第94話

「むー…………………」


「どうなんだ?」


 アルディナは俺と隣で気絶しているソフィアを交互に見ては唸っていた。


「ふむ。ソフィアの想いの強さが原因かのぅ。使い魔契約は書き換えられたんじゃが………」


「何かあるのか?」


「ふむ。簡単に説明するとじゃな、同種族でも使い魔の契約が成り立つように変えたんじゃが、ソフィアのお主に対する想いからなのか、追加効果が発現してもうた」


「それは危険なものなのか?」


「それは分からぬ。じゃが、危険はないであろう。お主への想いから生まれたのじゃからな」


 それを聞いて俺はホッとした。同時に気恥ずかしくもなった。


「そうそう。これが重要なんじゃが、リアン、お主はソフィアと意志が合えば、いつでも猫にも人間にもなれるぞ」


「…………は?」


「妾が剥がした魔力は暴走している部分だけじゃ。なので、猫になる魔法は掛かったままなのじゃ。まぁ、先程言った追加効果の1つみたいなものじゃな。それに丁度良かろう?このまま変態に成り下がりたくはないであろう?」


「た、確かに」


 腰布一枚で、外に出るわけにはいかない。服を買おうにも町まで行かないといけない。


 そういう意味では、猫になれるのはありがたい。


 それからしばらくして、ソフィアが目を覚ました。


 ソフィアにも俺にした説明をし、試しに猫になるようにお互いに念じてみた。


「にゃ!?」


「本当に猫になった」


 そして、今度は人間にお互いに念じる。


「おおっ!!戻ったぞ!!」


「リアン様っ!!隠してっ!!」


 結局、裸でいられると嫌だというソフィアの意見で、今は猫に落ち着くことになった。だが、それだと話が出来ないので、人間に戻り、また腰に布を巻くことになる。


「さて。それと精霊を今後も連れていく予定かの?」


 アルディナの視線はルエラに向いた。


「その予定ですけど、何か問題ありますか?」


「この精霊の場合は木々が多い場所でないと、身体の維持が難しくなるんじゃ」


「そうなの?ルエラちゃん」


 ルエラはソフィアに聞かれると、こくんと頷いた。


「でも大丈夫なの。姿見えなくても、近くにはいるようにするの」


 ルエラは大丈夫だというが、それはご飯を食べずに近くにいると言っているようなものだ。


 ソフィアもそれに気が付いているからなのか、表情は優れない。


「ソフィアよ。これを使え」


 アルディナは何処からか指輪を取り出し、ソフィアに渡した。


「これはなんでしょうか?」


「そいつは精霊石じゃよ。魔石の上位互換とでも言うのかの。そいつをお主と精霊の契約の媒体にするのじゃ。さすれば、お主の魔力と精霊の間にパスが出来る」


「えっと、それはつまりどういうことでしょうか?」


「その指輪を通して、精霊に必要な魔力をお主が受け渡すことが出来るようになるのじゃ」


「要するに、町中でもその指輪から魔力をルエラに受け渡せば、ルエラは苦労しなくて済むってことだ」


 アルディナの言葉に俺が情報を足す。すると、ソフィアはようやく理解出来たのか、嬉しそうに顔が綻ぶ。


「ありがとうございます。ルエラちゃん、さっそく契約しよ」


「うんなの」


「リアン様、精霊契約ってどうすればいいのですか?」


「いや、俺に聞かれても知らん。そもそも精霊を見たのだってルエラが2人目だしな」


 1人目はもちろんミレイの氷の精霊と思われるやつだ。


「妾が知っておる」


 アルディナはそう言うと、ソフィアとルエラを契約させるために、魔力で陣を描いていく。


「ほれ。お主ら、魔法陣の中に入るのじゃ」


 ソフィアとルエラは言われるがままに、魔法陣の中へと入った。


「始めるぞい」


 アルディナがぶつぶつと何か呟くと、更に魔法陣は輝きを増し、視界が白く塗り潰されてしまう。


 俺はそんな中、目を細めて見てみると、ルエラから光の粒子が溢れ出て、ソフィアの指輪へと吸い込まれていく。


 そして、ルエラの形は次第に薄くなり、完全に粒子となりソフィアの指輪に吸い込まれていった。


 ソフィアもルエラが消えていく所を目の当たりにしているが、騒いだりせずに指輪を見つめていた。


「…………ルエラちゃんが一緒にいるのがわかります」


 ソフィアがそう言うのと同時に魔法陣の光も消えていく。


「うむ。成功じゃ。これでお主の魔力を指輪を通して精霊に受け渡せるようになった」


「アルディナ様、本当にありがとうございます」


「ありがとう、なの」


 ソフィアがお礼を言うと、指輪から溢れた光の粒子がルエラとなり、一緒にお礼を言った。


 その後、俺は猫に戻り…………戻るって大分猫になっているのが当たり前になってきているな。


 俺は猫になって、そろそろお暇することにする。


「お世話になりました」


「うむ。久々の弟子が面白い可笑しくなっていたのだ、妾も楽しめた。そうじゃ。最後にこれも渡しておこう。そこまで大きくはないが、今後はこれに荷物を入れると良いじゃろう」


 アルディナは腰に付けるポーチを渡して来た。大きさもそこまで大きくはなく、小瓶が三本も入れば良い方だ。


「でもこの大きさではそこまで大きな物は………」


 ソフィアも疑問に思ったことを口にする。


「これは時空間魔法が掛けられたポーチじゃ。中はある程度の広さがある。試しにソフィアの持っている荷物を入れてみるのじゃ」


 ソフィアが冒険用の少し大きめなカバンをその小さなポーチに入れると、吸い込まれるようにカバンが消えていった。


「か、カバンが消えちゃった」


「消えておらぬ。カバンを思い浮かべながら手を入れるのじゃ」


「わわっ」


 言われた通りにすると、カバンがソフィアの手に現れた。


 そういえば昔にアルディナが使っているのを見たことあるな。あまり良い思い出がないから忘れてたな。


「それに入れている物は時間も凍結する。冒険をするお主には必要じゃろう。町に戻ったらリアンの服もそれに入れるが良い」


「本当に何から何までありがとうございます」


「うむ。リアン、お主も催促での」


「にゃ」


 こうして俺達は、アルディナの元で色々なものを得て去ることになった。


 グランの待つ集落まで戻る時には、既に日が暮れており、暴食の洞窟へソフィアが出発してから1日以上が経っていた。


 暴食の洞窟は1日に1度魔力が吸われることで有名のため、1日に1度は帰って来ると考えていたグランは、帰って来なかったソフィアのことを、我が娘のように心配していた。そして、ソフィアの無事な姿を見て、本当に安心した顔をするのだった。

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