第六話
空き地からは、大量の死体が発掘された。腐敗が進んでいるものが多く、すさまじい悪臭が漂っている。中には白骨化したものや、腐敗したばかりで蛆が湧いているものがいくつかある。
「これで全部だね」
桜庭はそう言うとスコップを地面に置いて、伸びをした。
目の前に広がるのは、夥しい数の死体。
「いやぁ、骨が折れた。疲れてそうだね、アレックス」
地面の固さや草の生え方で死体が埋められてそうな場所を手当たり次第に掘ったのだ。怪しいと思った箇所全てに死体が埋められているとは限らないので、数か所は無駄に掘ったことになる。死体を発見すれば、どんな状態だろうが引っ張り出す。それに、掘り返したらそのままにしておくわけにもいかない。土で再び埋める必要がある。それらの作業を繰り返すこと数十回。この空き地の地面の八割以上は死体が埋まっていた。
「そりゃあ疲れますって。まさかこんなに埋まってるとは思いませんでした。かなり時間かかりましたね」
アレックスは地面に突き刺したスコップに体重をかけて、一息ついていた。息が少しあがっている。
「死体処理屋はもうそろそろ到着かな?」
「そうですね。連絡では二時頃に到着するって言ってましたし」
「じゃあほんとにもうすぐだ」
桜庭は死体の山を眺めた。中々に凄惨な光景だ。
ふと、ある白骨死体の首から下げられている古びたロケットが目についた。近づいて、中の写真を見てみる。
「どうしました?」
「ちょっとね…」
桜庭は骨となった首からロケットを外し、取り出したハンカチで包むとポケットにしまった。
その後、ほどなくして死体処理屋が到着した。四人だったが、四人全員が迎えに行ったアレックスの顔を見ると緊張した。アレックスはばつが悪そうに苦笑いをしている。そこで、何やらこそこそと話し始めた。
「ふぅん?」
盗聴器は外されているらしく、何も聞こえない。見たところアレックスとその四人は知り合いのようだ。時折あからさまに俺を見てくる。
アレックスに呼ばれた死体処理屋なので、裏社会の一員には間違いない。それも、副業や小遣い稼ぎとして裏社会に関わっているのではなく、どこかの組織の後ろ楯がきちんとあり、裏社会での生活が中心となっているだろう。もしかするとアレックスの組織が後ろ楯となっているのかもしれない。
必要に迫られてきているので、そろそろちゃんとアレックスの組織の名前を覚えようかと思った桜庭に、アレックスが視線を向けてきた。
気づいた桜庭は首を傾げる。桜庭はそのまま何もせずにアレックスを見ていた。すると、アレックスが近づいてきた。
「何?」
「いや、盗聴器外したの忘れてて…聞こえてるもんだと思ってたので、説明しに来ました」
「あ、そ。アレックスってさ、ほんとに幹部なの?」
「疲れてるだけですって」
「それならいいんだけど」
一般人でも自分の二十四時間以内の行動くらい覚えているだろう。時々アレックスを幹部にしている組織が心配になってくる。
「あの四人は俺のとこが贔屓にしている死体処理屋のメンバーです。志希さんのことは勿論知ってますし、怖がってましたよ。俺はここ何年かまともに仕事してないんで気まずかったんですけど、あいつらはそう思ってないみたいで、話しながら最近の情報が手に入りました」
周囲からの支援があってこその首領だ。権力だけでなく、権威も兼ね備えた者でないと支配者は務まらない。その点、アレックスは首領に向いているのではないだろうか。
「帰ったら改めて聞くからさ、とりあえず仕事してもらわない?」
「あ、そうですね」
手持無沙汰にしている四人に、本来の目的を忘れられたら困る。
桜庭は死体処理屋の四人に笑顔で手をひらひらさせながら歩み寄った。一斉にびくついて、顔から血の気がなくなった四人。
「俺ってそんなに怖いかな?」
一人は後退り始め、一人は腰が抜ける寸前で、一人は直立不動のまま硬直し、一人は過呼吸になりかけている。
「止めてあげてください」
見かねたアレックスが桜庭と向き合うように、四人の前に割って入った。
「悪い癖ですよ」
「うん、わかってる。性格悪いよね」
怯えられると嗜虐心が擽られて、余計に怯えさせたくなる。それだけでなく怒っている人に対しても、わざと火に油を注ぐようなことをしてみたくなる。泣いてる人がいればさらに泣かせたいと思うし、困っている人には手伝うことよりもまず困らせるようなことをしたいと思う。
「ほんっとそうですよね」
「そう怒んないでよ」
からかうのもそこまでにして、思考がフリーズしている四人に目をやった。
「ごめんね?」
またしてもアレックスに割り込まれる。
「とりあえず回収を頼む」
やや苛立っているアレックスだが、四人には当たらずに桜庭に蹴りかかることで落ち着いた。
「危ないなぁ」
死体処理屋が仕事に取りかかり始めた様子を見ながら蹴りを躱してそう言えば、舌打ちが返ってくる。
本気で当てようとしていないくせに。
「思ってもないこと言いますね」
「あは、バレちゃった」
かく言う桜庭も、危ないなんて本気で思ってない。アレックスとはしばしばこういう類いの遊戯をするのだ。
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