年寄の章 第3話 怪談

茜屋

「いや、今日はお招き頂き本当に良かった」

神屋

「良い案が見つかったのかな」

茜屋

「今の話、堺に戻ったら、重宝されるでしょう。何せ、織田殿に西からの大名が行動あれば、それは勝利間違い無しでしょうから」

白水

「先行投資と言うわけですね。ならば、私も是非乗らせて頂きたいのですが、島井様、よろしくお願いいたします」

神屋

「この場にいる者で否と言うものはおらんよ」

島井

「如何にも、如何にも」

末次

「私も織田右大将の作戦は成功すると考えています。堺は南蛮船の終点、富の力は桁違いだ」

白水

「だからあんたは博多を捨てたのかね?」

末次

「捨てるどころか。吉利支丹の為の新たな町が出来れば、南蛮船も多くやってくる。そうすればあなたも忙しくなるでしょう。南蛮人だって、唐物を多く扱っている」

伊藤

「まあまあ。皆様、そろそろあの御仁が到着する時刻です」

神屋

「そうだったな。あれは人の心を見抜く。せめて短い間だけでも、素直にしていようか」

島井

「如何にも、如何にも」

伊藤

「……」

末次

「……」

白水

「……」

島井

「……如何にも」

神屋

「……」

茜屋

「……」

伊藤

「まだ……のようですね」

神屋

「遅れているのかもしれん」

伊藤

「私、見てきます」

神屋

「構わん」

伊藤

「しかし……」

神屋

「不在ならそれはそれで、何か言いそうだ」

島井

「如何にも、如何にも」

白水

「では話の続きをしましょうよ」

末次

「何の続きですか」

白水

「織田右大将の。噂を聞きまして。なんでも、近江に壮大な城を建てるという。茜谷様ならご存知なのではと」

茜屋

「天下が鎮まった記念に築城計画があるのは間違いありません。なんでも、七層に及ぶ天守が目玉の壮大な建築計画とのこと。堺はすでに、その特需で沸騰していますよ」

神屋

「完成は何年後かな」

茜屋

「将軍御所だった二条城は三月の突貫工事でしたが、今度はご自身の居城です。三年はかかるのではありますまいか」

神屋

「茜屋さんが羨ましいな。目まぐるしい畿内に、私も行きたいものだ」

島井

「如何にも、如何にも」

末次

「宗麟殿も、臼杵に色々と建築されておりますが」

神屋

「あんた、規模が違うよ」

島井

「如何にも、如何にも」

末次

「ではいずれ、長崎にお越しください。新しく造られた湊なら、ご満足頂けるかと」

白水

「何者かに焼かれる前に、ですな」

末次

「何者かとは?」

白水

「色々いるでしょうよ」

伊藤

「まあまあ」

島井

「如何にも、如何にも」

伊藤

「織田右大将の話の続きですよ。我々博多の衆も、誼を積極的に誼を通じておく必要があるのではないでしょうか」

神屋

「それはそうだが、どのようにかね」

伊藤

「私如きでは良い案もないのですが」

白水

「近江の新城に出資するというのは如何ですか。右大将には我らの銭など不要でしょうが、なに、貰って喜ばぬ人はいないはず」

末次

「それよりも、宗麟殿を通して出資すれば、一挙両得ですぞ。それに右大将は吉利支丹びいきですから、折衝を私が引き受けても良い」

白水

「あんた、神屋様も差し置いてですか」

茜屋

「ほらほら、諍いはそこまでで。織田殿が莫大な財を持つとは言え、銭はいくらでも御入用のはず。また、吉利支丹に肩入れをしていたり、大徳寺絡みで宗麟殿と親しいのも確か。ここは堺の今井様にお取次ぎをお願いするのが一番ですよ」

神屋

「今井宗久殿か」

白水

「石見の銀山の商売敵ですな」

神屋

「うるさいぞ」

島井

「如何にも、如何にも」

末次

「線引きを確定させれば、むしろ協力できるでしょう」

神屋

「織田右大将が毛利殿と争うとなれば、それは叶わん」

茜屋

「これは投金としても捉えることをお勧めします。織田殿が毛利殿を打ち破れば、対等な関係ではなくなりますから」

??

「ふわ……」

末次

「し!今、何か」

伊藤

「え!」

白水

「!」

島井

「いか!……にも」

神屋

「……」

茜屋

「……」

白水(目配せ)

「(この茶室に槍は?)」

神屋(目配せ)

「(あの梁に仕込み槍がある。左から三番目だ)」

白水(目配せ)

「(それでは……)」

神屋(目配せ)

「(よし、上手く仕留めろよ)」

島井(目配せ)

「(如何にも、如何にも)」

伊藤(目配せ)

「(多分この辺り。そう、そこです)」

神屋

「……」

茜屋

「……」

末次(目配せ)

「(今だ!)」

白水

「そこか!」

神屋

「手ごたえは!」

白水

「び、微妙!」

茜屋

「畳返しを!」

末次

「はい!」

鑑連

「何をしている」

末次

「はい!あっ!」

伊藤

「へ、戸次様!」

島井

「如何にも!」

白水

「ひっ」

神屋

「……」

茜屋

「……」

鑑連

「茶室に竹槍とは。クックックッ」

白水

「……」

鑑連

「狙いはワシかね」

白水

「め、滅相もない!」

戸次武士

「竹槍を元の場所に戻さんか!」

白水

「は、はい。直ちに」

鑑連

「ほう。天井の梁が竹槍になっているのか。面白いな。諸君。あまりと言えばあまりな年始のご挨拶。痛み入る」

神屋

「戸次様」

白水

「……」

神屋

「不審な気配がしたもので」

鑑連

「だからワシだろ?」

神屋

「お許しください。下郎の侵入を許したのかもしれません」

鑑連

「毛利の間者かもな」

神屋

「え」

鑑連

「ちゃんと言い訳を考えておいた方が良い。茜屋」

茜屋

「へえ」

鑑連

「ワシが戸次伯耆守鑑連だ。遠路はるばる良く来た。今日は堺の話を聞きに来たようなものだ。よしなに」

茜屋

「承知いたしました」

鑑連

「どれ。この下を覗いてみるか」

伊藤

「……」

末次

「……」

白水

「……」

島井

「……」

神屋

「……」

茜屋

「……」

鑑連

「方々、誰もいないようだがな」

末次

「そ、そんなはずは。た、確かに気配が」

鑑連

「やはり、ワシを刺そうと?白水貴様、いい度胸だな!」

白水

「ど、どうぞお許しを」

鑑連

「芦屋津の一件、まだ根に持っているということか!」

白水

「いいえ!何一つ!はい!」

鑑連

「言い訳してみろ!」

白水

「はいぃひいぃ」

鑑連

「それとも神屋。貴様の差し金かな?」

神屋

「お疑いが過ぎますぞ」

鑑連

「良く聞こえなかったな。もう一度言え。ワシの目を見てな」

神屋

「あ……」

鑑連

「どうした!嘘偽りではないのなら、言ってみろ!言え!言えないのか!」

神屋

「わ、我らに邪心は何一つ……」

鑑連

「神屋貴様ワシを睨むか!無礼なヤツめ!」

神屋

「あ、いや、その」

鑑連

「ワシより吉弘や立花が良かった、と顔に書いてあるぞ!」

神屋

「ご、ご、ご無礼の段、平にご容赦いただきますよう」

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