ふたり

「いらっしゃい!」


駆け寄ってきた少女、風に揺れる淡いピンク色の長い髪は、どこか現実味がなく幻想的で、触れると壊れてしまいそう。


「初めまして、私は──」

「久條 一さんね!待っていたの!」


少女はふわりと私の手を取って、ぶんぶんと振り回した。

途端、後ろから勢いよく風が吹いて、握られた手が離された。いつの間にか少女が少し離れた場所に移動していて、──さらにもう一人、肩の上ぐらいの長さで、同じ淡いピンク色の髪をした少女が立っていた。


「───ッ!」

「クロエ!」


あまりにも一瞬の出来事で、何が起こったのかすぐには理解出来なかったけど、敵意を向けられているのは分かる。

キッ─とこちらを睨んでくる髪の短い少女を、髪の長い少女が宥める。見た目・雰囲気はとてもよく似ているのに、纏う空気が全然違う二人。

───おそらく、彼女たちが二人の


「ダメじゃない!お客様を困らせたら!」

「こんなやつに関わったらダメだよ!」

「大丈夫よ、だってヴァイスが選んできた人だもの」

「あんなやつ信じちゃだめだよ!あいつはクロエたちを利用してるだけなんだから!」


この地下で絶対的な存在のヴァイスを「あんなやつ」「あいつ」呼ばわりしながら、二人の少女の言い争いが始まった。私は完全に蚊帳の外で、二人の様子を眺めているだけ。

数分の口論の後、埒が明かない。と髪の短い少女が姿を消して言い争いは終了した。


「ごめんなさい久條さん!お見苦しい所をお見せしてしまって…!」

「いえ!大丈夫です」

「あ、自己紹介がまだでしたね、ヴァイスから説明されているかもしれませんが、がクロエです」

「本日から配属されました、久條です」


───これが少女の形をしてた世界クロエ。"幸福"と"不幸"を司る存在。

この少女を研究・観察し、彼女たちのことを知るのが、私の仕事。



「そうだ!ハジメって呼んでいい?久條だと少し遠い気がするわ」

「大丈夫…です」

「よかった、ハジメはどこから来たの?よかったら外のお話を聞きたいわ!」


そっと開いた彼女の瞳は、髪と同じ淡い色をしていた。

しかし、よく見ると瞳孔がなく、こちらを向いているものの目線が合うことはない。


「…私ね、目がこんなのだから外の世界が分からないの」

「あ、ごめんなさい」


じっと見てしまったことに気付いたのか、「気にしないで」と彼女が笑う。

資料によれば、数年前に力を使った衝動で見えなくなったらしいが、詳細は書かれていなかった。


「ヴァイスから、久條は綾芽と同じところから来たって聞いていたの。ケンダマっていう遊びも少し教えてもらったわ!」


けん玉の動きを手で説明しながら嬉々として話す彼女は、見た目相応に幼く見えた。

彼女からの外の世界への質問に答えているうちに、あっという間に時間が過ぎていて、気づくと日が沈む時間帯。


「─そろそろ戻らないと」

「たくさん話をしてくれてありがとうハジメ、とても楽しかったわ」


鞄に入れていたランタンに火をつけて、登ってきた階段をゆっくりと降りる。

暗い足元に気を付けていると、また─ひらり─と蝶が舞った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Cloe. とりの @torinohiyoko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る