時計塔

───クロエという存在は2人の少女の姿をしている。

最初に貰った資料を見たときに、そう書かれていた。


***


街の中心にある時計塔。研究所内にあるその真下、入口に案内されて、久條は上を見上げた。


簡易的な階段のみの空洞。最上階は遠くて見えず、三人の足音が響いて消えていく。これだけ大きな建物であれば、国の象徴と呼ばれているのも納得できる。


「さて、ここから先へ入れるのは久條くんだけだから、頼んだよ」

「 がんばります…」

「いってらっしゃい」


ヴァイスさん、綾芽さんに見送られ、一歩、また一歩と階段を昇る。風の音、鳥の声、自分の足音だけが響く中、ひたすらに体力が消費されていった。ある程度上まで上がると、街の賑やかな声が聞こえてくる。


───賑やかで、楽しそうな笑い声。


少し羨ましくもなりながら、最上階を目指してひたすら足を動かした。


「…あとちょっと」


体力も限界の頃、ようやく最上階が見えてきた辺りで、─ひらり─と蝶が飛んできた。しばらく近くを舞った後、まるで誘導するみたいに目的の部屋の方へと消えていく。


***


やっとたどり着いた最上階は、草花などのモチーフで細かい彫刻が施された厳重な鉄扉。綺麗な扉だけれど、冷たく、牢屋のような印象。


息を整えてドアノッカーを叩く。

──ゆっくりと、静かに扉が動いていく。少しずつ広がる隙間から見える中には物が少なく、殺風景な部屋。唯一見えたベッドには、一人の少女が腰かけていた。


「…失礼します」

「いらっしゃい!会えてうれしいわ!」


部屋へ踏み込むと、少女が気づいて駆け寄ってきた。

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