第3章 変わりゆくもの
本当のギフト
第74話
フォルティスの町に帰ってきてから数日後。
「ミールさん、ちょっと来てもらってもいいかしら?」
そうジャネットから言われて、俺とソフィアは空き部屋に来ていた。
そこには教育機関トップのディケイルと受付嬢のセリカもいた。
「あの、なんでしょうか」
流石のソフィアもこの3人を目の前にして、少し緊張しているようだ。
「セリカ君」
「はい」
ディケイルの指名でセリカが一歩前へ出る。
「今回、ルマルタでの出来事を資料で読ませて頂きました。そして、ソフィアちゃん達が活躍したことも」
どうやらルマルタから例の事件の資料が送られてきたのだろう。
「先日、特定危険魔獣としてイブリスの登録が完了し、危険度が高いため、討伐者も限定することとなりました。そして、現状イブリスを討伐したことのある人物はソフィアちゃんだけとなります。ソフィアちゃんをレジスタンス特務隊員として登録し、任務に当たって頂くこととなります。それと、後日試験は受けて頂きますが、Cランクへの昇格も認められました」
「と、特務隊員ですか」
レジスタンス特務隊員とは一応俺も所属している。内容としては本当に危険だと判断される魔獣の討伐が主になる。なので、特務隊員はかなり数が少ない。俺もしょっちゅう遠出した記憶がある。
「安心したまえ。ソフィア・ミールにはイブリスが出現した時に対応してもらうだけにしようと思う。まだ学生の身だしな」
確かに特務隊員として本格的に動くと、学校なんて行っている余裕がなくなる可能性はあるもんな。
「それとミールさん、今日の放課後にコロシアムに来てもらうわ」
「コロシアムに?」
「ええ。特務隊員としての最初の洗礼を受けて貰うのよ」
あぁ、あれか。懐かしいな。でもソフィアなら上手くすれば勝てるか?俺もいることだし。
「洗礼・・・」
洗礼と聞いて、ソフィアは息を飲んで不安そうな顔をするのだった。
☆ ☆ ☆
そして放課後が訪れる。
俺とソフィアは指定されたコロシアムに向かう。
コロシアムには今日話をした3人がいた。
ジャネットとセリカはアリーナの脇の方にいるが、ディケイルはアリーナの真ん中でこちらを睨むようにこちらを見ていた。
「ソフィア・ミール、これから私と戦ってもらう。君の今の全力を見せてほしい」
「・・・わかりました」
ソフィアはコロシアムに来るように言われてから、この展開を予想していたのか、落ち着いた様子で頷いた。
「もちろん使い魔のリアンとやらも協力してもらって構わない。いや、リアンも積極的に協力してよい」
「・・・・・・」
ディケイルは俺の目を見て言ってきた。
(ディケイルのやつ、俺のことに気付いているのか?)
何度か気付かれたかもしれないと思うことがあったが、今回はそれの確認も含めているということか。
「君達の全力をぶつけてきなさい」
ディケイルの纏う魔力が膨れ上がり、こちらに威圧感が放たれてきた。
普通のやつならこの威圧感で逃げ出してもおかしくはない程に。
「っ・・・わかりました。リアン、お願いね」
「にゃ」
ソフィアは逃げたい気持ちを押さえて、静かに答えた。
そして、ソフィアは自分が扱える最大の魔法を紡ぎ上げる。
「フレアバースト!」
何回も使ってきた上級魔法の1つ。アクアレイザーも扱えるが、一直線のアクアレイザーに比べ、爆発させるフレアバーストの方が範囲が広いのだ。
ディケイルは何も素振りを見せないまま、フレアバーストによる爆発に呑み込まれる。
「んっ!?」
ソフィアは油断はしていなくても、様子見するつもりで魔力制御をやめていた。ディケイル相手にそれはまずいと判断し、俺が魔力制御で次の魔法を紡ぎ上げる。
「っ!?」
だが、その時には既に遅く、ソフィアは見えない何かに吹き飛ばされてしまった。
(今のはディケイルのフォトンバレットか!)
ディケイルがほぼノータイムで撃ち出すこが出来る光属性の魔法。高速の光の球を撃ち出すので、視認が難しいのだ。
「なかなか良い魔法だ。だが、威力は強くても、正面からでは強者には効かないぞ」
ディケイルはただ純粋に魔力の密度を高めることでフレアバーストを防ぎ、魔法で反撃をしてきたのだ。
「そのように体勢が崩れさせたら、大魔法を撃ち込むのだ。こうやってな。ディバインレイ」
ディケイルの頭上から極太の光線が放たれる。それは俺とソフィアを軽く呑み込んでしまう。
光線が消えると、そこには無傷で立つソフィアがいた。
「ほう・・・」
ディケイルは感心したように呟きを漏らす。
「で、できた」
「にゃ」
俺とソフィアは今のが実戦でも上手くいったことに安堵した。
「何をしたかは解らんが、よく耐えたものだ」
「いえ、でも今のは全力ではないですよね?」
「勿論だ。殺すわけにはいかんからな」
ま、そりゃそうだよな。
「リアン」
「にゃ」
俺達はそれだけで意志疎通が出来た。
「ビットフォール!」
「む」
ビットフォールは任意の場所に穴を空ける魔法だ。
狙いはディケイルの足下。体勢を崩すにはもってこいの魔法だ。
ディケイルは素早く感知し、ビットフォールで穴が空く前に跳躍で逃れる。しかし。
「アクアフォール!」
「ぐっ」
ビットフォールの真上からほぼノータイムでアクアフォールを発動させる。
ディケイルは上空から降ってきた水に押し潰されるように、ビットフォールで空けられた穴に落ちていく。
「え?っ!?め、メテオフォール!」
俺が魔力制御した魔法に一瞬戸惑いを見せたソフィアだが、すぐに唱えた。
理由は簡単だ。穴の中から膨大な魔力を感じ取ったのだ。
ソフィアの魔法は上空に巨大な炎の球を出現させ、穴を目掛けて落とそうとする。
「ふんっ!!」
しかし、ソフィアの放った巨大な炎の球は穴から飛び出してきたディケイルに《両手で受け止められて》しまった。
「え、え、え!?」
目の前の光景にソフィアは思考が付いてきていなかった。
ソフィアは魔法を掴むなんて芸当を見たことなんてなかった。
当たり前だ。これはディケイルのギフト『断罪の手』と呼ばれる効果なのだ。だから、魔法を掴むことが出来るのはディケイルだけということだ。
「これは返そう」
ディケイルは宙にいる間に、ソフィアのメテオフォールを投げ返してきた。
(やはり駄目だったか!)
俺はディケイルのギフトのことを知っていた。だからこそ掴めないビットフォールの魔法で地面に穴を開けた。ソフィアの制御したウォーターフォールでの追撃も上手くいった。
そして、最後のメテオフォールは不意を打つ形でなら行けると考えたのだが、甘かった。
ディケイルは身体強化をして、穴の中でウォーターフォールの圧力に耐え、来ると予想していた追撃を見事に投げ返してきた。
「これはどうだ?ディバインレイ」
「っ!?」
巨大な炎の球が向かって来る中、頭上からソフィアを穿つように1本のかなり太い光線が放たれた。
ソフィアはそれらに向かい撃つように、両手を前に出して構えるのだった。
さぁ、ソフィアの本当のギフトのお披露目だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます