第89話
暴食の洞窟に入って数分。
俺達は、レジスタンスの人達の3人がランタンで辺りを照らしながら進む。
残りの2人とバースは、いつでも戦えるように、臨戦態勢で進んでいる。
そんな中、俺とソフィアは洞窟の先に魔力を薄くして伸ばしているので、先にトロルがまだいないことがわかっているので、辺りを観察しながら歩いていた。
途中途中、明らかに破壊されたような跡が、壁や天井にある。
恐らくはトロルとの戦闘痕だろう。
「トロルってこんな浅い所まで来ることあるんですか?」
「ああ。ここの洞窟を最初に発見した時は、洞窟の外に普通に蔓延っていたからな」
(確かにそうだった。俺が学生の頃に来た時は、まだ外に出ていたな)
少し懐かしい気持ちになりながら進んで行く。
「ミール殿、ここまで来るまで深い森が続いていたのに、この洞窟や集落の周りは、森が開けてると思わなかったか?」
「そういえば確かに」
(あ~………そうか。あの時、こいつもいたんだっけか)
俺はバースが話そうとしている内容がわかってしまった。
「10年程前は洞窟の前も森が広がっていたんだ。その時も一応は我々レジスタンスが駐留する場所はあったが、今みたいな集落はなく、小屋が数件しかなかったのだ。で、森がなくなった理由だがな。こいつが信じられんことに、一緒に行動していたまだ1人の学生がぶっぱなした魔法で、外に出ていたトロルと一緒に木々共々吹き飛ばしちまったんだ」
「そんな学生さんがいたんですね」
「ああ。しかも偶然だろうが、ミール殿の黒猫と同じ名前でリアンっていう奴なんだ。あいつのギフトだと、その威力で最小限なんだと。あの時があいつの魔法を初めて見たが、先輩としてはずかしいが腰抜かしそうになったのを覚えてる」
笑いながら話しているが、バースは実際に腰を抜かしていたような気がする。
それにあの時は俺も『暴走』のギフトを操りきれていなかったしな。いや………今もか。じゃなきゃこんな姿になってない。
「へ、へぇー…………そう、なんですね」
ソフィアのじとーとした視線が俺に刺さって来る。なんとも居づらい感じになってしまったな。
「っ」
「どうしたのだ?」
いきなり立ち止まったソフィアに、バースが問い掛ける。
「この先に何かいます」
俺もソフィアを通じて大きな何かが、少し行った所にいることを察していた。
この先の空間は広くなっているようで、そこにいるのはわかる。恐らく数は1。まぁ、この洞窟でこの大きさならトロルで間違いなさそうだけど。
トロルは身体が大きく巨体だ。見た目と反して皮膚は硬く、生半可な攻撃は受け付けない。
「数はわかるか?」
「恐らく1体だと思います」
「1体か。ミール殿がやってみるか?」
「そうですね。ちょっと怖いですが、やってみます」
1体ということで、例のビッグトロルではないと判断したのか、バースはそんなことを言ってきた。
「ああ。こちらもすぐに援護できるように準備しておくか、安心して戦ってくれ」
暗い洞窟をランタンで照らしながら進んで行くと、広い空間に出た。
先は暗く何も見えないが、そこに何かいることはわかる。
「にゃ」
「うん。ライト」
ライトは光属性のただ灯りを周囲に灯す魔法だ。ここに来る前に、洞窟に行くということで覚えて来た魔法だ。
周囲の皆は光属性の魔法を使ったことで、驚いていた。
(まぁ、光属性持ちは数少ないしな)
そして、そこにいたトロルは、いきなり眩しくなったことで、目がやられたのか、その大きな手で目を隠していた。
だが、トロルは鼻もいい。こちらの存在に気付いているようで、地響きを鳴らしながらこちらに向かって来た。
「ロックプリズン!」
地属性魔法ロックプリズン。
トロルの足に地面が蠢き岩が絡み付く。
トロルの巨体に耐えられずにすぐに破壊はされたが、バランスを崩し転倒する。そこに。
「ん、ロックグレイブ!!」
倒れようとする地面から、岩の槍が貫こうと伸びてくる。
因みにロックプリズンからロックグレイブまでの時間は一秒ちょっとだ。
ソフィアがロックグレイブを発動させた時に、あまりの魔法の発動速度に、後ろから息を飲む音が聞こえてきてくる。
そしてトロルは、その岩の槍を身体で受けながら転倒してしまう。しかし、傷を付けたのはかすり傷程度で、岩の槍が逆に破壊されてしまっていた。
「グゴオォォォォ!!!」
それでも傷付けられたことが気に触れたのか、大きな咆哮を上げながら立ち上がる。
「アクアレイザー!!」
ソフィアは自分で使える2つの上級魔法の内、水属性の魔法を使用した。フレアバーストは洞窟内では危険なので、こちらを選んだのだろう。
しかし、トロルに当たるが、貫通はせずにかすり傷程度しかダメージを与えることしか出来ない。
「リアン!」
「にゃあ!」
言われなくても、次にやろうとしていることは、何となく分かっていた。
ただこんなに早く使うことになるとは思ってなかったけどな。
俺とソフィアはそれぞれ別々にアクアレイザーの魔力制御を行う。
この時にソフィアが唱えれば、『
しかし、このまま放ったとしても、かすり傷を2ヶ所に増やすだけで、倒すことが出来ない。
ならばアクアレイザーの数ではなく、威力を上げなければならない。
俺のアクアレイザーの魔力制御をソフィアの魔力制御に融合させる。
「んんっ」
そして再び、アクアレイザーの魔力制御を行い、ソフィアの魔力制御に融合させる。ソフィアの分もいれて、アクアレイザー3発分が貯まったことになる。
「にゃあ!!(行け!!)」
「っん、あ、アクエリアスレイザー!!」
俺とソフィアのオリジナル融合魔法アクエリアスレイザー。
アクアレイザーより太く、魔力の集中により、青く輝く一本の水の光線は、向かってくるトロルの顔面に吸い込まれていく。
そして、水の光線が消えると、顔の無いトロルの身体が傾き、絶命した。
「「「おおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
初めて見る魔法だったのか、後ろに控えていたレジスタンスの仲間達は、歓声を上げた。
「っはぁ、はぁ、はぁ………」
初めて実戦で使った技法『
やはり負担が大きかったか?練習の時は初級魔法でしか試してなかったし。
「だ、大丈夫だよ。ただ………」
ソフィアは顔を赤くして俯いてしまう。そこにソフィアからその………匂いを強く感じた。
「うぅ………パンツが」
その言葉でどうなってしまったのか理解出来た。
「ミール殿、大丈夫か?」
「は、はい。大丈夫です」
ソフィアは頑張って立ち上がるが、少し足がプルプルしている。
「少し休憩したら、もう少し奥に行ってみるか」
バースはソフィアが疲れていると思い、そんな提案をした。
ソフィアはその言葉に小さく頷いた。出来るだけ赤くなった顔を見せないようにしながら。
まぁ、多少疲れてはいるだろうが、別の意味で居づらいのだろうな。
にしても、この『
俺はそんなことを考えながら、ソフィアの傍らを付いていくのだった。
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