先生と教え子の新たな関係
第92話
「ふむ。お主のギフトの効果かえ?上手く押し込めてるの」
声の主はソフィアの近くにやってくる。
声の主は本当に小さな女の子で、ルエラより年下に見える。
黒髪でツインテールをしているからなのか、余計に幼く見えた。
しかし、女の子から溢れる威圧感が凄い。
「どれ。こやつの根源を絶つとするかの」
紅い両目が輝きを増し、膨大な魔力が意思を持った生物のように、女の子の中から溢れ出てくる。
「ナッシング」
女の子は静かにそう呟いた。
すると、奥から溢れ出て来ていたどす黒い魔力が沈黙した。
「す、すごい」
(今のは闇属性の上級魔法。全てを無に帰す魔法。上級魔法に区分はされているが、膨大な魔力を消費するため、使用出来る人がいないとされている。だけど、俺は1人だけ使用出来る奴を知っている。やはりこいつは………)
女の子が振り返り、ソフィアを見る。そして、肩に乗っている黒猫の俺に視線を合わせた。
「………………リアンか?」
「……………………」
「え?え?」
ソフィアは、女の子がいきなり俺の名前を当てたことに驚きを隠せないでいた。
「くっくはははははは!!どうしたのだリアン。その姿は!!くっくっくっ」
女の子は大笑いをして腹を抱えている。
「あ、あの………」
笑い続けていた女の子に、ソフィアは戸惑いながらも声を掛ける。
「くっくっくっ。す、すまないな。久々に見た弟子の姿がこんな面白可笑しくなっているとは思わなんだ」
「で、弟子?」
「ああ。妾の名前はアルディナ・アートゥルス。其奴、リアンの魔法の師匠ってところじゃ」
そう。この女の子はアルディナ、俺の師匠だ。こう見えてアルディナは百年以上生きている不老不死というやつだ。これはアルディナのギフト『不老不死』の恩恵だ。
姿形はある程度自由が効くと聞いているが、何故かあえて女の子の姿を取っているそうだ。
「ふむ。一先ず場所を変えるかの。煩すぎて落ち着かん」
先程のどす黒い魔力を押さえ込んでいたソフィアと、それを打ち破ったアルディナに、周りの冒険者やレジスタンスの人達は注目をしていた。
アルディナはそんなのを気にせずに、人混みの中へ入っていく。
人々は畏怖するように分かれていき、出口までの道が出来る。
俺はソフィアの肩の上で尻尾を使い、着いていくようにジェスチャーをすると、ソフィアは歩きだした。
ルエラもソフィアの後ろに付いてきた。
洞窟を出ると、騒ぎを聞き付けたのか、レジスタンスの面々が多くいた。その中にはバースもいた。
「ミール殿、これはいったい」
「えっと、ビッグトロルは討伐出来たと思います」
「なんと」
バースは驚き言葉を失った。
「思うではなく、確実に殺ったぞ。先程のが元凶ならばじゃがのぅ。あれの根元を確実に消した」
「あなたはいったい………」
「詮索不要じゃ。それよりレジスタンスならば、上に報告すればよい。あの洞窟の暴食の暴走は食い止めた、とな。ほれ、行くぞ」
「し、失礼します」
呆気に取られるバースを横目に、俺達はアルディナに着いていった。
しばらく森の中を歩いていると。
「ん?今何か抜けたような」
「ほう。妾の結界にも気付くか。若いのに優秀じゃの」
そして歩き続けてそれなりの時間が経った。
すると、一軒の木で出来た家が見えてくる。
「入れ」
「お、お邪魔します」
中は相変わらず質素なものだった。長く暮らすための最低限の物しかない。
「そこに座るがよい。リアンはそうじゃの、机の上にでも乗っておけ。精霊のお主も適当に寛いでよいぞ」
俺達は言われた通りに席に着く。そして簡単に自己紹介を終えて。
「それでリアン様の師匠というのは」
「そうじゃの。まずそこから説明するとするか。もう何年も前じゃったかの。妾はここで百年以上暮らしているのじゃが」
「百年っ!?」
「む?そうか、まずそこからじゃったか。妾のギフトは『不老不死』。年を取って死ぬことはないのじゃ。で、話を戻すぞ。其奴リアンは、あの洞窟での戦いで使った魔法で妾の家まで破壊しての」
(そうだった。トロルを殲滅しようとギフト『暴走』の加減を考えずにフレアバーストを連発したんだっけな。まさか家が建ってるなんて思ってもなかったし)
「それで家を破壊した犯人をリアンだと突き止めて、とっちめたのじゃ。そしたら妾に魔法を教えろと懇願してきの」
「え?」
「理由までは知らんからの。本人に聞いてみるんじゃな。ほれ」
「にゃっ!?」
アルディナが何か呟き、俺に何か液体を掛けてきた。すると、俺の身体は光り始め。
「いきなり何すんだロリババァ!!」
「え?リアン………様?」
「え?俺の声が………」
俺は自分を見下ろすと、人間に戻っていた。
「ふむ。上手くいったようじゃの。それよりその汚物を早く隠さんか。年頃の乙女もいるのじゃぞ」
「~っ、リアン様のっ!?リアンしゃまのっ!?」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!何か着るものくれぇぇぇぇ!!」
「ここにお主に合う服があるわけなかろう」
その後、適当な布を貰い、タオルのように腰に巻くことで隠すことが出来た。
「…………っ~」
しかし、ソフィアと目が合うと、そっぽを向かれてしまう。
「それにしても久々の再会だというのに、お主はなんで面倒事を持ち込むのじゃ」
「うるせえ。俺も自分で戻れなくて困ってるんだ」
「変身魔法のう。とりわけ、開発して自分に掛けてはみたが、動物だと魔法の発音が出来なくて、戻れなくなったという落ちじゃろ。しかも『暴走』付きで」
「ぐっ」
まったくその通りなので、反論が出来ない。
「しかも、その魔法はお主自身の魔力じゃから、お主に馴染んでおる。異物の呪いみたいに剥がすのは困難じゃ。今の姿を維持出来るのも持って一刻じゃろう」
「だよな」
「まぁ、その小娘のギフトなら可能かもしれんがの」
「わっ私のですか?」
いきなり話を振られて戸惑いの声を出す。
「うむ。お主のギフトはかつて精霊の主と呼ばれた者の血族のものじゃろう」
「精霊の主?」
「お主、先程ソフィア・ミールと名乗っておったが、本当の名はソフィア・リーネ・フルーリエじゃろ?」
「っ!?なんでその名前を」
「お主は覚えておらんかもしれんが、お主が幼い頃、一度会ったことがあるのじゃ。まさか生きているとは思わなかったがの。でもこれで確定じゃ。フルーリエの王族は精霊の主の血縁じゃからの」
このロリババァがソフィアのことを知っていたことにも驚きだが、精霊の主とかよく分からない単語が出てきて、分からなくなってきたな。
「そ、それでどうしたらリアン様は戻れるのですか!?」
「ふむ…………教えても良いが、辛いかもしれぬぞ。お互いにな」
「構いません。リアン様が戻れるなら、私は協力します」
ソフィアははっきりたそう言った。
「リアン、お主も覚悟はあるか?」
「ああ。戻れるなら戻りたいからな」
「そうか。ならばリアン、ソフィアのこと、一生大事にせねばならんの」
「それはどういうことだ?」
言葉の意味が解らず、聞き返してしまうが、それに答えてはくれなかった。
「方法を簡潔に説明するぞ。妾がリアンの悪さをしている魔力を引っ張りだす。ただ、引っ張り出しただけではすぐに戻ってしまう。そこで、ソフィアのギフトで引っ張り出した魔力を消してしまうのじゃ」
「………なんとなく言いたいことは分かるが」
「私には難しくてよく分からないです」
俺とソフィアは真逆の感想となった。
「でも師匠、魔力を引っ張り出すことなんて出来るのか?」
「妾が全力でやれば可能じゃ。ただそれでも持って数秒じゃろうがな」
「それはかなり絶望的なんじゃないか?」
「じゃな。一回で成功しなかったら、妾も数日は回復せんと再挑戦出来んじゃろうし」
アルディナの魔力でそれは相当だ。それだけソフィアの魔力消しが重要になってくるということだ。
「それで私はどうしたらいいのですか?」
「そうじゃの。まず服を脱いで貰おうかの」
「はい!………………え?」
返事はしてしまったものの、内容を理解するのに時間が掛かるソフィアであった。
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