第80話

「ソフィア様、私は再びソフィア様にお仕えしたいと愚考しております。どうか許可を頂けないでしょか」


 フェンデルの言葉にソフィアは戸惑っているようだ。


 それは当然だろう。


 仕えるということはその人に給金を支払うということだ。


 一応今までのレジスタンスでのクエストで稼いだお金の蓄えはある。


 だが、安定した供給をし続けることが出来る保証はない。


「ソフィア様、御給金のことでしたら今は考えないで結構です。私はただソフィア様の支えになりたいのです」


 ソフィアの思考がわかったのか、フェンデルはそう言ってきた。


「でも爺や、お金や住むところは」


 この今の暮らしてる部屋は一部屋と風呂場しかない。ソフィアも年頃の女の子としてそこは簡単には了承しかねるところらしい。


「安心して下さい。これでもまだ腕は鈍っておりません。住まいもこの近くで良い物件を探してみます」


 フェンデルも何か考えはあるようだ。


「わかりました。御給金は今は難しいですが、最初の物件は私も協力させてください。これでもそれなりにお金はありますから」


「ありがとうございます」


 フェンデルは今日宿屋に泊まることになるので、お礼を言って部屋を出ていった。



「リアン、ごめんね。私が勝手に1人で決めちゃって」


「にゃう」


 俺は気にするなという意味を込めて鳴く。


「ありがとう。さて、お風呂入ろうかな」


 この日の風呂では、ソフィアが昔、フェンデルにお世話になっていた頃の話をずっと話し続けるのだった。



 ☆     ☆     ☆



 翌日、ソフィアは学校で皆にフェンデルのことについて説明をした。


 本当は説明をしようか迷っていたソフィアだったが、隠していてもいずれはバレてしまうことだ。


 だから先に説明しておくことにしたのだ。


「ミールさんのお世話をしていた人ねぇ」


 この場にいるのはココナとミレイ、そしてジャネットだ。


「………もしかしてソフィアってお金持ち?」


 ソフィアが一国の王女であることを知らないミレイは、ソフィアが貴族なのかと考えたようだ。


「うーん、まぁそんなところ」


 ソフィアとしてはあまり触れられて欲しくない部分なのか、適当に誤魔化した。


「ミールさん、その人って品のありそうな白髪の老人だったりしない?」


「えっと、そうですね。そんな感じです」


「…………………」


「ジャネット先生?」


「ミールさん、ちょっと付いてきてもらえるかしら?」


 俺とソフィアはジャネットの後を付いていくことになった。



 ☆     ☆     ☆



 ジャネットが連れてきたのはジャネットの個人部屋がある棟だ。


 その棟の端にある施錠された部屋にジャネットは案内をした。


「ミールさんの言っている人ってあの人のことかしら」


 この部屋には覗き窓が付いていて、そこから中が覗けるようになっていた。


 俺もソフィアの肩に乗り、ソフィアと一緒に部屋の中を覗く。


 中には確かにフェンデルが座りやすそうな椅子に座り、呑気に紅茶を飲んでいた。


 この部屋は一応牢屋扱いなのだが、身分の良さそう、もしくは歓迎したいが反抗する相手に使う部屋だ。


 フェンデルは執事服を着ているので、ここに通されたのだろう。


「はい。確かに爺やです。でもどうしてここに?」


「彼はねぇ………」


 ジャネットの話によると、フェンデルは早朝にこの学校にソフィアを訪ねに来たそうだ。


 ソフィアの名前が出たことから、ソフィアの担当しているジャネットが呼ばれたが、実際にソフィアと関係しているか解らない。


 かといって、「ソフィア様が来るまで待つ」と言う彼を放置出来ない。


 ジャネットも仕事があるので、付きっきりで一緒に居るわけにはいかない。


 放置して変なことをされても困るので、やむを得ずこの部屋で待ってもらうことにしたらしい。


 ジャネットは部屋の鍵を解錠し扉を開く。


「フェンデルさん、ミールさんが来ました」


「おはよう、爺や」


「おはようございます。ソフィア様」


 フェンデルは部屋に入る時には既に立ち上がっており、優雅に一礼して挨拶を返してきた。


「えっと、なんで爺やがここに?」


「はい。ソフィア様の通う学校内での私めの行動を許可して頂こうと愚考しまして」


 なるほど。確かにソフィアは学校、もしくは依頼で遠出することが多い。


 お世話をするのなら出来るだけ近くにいたいということか。


「………………」


 そう言うフェンデルに対してソフィアは少し困り顔だ。


「爺や、気持ちは嬉しいです。でも昔みたいに無理して私だけに掛かりきりじゃなくていいのですよ?それにまだ住むところとか決まっていないのではないんですか?」


「………そうでございますか。では私は物件を探してくるとしましょう」


 フェンデルは少し残念そうな顔をし、一礼をして部屋を出ていった。


「よかったの?ミールさん」


「はい。私はもう子供じゃないですから」


 心配するジャネットに対してソフィアははっきりとそう口にした。


 俺はいつもと少し雰囲気が違うソフィアに疑問を抱いていた。

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