第71話
「しつこいですねっ!!」
腕や足、頭も変な方向に曲がったアンデッド達が倒れても倒れても起き上がり、スラヴァとモニカに襲い掛かっていた。
スラヴァは僅かな隙を付いて、宙へと逃げることに成功する。
結果として、全てのアンデッドがモニカに集中することとなる。
(これはまずいですね。イブリスになっているとはいえ、不死者にあれだけ囲まれたらまずい)
スラヴァは空から見下ろして、そう感じた。しかし、同時にあることに気が付く。
(おや?待ってください。アンデッドは本来製作者以外の命令は聞かないはず。製作者であるアランは死んだ。ならどうして・・・)
アンデッドは命令がない場合は近くの生き物から活動に必要な魔力を取る習性はある。しかし、今みたいに特定の人物を狙うというのは、命令以外ではありえないのだ。
スラヴァの視線がソフィアの方へと向いた。そこには魔法の準備をするソフィアと、カリーナの側にいるアランのアンデッドの姿があった。
(・・・違う。あれはアンデッドじゃない。死んだ人間を何者かが動かしている)
スラヴァは遠目で見ただけでそれがわかった。だが、誰が動かしているかは分からなかった。
「・・・・・・っ!?この魔力はっ!!」
スラヴァはソフィアから溢れる膨大な魔力に驚く。そして、それを見事に制御していることにも驚きを隠せない。
そして、ソフィアの
☆ ☆ ☆
「ソ、ソフィア!」
カリーナはソフィアから溢れる魔力の嵐に吹き飛ばされそうになりながら名前を呼んだ。
「リ、リアン!」
「にゃあ!!」
ソフィアも俺も魔力制御を精一杯にやっている。しかし、制御しきれない魔力が周りに嵐のようになり、吹き荒れてしまう。
(こ、この魔法っ!!魔力をただ制御するだけじゃ駄目だ!!)
俺はそれを悟った。同時に解決する手段も思い付く。
だが、それをソフィアに伝えることが出来ない。
「うぅ・・・ううぅぅぅ!!!」
ソフィアの顔が苦痛に歪んできた。
(まずいっ!!このままじゃソフィアの魔力が暴走するっ!!)
俺はソフィアの魔力を抑えようとするが、溢れる量が多過ぎて俺でも制御しきれない。
「くぅぅぅぅっっ!!」
「ソフィア!!詠唱するのですわ!!」
「っ!?」
カリーナの声が聞こえた。
ソフィアははっとして、苦痛に耐えながら目を閉じて集中を始めた。
「・・・天の光」
ドクン
「っ!?」
ソフィアが詠唱の一端を口にした途端に魔力がまとまっていく感覚があった。
それと同時にソフィアの内なる魔力が鼓動する。
「全てを浄化せよ」
ドクン
詠唱と鼓動に反応するように、暴走していた魔力が1つの巨大な魔法陣となって、輝きながら上空に浮かび上がっていく。
「降り注げ」
ドクン
魔力の鼓動は感覚で繋がっている俺にも強く伝わってくる。そして、上空に上がった魔法陣の輝きが更に増していく。
(は、ははは、嘘だろ。ほとんど俺の魔力制御無しで、これだけの魔力を紡ぎ上げるなんて・・・。それにこの魔力の鼓動は・・・・・・)
俺はこの時、ソフィアの魔力制御を一切していなかった。
魔力は更に輝きを増しながら、不可思議な紋様を空に描き始める。
ソフィアは目を開け、モニカの方を向いて少し悲しそうな笑顔をする。そのソフィアの開けたオッドアイの瞳からは不思議な力のようなものを感じた。
そして、ソフィアはこの魔法の名を唱える。
「ディバインロアっ!!!」
魔法陣が目が開けられなくなるほど輝き、魔法陣の中心から巨大な光が地面に向かって解き放たれた。
一瞬で視界は白に染まり、何もかもが見えなくなる。
(・・・ありがとうございます)
(・・・モニカのやつに先に逝くと伝えてくれ)
視界が白く染まる中、頭の中にニーナと知らない男の声が響いた。
視界が回復した時にはあれだけの数のアンデッドが消えていた。にも関わらず、周りには今の魔法での破壊痕は見られない。後ろにいたアランの姿も消えていた。
「・・・・・・お姉様」
カリーナの視線の先にはモニカが人間の姿に戻り倒れていた。
イブリスの時の黒い靄は既に無く、モニカの体内にあった魔力の塊のような存在も消えていた。
カリーナを先頭に俺達もモニカの近くへと行く。
「・・・・・・カリーナ」
「お姉様っ!!」
驚いたことに、モニカの意識はあるらしく、カリーナの名前を呼んできた。カリーナは慌ててモニカの側にしゃがんで、顔を近付ける。
すると、モニカがカリーナの頬に手を添えた。
「カリーナ・・なんで・・・泣いてるの?」
「お姉様がっ・・・お姉様が・・・・ぐすっ」
「泣き虫さんは・・・相変わらずなのね」
カリーナは頬にあるモニカの手に自分の手を添えて、小さい子供のように泣いていた。
「・・・・・・そこの魔法使いさん」
「わ、私ですか?」
モニカはソフィアに話し掛けてきた。
「母を・・・、アランを・・・、そして私を・・・助けてくれて、ありがとね」
「い、いえ」
これが助けになったのかわからないが、モニカの声はとても優しい声色で、心から感謝されていることがわかった。
「お姉様っ!?」
モニカの身体から小さな光が出て来て、次第にモニカの身体も消えてきた。
「カリーナ、友達を大切に・・、強く生きるのよ」
「お姉様っ!!!」
ふいに、モニカの視線はソフィアに向けられた。その最後の表情は少し驚いているように見えた。
そして、モニカは光となって空へと消えていった。
(なるほど、あなたは・・・本当にあの・・・・・・)
「お姉様ぁぁぁぁ!!!」
ソフィアは泣き崩れるカリーナの背中を優しく撫でる。
頭の中にモニカの最後の言葉が途切れ途切れで伝わってきた。
最後の方はなんて言っているか分からなかったが、どこかで聞いた単語のような気がした。
☆ ☆ ☆
「なんなんですか、あの魔法は」
スラヴァはソフィアの魔法を危険だと判断して、森の方まで逃げ隠れていた。
「あれではまるで、主の・・・」
「スラヴァ」
スラヴァの背後から女性の声が響いた。
「あ、主、いえ、マリナ様、何か御用でしょうか?」
「いやなに。お前が集めている魔力に懐かしい感じがしたのでな」
「懐かしい魔力、ですか」
スラヴァが主と呼ぶこの女性はマリナと名乗っており、
「ああ。そのお陰で懐かしい魔法にも出会えた。あやつが得意としていた魔法の1つでもあるからな」
「・・・・・・・・・」
スラヴァはリーダーであるマリナに付き従い長い年月が経つが、詳しいことは何もわかっていない。わかっているのは何かの魔法で長い年月を生きていることぐらいだ。
「あの魔法を撃った少女の名はわかるのか?」
「え、ええ。ソフィア・ミールという邪魔ばかりする女です」
「ソフィア・ミール・・・か。・・・・・・フルーリエの血縁ではないのか。いや、あそこにいたのは全て・・・」
マリナは最後の方は小さく呟くように言ったので、スラヴァには聞こえていなかった。
「まぁいい。ソフィア・ミールには注意しておくのだ。あやつの使った魔法は遥か昔、まだ大精霊という存在がいた頃の魔法だ。対魔法強化をしたお前の身体でも持たんぞ」
「・・・わかりました」
スラヴァはマリナにそう言われ、自分がソフィアに勝てないと言われているような気がして、悔しくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます