上がると、こちらに両手をかざして呪文を唱え始めた。


「炎の精霊よ、汝の名において我に力をかチッ」


 あっ、噛んだ。そしてオレのせいじゃないんだからこちらを睨むな。


「ほ、炎の精霊よ、汝の名ニッ」


 うん、可愛い。なでなでしたい。そして何故またオレを睨む。


「炎の精霊よ。汝の名において我に力を授けよ!」


 最後まで言えた事に幼女は嬉々とした笑みを浮かべる。

 よく頑張ったな、グッジョグだ。後はオレがその攻撃を受ければ万事解決するな。

 さあ!炎魔法よ!飛んで来——


「うぎゃっ!?」


 幼女の目の前で炎の爆発が起きた。

 これは所謂あれだ。


「自爆だな」


 服がボロボロでところどころから黒い煙を上げるシェルを見て冷静な一言。するとシェルはケホッとせき込みながら黒い煙を吐き、涙目でこちらを睨んだ。


「だ、大丈夫か?」


 シェルに近寄り右手を差し伸べる。しかしすぐに右手で叩き落とされた。


「ど、どうせあたちは落ちこぼれよ!なに?悪い!?」

「いや、別に悪くはない。でもそれでよくオレに挑もうとしたな」


 こんな使えないヤツがオレに挑むのは自殺行為だ。

 オレは魔物を統べる者【魔王】だから普通の攻撃や魔法では効果がない。それなのにあんな攻撃……いや、攻撃されてないか。

 ま、まあ、それは良いとして、その程度でオレに挑むのは無茶だ。というかオレを封印できるわけがない。逆に封印されてあげる事も出来ないだろう。それなのに何故オレに挑もうとしたか?それは謎である。


「ふん!あんたには教えないわ!学校で落ちこぼれ扱いされてるからみんなを見返そうとして、わざわざあんたを蘇らせて、倒そうとしたなんて教えるわけないじゃない!」

「…………」


 教えてるやん。


「……はっ!しまった!?」


 きっと馬鹿な自分にイラッと来たのだろう、シェルはこちらを睨め付けた――その怒りの矛先はオレではなく、無能な自分に向けて欲しいものだ。


「と、とにかくあんたは倒させてもらうからね!覚悟しなさい!」


 コイツの相手をするのが面倒くさくなってきたからさっさと殺してやるか、と言いたいところだが、相手は幼女だから殺すわけにはいかない。

 オレは魔王だが、情けぐらいは持ち合わせている。いくら勇者とは言え、相手は女且つ子供だ。殺せるわけがない。

 仕方ない、脅して帰ってもらうとしよう。

 ――よし!!


「おいシェル」

「な、何よ?」


 牙を剥き出しにし、獣より凶悪な目を光らせて不気味に口角を上げる。


「貴様のはらわたを引きずり出して喰らってやろうか?」


 さあ、シェル。これにりたら早く帰りなさい。


「…………」


 シェルは涙目になり足をがくがくと震わせて立ち止まった。軽くのつもりだったが、どうやら怖がらせ過ぎたみたいだ。


「………れた」

「なんて?」

「……ちょっとおしっこ漏れた」

「…………」


 ダメだこりゃ。


「ねえ、お風呂ある?ついでに着替えも」


 コイツ身を清めるつもりか。しかしここは魔王城だ。もしシェルが風呂に入っているところを他の魔物に見られたら食われるに決まっている。なので早々に帰ってもらった方が彼女の為だ。


「帰れ」

「ううっ……お風呂に入りたいよぉ~…」


 股間を押さえ、モジモジしながら上目遣いでこちらを見るシェル。だが――


「帰れ」


 入らせるつもりは毛頭ない。


「入らせてくれないと大声で泣くからね!!」

「それは困る!」


 さてどうしたものか。風呂に入らせると彼女の身が危ない。かと言って入れないと泣いてしまう。どちらも選ばないで素直に殺すという選択肢もありはするが、もう殺さないと決めた以上はそれを守らないといけない。

 ならもう一つの選択をするとしよう。


「シェル、一緒に風呂に入るぞ」


 一見、オレがロリコンであるかのような発言だがこれはそういうものではない。シェルを一人で風呂に入れるのは非常に危険だからそう言ったのだ。ならオレも一緒に入れば魔物が入って来ないしシェルも安心して風呂に入れる。これにはその意が込められている。

 もう一度言うが、オレはロリコンではない。というかオレの好みはサキュバスのようなむっちむちのボインちゃんだ。だからこんな幼女には興味ない。


「いやよ!変態!どうせあたちに変な事をするつもりなんでしょ!た、例えばちちち、チューするとか……」

「しねえよ!てか幼女に興味ねえし!!」

「わーい!じゃあ入る!……って、あたち幼女じゃない!!」


 あー、もう、面倒くさいなあこの娘は!!


「分かった。じゃあオレは風呂場の入口前で待っている。だからお前は出来るだけ早く風呂から出ろ。分かったな?」

「うん!」


 はあ、面倒くさい事になったなあ……





「ねえ、まおー!」

「んだよ?」


 取り敢えずシェルを風呂場に連れて行く事が出来た。ここに来るまでに誰とも会わなかったのは奇跡としか言いようがない。


「石鹸どこー?」

「知らねえよ。自分で探せ」

「あっ!あったぁー!」


 にしても面倒な事になったな。なんでオレがあんな幼女を助けないといけないんだ。しかも相手は人間だぞ?オレを倒そうとする存在だぞ?そんなヤツを何でオレは助けてしまったんだ……歳を取ったからか?

 いや、そんなはずはない。それはオレの外見からも分かる事だ。

 オレの外見は人間で言うとまだ16~18歳ぐらいだ。そんなヤツがまだ『歳を取ったから』なんて言っても良いわけがない。


「まおー!着替えはー?」


 そういや着替え持って来るの忘れてたな。でも使用人に全てを任せているオレが着替えがどこにあるかなんて知っているわけがない。

 あまりしたくはないがここは仕方ない。


「ルドルフ!幼女用の着替えを持ってこい!」


 ルドルフとはオレの側近の名前だ。彼は物分りが良いから事情を説明すれば人間が何故ここにいるかも分かってくれる。そして助けてくれるだろう。


「おい!ルドルフ!聞いてるのか?!」


 反応が無いな。留守にでもしているのだろうか?いや、でも彼はオレの側近だからオレから離れるわけがない。ならいったい……


「あっ、そうそう。あんたの仲間、もうみんな倒されているわよ」

「はあっ!?」

「だってそうでしょ?魔王を倒しても他の生き残りが魔王になっちゃったら大変じゃない」


 確かにそうだ。危険因子は全部取り除かないといつまで経っても安心して暮らす事が出来ない。なら人間としては魔族は全て消し去った方が良い。


「あっ、でもどうしても雑魚は湧いて出るのよねえ……」


 高ランクの魔物は、倒されてもオレみたいにしばらく経てば復活するが、雑魚の魔物はやられたら完全に死ぬ。しかしそいつらの場合は繁殖力が強いから常に絶える事は無い。というかうざい程涌いて出る。だからシェルはそう言ったのだ。

 てかルドルフやられたのか……オレはこれからどうすれば良いんだろう?ぼっちは嫌だからまた封印されるか?

 いや、でもせっかく復活したんだ。暫くはこの生きている感覚を味わいたいのでそうなりたくない。

 ならどうするか……あっ!外に出てみよう!


「シェル!お前が風呂から出たら家まで送ってやるからなー!」

「あたちはもう大人だ!別にあんたの助けなんか必要ない!」

「でも帰り道に大量の魔物が出て来るかもしれないぞ?ここら辺には幼女を好んで襲う魔物だっているし」

「ヒッ!?」


 はい、本当は嘘です。確かに幼女を好んで襲う魔物はいるが、ここらには全くいません。


「し、仕方ないわねえ!じゃあ不本意だけど送らせてあげるわ!」


 いやいやぁー、ここは『送ってください、お願いします!』だろ、と言いたいところだが無駄な言い合いが始まりそうなので、それは止めておく。


「なら早く行くぞ!」

「ちょっ!着替え持って来なさいよ!」


 そうでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る