再会とひとつの夢

第79話

「この町がフォルティスですか」


 ある日、旅装束に旅用のローブを着た1人の初老の男性がフォルティスの町の入り口に立っていた。


「噂ではここにあの方と同じ名前の方がいるはず。それに確かここにはレジスタンスの」


 男は薄手の白い手袋をした手でフードを被り直し、町の中へ歩いていった。



 ☆     ☆     ☆



「っ、美味しい」


 学校からの帰り道、ソフィアとココナはミレイにいつも通っている喫茶店に連れてきた。


 ミレイは珍しく目を輝かせながらこの店自慢のパンケーキを頬張る。


「やっぱここのパンケーキは美味しいね」


「うん、そうだね。ほらリアンも」


「にゃ」


 俺もソフィアからパンケーキの欠片を貰っている。


 女の子同士で会話に花を咲かせた後、満足して喫茶店を出た。


「ねぇねぇ君たち」

「俺らと遊ばない?」

「3人共可愛いね」


 喫茶店にいたときから視線に気付いてはいたが、予想していた通りというか、男3人が声を掛けてきた。


 男3人の見た目は冒険者らしい格好をしている。雰囲気も少しはできるような感じはする。


「そういうの結構なんで」


 ソフィアが代表して答え、そのまま素通りしようとする。


「おい」


 男の1人がソフィアに手を伸ばしてくる。それをココナが男の手首を掴んで阻止した。


「手を出すんならココナ達も容赦はしないよ」


 ココナは少し怒ったような顔をして男達に凄む。


「へへ、君たちみたいな女の子に何が出来るっていうんだよ」


 後ろにいた男の1人がそんなことを言ってくる。


「こういうことだけど?」


「いたたたたたた!!」


 ココナは掴んでいた男の腕を曲がらない方向に曲げ、関節を決める。そして男の背中に蹴りを入れて蹴り飛ばした。


「ガキのくせに何をすんだよ!」


 ココナの行動を見てキレた残りの2人がココナに向かって襲い掛かってくる。


「・・・アクアウォール」


 ミレイがボソッと魔法を唱えると、ソフィア達と男達の間に氷の壁が出来上がる。


 男2人は勢いのまま氷の壁に突っ込み、顔面を押さえて踞っている。


「このメスガキ共が!!」


 男達は怒り出し、剣や槍を手にして、再度襲い掛かってきた。


 ソフィアは静かに魔力制御して魔法をいつでも放てるようにしてある。


 流石に武器を持って襲い掛かって来られたら、攻撃魔法を使っても、文句は言われないだろう。


 そして、ソフィアが魔法を放とうとした時、目の前にローブを着た別の男が割り込んで入ってきた。


「この方には指一本触れさせません」


 割り込んできた男は無手だったが、襲い掛かってきた男達3人はいきなり後ろに吹き飛んで、そのまま倒れた。


 俺も何をしたのか、よく分からない。


 助けてくれた男が振り返る。そして旅装束の深く被っていたローブのフードを取り、その場に跪いた。


 声でも思ったが、白髪のスラッとした佇まいの老人だった。だが、その物腰は精練された何かを感じさせる。


「……………」


 ソフィアはその老人を見て驚き、目を見開き固まってしまっている。


「えっと、お爺さん、助けてくれてありがとうございました」


 それを見たココナはソフィアに代わり老人にお礼をいう。


 俺としては老人の行動と今のソフィアの状態を見て、あることが思い浮かぶ。


「ソフィア様、こんなに立派に成長なされて、私は大変嬉しく思います」


 老人はうっすらと目に涙を浮かべながら、ソフィアに向かって頭を下げる。


「まさか爺や………なの?」


「はい。ソフィア様の教育係を仰せつかっていたフェンデル・アレントでございます。ソフィア様、よく御無事で」


「爺や!!」


 ソフィアは泣きながら老人、フェンデルさんへと抱き付いた。


「生きてっ、生きていたのですね」


「はい。あの日、私は陛下の名で近隣の町に出掛けていたので。帰ったら既に町も城も無く………。ソフィア様が大変な時に私は何も出来ませんでした。本当に申し訳ありません」


 フェンデルと名乗った老人はソフィアをあやすように、優しく頭を撫でた。


「ふふ、この感じ………久しぶりです」


 ソフィアは泣きながら微笑むのだった。



 ☆     ☆     ☆



 俺達はフェンデルを連れて、ソフィアの自宅の部屋へとやってきた。


 ココナとミレイは途中で別れたので、この部屋にはいない。


「ここにお住まいなのですね」


「うん。それに私、レジスタンスになるために今学校に通ってるんです」


「ソ、ソフィア様がレジスタンスですか?危険なのでは」


「もちろん危険な時はありますよ。でも人を助けることが出来ますから」


「しかしソフィア様は魔法を」


 やはり自分が仕えていた元王女がレジスタンスなんて信じられないのだろう。

 フェンデルはソフィアが魔法を使えなかったことを知っている。

 だからこそ余計に心配になったのだ。


「大丈夫です。魔法は使えるようになりましたし、リアンもいますから」


 ソフィアはそう言って俺の頭を撫でてくる。


「そういえばそちらの猫は」


「リアンといって私のえっと、使い魔です」


 ソフィアは頬を赤くしながら俺を紹介する。


「猫の使い魔ですか。それはなんとも可愛らしい。しかし猫では戦闘面では不安があるのでは」


 やはりそう考えるよな。普通はもっと戦える魔獣とか大きな動物を使い魔とすることが多いし。


「大丈夫です。リアンは優秀ですから」


「そうでございますか」


 フェンデルは頷きながら答えた。


「ソフィア様、これからについて1つ聞きたいことがあるのですが」


「なんでしょうか?」


「ソフィア様は今後はレジスタンスを続けていくのでしょうか?フルーリエの復興等のお考えはあるのでしょうか?」


 国に仕えていた者としての当然の疑問だな。


「私は………、今はレジスタンスを続けていきたい、です。国は復興出来たらしたいですが、国民がいての国です。ただの廃墟に人は集まりませんから」


 ソフィアは少し悲しそうな顔をして答える。久々にフルーリエでのことを思い出したのだろう。


「……………わかりました。ソフィア様はしっかりと未来を見据えているのですね」


 ソフィアの答えにフェンデルは納得がいったのか、しっかりと頷いて、その場に臣下の礼を取り跪いた。


「ソフィア様、私は再びソフィア様にお仕えしたいと愚考しております。どうか許可を頂けないでしょか」


 フェンデルはそう宣言をしてくるのだった。

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