ふたり
「いらっしゃい!」
駆け寄ってきた少女、風に揺れる淡いピンク色の長い髪は、どこか現実味がなく幻想的で、触れると壊れてしまいそう。
「初めまして、私は──」
「久條 一さんね!待っていたの!」
少女はふわりと私の手を取って、ぶんぶんと振り回した。
途端、後ろから勢いよく風が吹いて、握られた手が離された。いつの間にか少女が少し離れた場所に移動していて、──さらにもう一人、肩の上ぐらいの長さで、同じ淡いピンク色の髪をした少女が立っていた。
「───ッ!」
「クロエ!」
あまりにも一瞬の出来事で、何が起こったのかすぐには理解出来なかったけど、敵意を向けられているのは分かる。
キッ─とこちらを睨んでくる髪の短い少女を、髪の長い少女が宥める。見た目・雰囲気はとてもよく似ているのに、纏う空気が全然違う二人。
───おそらく、彼女たちが二人のクロエ。
「ダメじゃない!お客様を困らせたら!」
「こんなやつに関わったらダメだよ!」
「大丈夫よ、だってヴァイスが選んできた人だもの」
「あんなやつ信じちゃだめだよ!あいつはクロエたちを利用してるだけなんだから!」
この地下で絶対的な存在のヴァイスを「あんなやつ」「あいつ」呼ばわりしながら、二人の少女の言い争いが始まった。私は完全に蚊帳の外で、二人の様子を眺めているだけ。
数分の口論の後、埒が明かない。と髪の短い少女が姿を消して言い争いは終了した。
「ごめんなさい久條さん!お見苦しい所をお見せしてしまって…!」
「いえ!大丈夫です」
「あ、自己紹介がまだでしたね、ヴァイスから説明されているかもしれませんが、私たちがクロエです」
「本日から配属されました、久條です」
───これが少女の形をしてた
この少女を研究・観察し、彼女たちのことを知るのが、私の仕事。
*
「そうだ!ハジメって呼んでいい?久條だと少し遠い気がするわ」
「大丈夫…です」
「よかった、ハジメはどこから来たの?よかったら外のお話を聞きたいわ!」
そっと開いた彼女の瞳は、髪と同じ淡い色をしていた。
しかし、よく見ると瞳孔がなく、こちらを向いているものの目線が合うことはない。
「…私ね、目がこんなのだから外の世界が分からないの」
「あ、ごめんなさい」
じっと見てしまったことに気付いたのか、「気にしないで」と彼女が笑う。
資料によれば、数年前に力を使った衝動で見えなくなったらしいが、詳細は書かれていなかった。
「ヴァイスから、久條は綾芽と同じところから来たって聞いていたの。ケンダマっていう遊びも少し教えてもらったわ!」
けん玉の動きを手で説明しながら嬉々として話す彼女は、見た目相応に幼く見えた。
彼女からの外の世界への質問に答えているうちに、あっという間に時間が過ぎていて、気づくと日が沈む時間帯。
「─そろそろ戻らないと」
「たくさん話をしてくれてありがとうハジメ、とても楽しかったわ」
鞄に入れていたランタンに火をつけて、登ってきた階段をゆっくりと降りる。
暗い足元に気を付けていると、また─ひらり─と蝶が舞った。
Cloe. とりの @torinohiyoko
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