第87話
俺とソフィアはグランとの待ち合わせ場所に向かい、無事にグランと落ち合うことができた。
そして、グランをソフィアが取った宿屋に案内すると、予想より綺麗な宿屋で驚いていた。
ここの宿屋は他より値段設定が高い。
それでも経営が出来ているということは、サービスが良く、清潔さを保っていられているからなのかもしれない。
グランはソフィアが依頼達成するまで、ここで生活することになるので、少し嬉しそうにしていた。
「嬢ちゃん、今日は洞窟には行くのか?」
「はい。まだ時間もありますし、見に行くだけ行ってみようかと」
例の暴食の洞窟は、ここから10分程歩いた所にある。
まだ太陽も高い位置にあるので、洞窟の奥まで行かなければ、余裕で戻って来れる。
「よし。それなら俺も一緒に行くか」
「え、でもグランさんは御者ですし」
「今俺は嬢ちゃんに雇われているんだ。雇われた御者は雇い主を護衛するもんだ」
「そうなんですか?」
「ああ。まぁ、あくまで俺の主義だけどな」
「ありがとうございます!」
ソフィアは俺がいるとはいえ、洞窟内に実質的な戦力が1人だと、不安だったのだろう。
嬉しそうにグランにお礼を言った。
「だが、1つ言っておくことがある」
グランは改まった顔をして、ソフィアを見た。
俺もソフィアも何事かと思い、グランの言葉の続きを待つ。
「トロルが出た時は下がらせてもらう。流石の俺もあいつの攻撃に耐えられる気がしないからな」
グランはそう言って、笑うのだった。
☆ ☆ ☆
黒猫を連れた少女と、ごついオッサンの2人組が暴食の洞窟に向かって歩いていた。
しかも少女の方は、かなり可愛い分類に入る。
端から見たら、奇妙な組み合わせ。
そんな2人組を、いや、少女を見て、邪な考えをする輩がいた。
この辺りでは若い女は殆どいない。
いろいろと溜まっている者達にとって、その少女は格好の獲物だった。
そして、その少女をどうにか手込めに出来ないのか、考えるのだった。
☆ ☆ ☆
洞窟前にはレジスタンスの人が数人ばらばらに立ち、見張りをしていた。
どうやら洞窟に入る人に注意喚起をしているようだ。
(俺が以前来た時はこんなの無かったな。何かあったのか?)
「こんにちは」
「ん?あぁ、こんにちは」
ソフィアが挨拶をすると、いきなり話し掛けてられて戸惑ったのか、少し遅れて挨拶を返してくれる。
「………若いな。あんたが保護者か?」
レジスタンスは隣にいるグランに向かって問いかける。
確かに年齢で見れば、保護者でもおかしくはないかもしれない。
「いや。俺はこの嬢ちゃんに雇われた御者だ」
「そう、なのか。だったらここはやめておいた方がいいぞ。ここにはトロルというバケモノが住んでいるからな」
親切心からなのか、ソフィアに向かって注意してくれる。
「いえ。その………あった。私はレジスタンス教育学校の生徒で、ランク昇格試験でここに来ました」
ソフィアはレジスタンス教育学校の学生証を見せた。
「学生がここで昇格試験だと?何ランクの昇格試験なんだ?」
見張りをしているレジスタンスの人は、疑う目でソフィアを見てくる。
「今Cランクなので、Bランクになります」
「Bランク………。それは何か手続きの間違いとかではないのか?ここに1人で挑戦するなら最低でもAランクの実力がないときついぞ」
「それなら大丈夫だと思うぞ」
口を挟んできたのは、隣にいるグランだ。
「俺も長いこと御者やってるが、この嬢ちゃん以上の魔法使いは見たことがないぐらいに強いからな」
「なんだと?」
見た目は可愛らしい少女だ。
こんな少女が強いとは到底見えなかったのだろう。
レジスタンスの人は、疑うような目で見てくる。
「どけガキが!!」
入り口付近で俺達が邪魔だったのか、巨大な斧を持った大柄な男がソフィアに向かって言い放ってきた。
「ご、ごめんなさい」
ソフィアはビクッとした後、慌てて道を開けた。
「きゃっ!?」
すると、ソフィアは可愛らしい悲鳴を上げた。
ソフィアはお尻を抑えながら、いつの間にか後ろにいた小柄な男を睨み付けていた。
「兄貴、こいつ良い尻してますよ」
「おめぇも悪い奴だな。どれ、俺様も味見するか」
どうやら先頭の大柄な男の仲間のようだ。すれ違い様にソフィアの尻を触ったのか。
「おいてめぇ」
それが気にくわなかったグランが、初めて聞くような怒気を含んだ声で、小柄な男を掴もうとする。
しかし、それは叶わなかった。
「………………」
「それ以上手を伸ばすとどうなるかわかってるよな?」
もう1人いた3人目の仲間の男に、グランは首筋に剣を突き付けられてしまった。
「そこのレジスタンスの兄ちゃんも、いろいろと溜まってんだろ?なら協力しろ」
この様子を見ていた見張りをしているレジスタンスに、大柄な男は誘いかける。
「…………………」
「なぁに。ここでこいつらを始末すればいいだけだ。今までのようにな」
「………悪く思うなよ」
そう呟くと、レジスタンスの人も向こう側についてしまった。
(おいおいマジかよ。仕方ねぇ)
「んっ!?」
ソフィアの魔力をいきなり操作したもんだから、油断していたソフィアは可愛らしい声を上げた。
「おいおい、やる前からお前もやる気なんじゃないか。可愛い声だしやがって」
「へっへっへっ、こいつなら何回でも遊べそうだ」
そう言いつつ、ソフィアに近付く男共。
グランは剣を突き付けられたままで、悔しそうにして様子を、見ることしか出来ない。
「エアロカッター」
ソフィアは小さく呟くように、俺がこっそりと魔力制御した魔法を唱える。
すると、グランに剣を突き付けていた男の腕が、掴んでいた剣と共に地面に落ちた。
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ソフィアに見せるには酷な絵だが、グランを助けるためなら仕方なかった。
ソフィアもそれがわかっているからなのか、ちゃんと魔法を唱えてくれた。
「このメスガキが!!」
突然放たれた魔法に少し動揺したが、そこは冒険者というところ。
魔法は本来、連続使用が出来ない。男もそれがわかっていたから、エアロカッターを唱えたソフィアに、小柄な男がすぐさま近付いて、取り押さえようとする。
「エアロハンマー!」
「へぶらっ!!」
小柄な男はソフィアが間髪いれずに放ったエアロハンマーの直撃を受け、奇声を上げながら吹っ飛んだ。
「流石に3回はねぇだろ!!」
大柄な男が続けて、ソフィアに掴み掛かろうとする。
「エアロブラスト!!」
「なっ!?」
ソフィアの目の前で風の爆発が起き、大柄な男を吹っ飛ばした。
「後は………」
ソフィアは残ったレジスタンスの男に標的を絞る。
「や、やめろ!!俺は何もしていない!!何もやってないじゃないか!!」
ソフィアの手に風が巻き始めるのを見て、レジスタンスの男は自分の無実を証言してくる。
その言葉を聞いたソフィアはその言葉を信じてしまったのか、魔法を撃つ構えを解いてしまう。
「バカめが!!」
(バカかお前は!!)
レジスタンスの男と俺の心の声が重なった。
レジスタンスの男は剣を抜き、ソフィアに斬りかかる。
ガキンっ!!
「きゃっ!?」
目の前にグランが大剣で、レジスタンスの男の剣を受け止めていた。
「最低だな。ふんっ!!」
グランは大剣を軽々と扱い、レジスタンスの男の剣を弾き飛ばしてしまう。
「お前達!!何をしている!!」
そこに騒ぎを聞き付けた他のレジスタンスの人達が集まって来た。
俺達は事情を説明するために、集落にあるレジスタンスの駐留所に向かうことになったのだった。
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