第95話

 アルディナの元を去ってから翌日、暴食の洞窟のことをバースに報告し、俺達はフォルティスの町に戻ることにした。


 グランの馬車の中には来たとき同様の荷物を乗せ、俺も猫のままだ。


 例のアルディナに貰ったポーチに入れてもいいのだが、説明が大変なので、フォルティスの町の家までは使わないと、昨晩決めたのだ。


 精霊のルエラも騒ぎにならないように、ソフィアの指輪の中で待機している。


 帰り道は特に問題という問題もなく、無事にフォルティスの町に帰って来ることが出来た。


 そして、本当の問題は家に帰ってからのことになるのだった。


「リアン様が私の部屋にいるのって新鮮ですね」


「俺はいつも一緒にいるからいつも通りだけどな」


 ソフィアの自宅の部屋に帰ると、俺は人間の姿に戻った。服がまだないので、大きなタオルを巻いただけの姿だが。


 今は荷物整理が終わり、ソフィアとベッドに腰掛け、少し落ち着いたところだ。


「リアン様にとってはそうでしょうけど、男の人が私の部屋にいるってだけで、ドキドキしちゃいます。それに私はリアン様のことが……その…………」


 ソフィアは頬を赤く染めて、上目遣いで俺を見つめて来る。その目は僅かに潤んでおり、熱がこもっている。


 流石の俺でも、ソフィアに以前告白されているので、何を言おうとしたのかは、すぐに分かった。


 だが、俺はそういうことに今まで無関心だったので、どうしたらいいのか分からない。


 しばらく見つめ合っていると、ソフィアが目を閉じて顎を少し上に上げた。


 俺はそれが何を意味しているのか分からなかったので、とりあえず風呂に入ることにした。せっかく人間になれたんだから、1人で風呂に入りたい。


 猫のままではソフィアの手を借りないと風呂に入れなかったしな。


 俺は静かに立ち上がり、着替えもないのでそのまま風呂場へと向かった。


 すると、ベッドの方からソフィアが「リアン様が消えた!?」と叫び声が聞こえてきた。


 どうやら何かに真剣になっていたようで、俺が居なくなったことに気が付いていなかったようだ。


 俺が風呂場から「ここにいるぞ」と返事をすると、風呂場の扉が開いてすぐに閉じた。


「なんで裸なんですか!!」


「風呂に入るから当たり前だろ」


 その後、なぜか分からないが、ソフィアは不機嫌となってしまった。


 俺が風呂を堪能した後、入れ替わるようにソフィアが風呂に入った。


 そして、旅の疲れを取るために、早めの就寝をしようとことになったのだが、俺のベッドはどうするかという話になった。


 今までみたいに猫になって寝るのが一番早いのだが、俺としては久々に人間の姿で寝たい。それにソフィアの布団の中でいつも寝ていたので、一緒に寝てくれると寝やすい。


「俺としてはソフィアを抱いて寝たいんだが」


 と、思っていたことを素直に伝えると、ソフィアは今まで見たことのないぐらい顔を真っ赤にした。


「り、リアンしゃま。いきなり過ぎるのでは………。いえ、嫌ではないのですけれど、まだ心の準備が」


「準備も何も、いつもしていることだろ」


 いつも一緒に寝ているから、そこまで問題はないと考えているんだが。まぁ、いつもは俺が抱きしめられる側だったから、逆にはなるだろうけど。


「で、でも」


「大丈夫だろ。ほらこうすれば寝れるだろ」


 俺はソフィアを抱き枕のようにしてベッドに一緒に倒れた。1人用のベッドでもこうすれば2人寝られる。


「あわわわわわわ」


 ソフィアが変な声を出しているが、俺としてはソフィアを抱き締めていると、柔らかくて安心できる匂いですぐに眠気がやってくる。


 俺は裸だから、ソフィアの感触が直に伝わってくるが、今は眠気の方が強い。


 俺は気が付くと、そのまま意識は夢の中に落ちていた。



 ☆     ☆     ☆



 sideソフィア


「……………本当に寝ちゃったの?」


 頭の上から規則正しい寝息がすぐに聞こえてきた。


 私はリアン様に抱き締められているので、目の前にはリアン様の胸板がある。


(こんなのドキドキして眠れないよぉ。なんでリアン様はこんな風に寝られるの?)


 今までは猫だったから平気だったけど、男の人となると話は違う。


 別に嫌という訳ではないが、なんか女として負けた気分になる。


(……………私、魅力ないのかなぁ)


 でも、以前私が告白紛いのことを言った時には、リアン様も私に好意があるようなことを口にしていた。


(私は嫌われていないもん。ただ今日は疲れているだけだよね。うん)


 私も疲れているし、今日はこのまま寝よう。


 そう思ったのだが、リアン様の匂いや身体を意識して、中々寝付けない。


 むしろ、悶々とした気分になってくる。


(…………………これ、リアン様の当たって)


 リアン様は服を着ていない。そのまま抱き締められたら、必然と男の人のが私の下腹部に当たっていることに気が付いてしまう。


(別に硬いわけではないけど、ないけど…………ないけども……………)


 手を下に伸ばせば、気になるそれに触れられる。


 でも、寝ている人のに触れるのはどうかと思い、私は思い止まる。


 そこで、私はあることに気が付いてしまう。


(うぅ…………私、こんなに濡れやすかったっけ?そこまでエッチな子じゃないのに……………。そうだ。これはリアン様のせい。リアン様のせいだもん。大好きなリアン様が抱き締めてるせいだもん)


 私は悶々とした夜を過ごすこととなった。



 ☆     ☆     ☆



 sideリアン


 翌朝。


 俺は久々に気持ち良く寝られることが出来て大満足だった。腕の中ではソフィアは可愛らしい寝顔で、すやすやと寝息を発てていた。


「んー、もう少しこうしてるか」


 ソフィアの抱き心地は素晴らしかった。このまましばらく堪能してようかと考えていると、俺の腰か足の付け根辺りが濡れていることに気がついた。


 最初はお漏らしを考えたが、それにしては粘り気がある。


 そして、ソフィアが無意識なのか、俺の腰辺りに足を絡ませていることに気が付いた。


「まさかソフィアの………」


 そこまで考えて、これからどうしたらいいのか考えることにする。


 ソフィアが寝ている時にこうなることはあった。主な原因は俺だが。


 いつもなら、起きたソフィアが恥ずかしそうにして、1人で風呂へと向かうという流れだ。


 それならば、先に風呂を使おうかと考えたが、ソフィアに足が絡められていて、ソフィアを起こさずに抜け出すことは難しい。


「………………………なるようになるか」


 俺はこのまま運命に身を委ねることにした。


 結局、ソフィアが目を覚まし状況を理解すると、ソフィアは悲鳴を上げて俺に見事なビンタを食らわして来た。


 そして、逃げるように風呂場へと向かい、しばらく出てこなくなってしまった。


 俺が声を掛けても、「1人にして下さい」と返されるだけで、風呂場から出てくるのに半日近く掛かった。


 とりあえず、ソフィアの事情で俺はしばらくの間、寝るときは猫になることが決まった。

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