第86話
side ソフィア
リアンが拐われてから数時間が経った。
私はあれから一睡もしていない。
グランさんも寝ないで、私のことを心配してくれた。
使い魔としての繋がりはまだ感じているので、リアンが死んだりはしていないことは解る。
それにしても、リアンが拐われてあんなに自分が取り乱すなんて思ってもみなかった。
グランさんがいなかったら、私はどうなってたのか何となく想像がつく。
本当にグランさんには感謝しかない。
次第に夜の森を照らすように、太陽の日射しが出てくる。
「グランさん」
「気をつけて行ってこい」
「はい!」
私はリアンがいる方を目指して、1人で朝の森へ入っていった。
(絶対に助ける。待ってて、リアン)
私は心にそう強く誓った。
誓ったはずなんだけど、数分森に入っただけで無傷で何ともなっていないリアンと、リアンを抱える女の子に遭遇した。
リアンは女の子の腕から飛び降り、私の方へ走ってきた。
☆ ☆ ☆
side リアン
ソフィアの姿が見えると、ルエラが俺を抱える腕を緩めた。
俺は飛び降り、ソフィアの元へと走る。
「リアン!無事だったんだね、無事で………ぐす」
ソフィアは俺を抱き迎えると、泣き始めてしまった。
その様子を少し離れたところから見ているルエラは、何とも居づらそうな顔をしていた。
「あなたがリアンを助けてくれたんだよね?ありがとうございました」
(いや、こいつが俺を拐った犯人なんだけどな)
ソフィアはそんなことを知るはずもなく、ルエラにお礼を言う。
「……………」
お礼を言われたルエラはなんて言ったらいいのか、わからないのか、黙ってしまう。
ただただ、ソフィアの顔をじっと見つめていた。
「でも子供1人でこんな所にいると危険だよ。私達と一緒に………」
ソフィアの言葉が途中で切れてしまう。ソフィアの顔を見ると、信じられないものを見るような顔で、ルエラを見ていた。
「……………え、うそ。だ、だってでも…………え?……………ルエラ、ちゃん?」
ソフィアは震える声でルエラに聞く。
「………ごめんなさい、なの」
ルエラはソフィアに向かって突然頭を下げた。
「ルエラちゃんだよ、ね?」
それよりソフィアはルエラ本人か確認することを優先していた。
しかし、ルエラ本人は踵を返して森の中へと歩いていく。
「ルエラちゃん!」
ソフィアはルエラに駆け寄り、手を伸ばす。
「…………ソフィア、さよならなの」
しかし、ルエラはそう告げると、森に溶けるように消えていってしまった。
「……………………」
ソフィアの伸ばされた手は、虚しくも虚空を掴もうとしているだけだった。
しばらくの間、ソフィアはその場から動くことはなかった。
涙は流していなかったが、その顔は泣いているようにも見えた。
それからぽつりぽつりと、ソフィアはルエラのことを話してくれた。
「ルエラちゃんは私が小さい頃、お城の中庭で一緒に遊んでくれた女の子だったんです。王女である私と唯一遊んでくれる同年代の友人でした」
どうやらルエラはソフィアの幼馴染らしい。
「でも、いつからかルエラちゃんは姿を見せなくなったんです。喧嘩とかした覚えはないので、姿を見せなくなった理由はわかりません。でもそのことを爺やや両親に聞いたんですが、皆はルエラちゃんのことを知らないと言ったんです」
それは恐らくソフィアにしか見えてなかったんだろうな。ルエラはほぼ確実に精霊だし。何故ソフィアにルエラが見えていたかは解らないが。
「もしかしたら、ルエラちゃんは幼い私が欲しかった同年代の友達。ただの空想、夢だったのかもしれない。そう、さっきまで考えてました。でも、夢じゃなかったんですね」
ソフィアはそう言って、ルエラがいなくなった方を見つめていた。
☆ ☆ ☆
あの後、グランの所に戻り、目的地に向けて出発した。
それからは特に問題無く馬車を進め、暴食の洞窟近くの集落までやってきた。
ここは昔から暴食の洞窟の見張り場所としてあるため、村と言ってもいいほどに発展している。
といっても、住んでいる人はあまりおらず、殆どがレジスタンスや冒険者といった人達だ。
住んでいるのはせいぜい宿屋や酒場、武具店を経営している人ぐらいだ。
その関係もあり、ここにはあまり若い女性はいない。
宿屋や酒場にも女性はいるが、それなりの年齢をいっている。
だからなのか、集落の中に入ってからというもの、ソフィアはかなり注目されていた。
「グランさん、私、なんか見られているような気がするんですが」
「そりゃあここに嬢ちゃんみたいな若い女の子はいないからな。だから若い女に飢えているんだ。一人になる時は注意しろ」
「わ、わかりました」
グランは馬車からソフィアの荷物を下ろしながら言う。
その言葉にソフィアは顔を引きつらせながら頷いた。
(んー、確かに嫌な視線を向けて来る奴らがいるな)
ソフィアは荷物を受け取り、拠点とするための宿屋を探すことにする。
グランは、馬車を置くための手続きをするために、ここで一旦お別れになる。
宿屋は同じところを取ると言っていたので、後で集落の入り口付近で落ち合う予定だ。
「宿屋は結構あるんだね、リアン」
この集落は暴食の洞窟に挑む冒険者の拠点になるので、宿屋と酒場の数は多い。
数は多いが、安くてサービスが悪かったり、逆に綺麗でサービスが良い等、いろいろとある。
まぁ、大抵の冒険者は安い方に行くのだが、そこだと粗暴の悪い奴らが多い。
ソフィアも宿屋を外から見てそれがわかったのか、あまり近付かないようにしていた。
しばらく歩いていると、綺麗な表構えをしている宿屋を見つける。
「リアン、ここにしよっか」
「にゃあ」
中に入ると、少し太ったおじさんが、笑顔で迎えてくれる。
「いらっしゃいませ。ようこそ『
「はい。二部屋空いてますか?」
「はい、空いておりますよ。期間はどれぐらいにしましょうか?」
「えっと………」
「お決まりではないのでしたら、朝に追加料金を頂ければ、そのまま継続でお泊まりすることが出来ますがどうしますか?」
「あ、それでお願いします」
「畏まりました。では料金の方はこちらになっておりまして………、大丈夫でしょうか?」
宿屋の主人はためらいがちに、料金を掲示してくる。
確かに少し高めの料金だが、ソフィアの今まで稼いだお金だと、数ヶ月利用しても余裕のある料金だ。
主人はまだ子供にも見えるソフィアに払えるのか迷ったのだろう。
「大丈夫です」
ソフィアは二部屋分の料金を支払う。
宿屋の主人はお金がすんなり出てきたことに、少し驚いていたが、すぐに営業スマイルに戻る。
「ありがとうございます。お食事の方は一階が食事処となっておりますので、是非ご利用ください。それではお部屋にご案内致します」
案内された部屋は1人部屋で、質も上質な方だった。ちゃんと柔らかめのベッドもある。
「鍵はこちらになります。鍵は外に持ち運んで頂いても大丈夫ですが、紛失した場合は弁償して頂くことになりますので、ご注意ください。返却は当宿屋のご利用を止める時にお願いします」
宿屋の主人はそう言って、部屋から出ていった。
「よしリアン、グランさんを迎えに行こっか」
部屋に荷物を置いて、鍵をしっかりと掛けてから、俺達は待ち合わせ場所へ向かった。
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