第70話
「え?・・・・・・なんで」
アンデッドが割り込んできたことで、ソフィアはスラヴァの攻撃を受けずに助かった。
ソフィアは距離を取り、現状を見て困惑している。俺自身も大いに困惑しているところだ。
「死体風情が!!」
「ア"ア"ア"ァ"ァ"!!」
スラヴァとモニカに対して、どこからともなく現れた多くのアンデッドが襲い始めたのだ。
「ソフィア!」
「カリーナ」
そこにカリーナがやってきた。後ろにはアンデッドと化したアランの姿もある。
「これ、カリーナが?」
「いえ、わたくしにもなにがなんだか・・・」
カリーナもよくわかっていないようだ。
カリーナが言うには、森の方から大量のアンデッドがやってきたらしい。恐らくは俺達が排除出来なかった奴らだろう。
「それに、わたくしがソフィアの助太刀をしようかと思いましたら、アランさんに止められまして」
(アランに止められた?)
それが本当ならアランがアンデッドとなっていても、意識があるということになる。
アランを改めて見てみる。
既に死んでいるからなのか、モニカに貫かれた身体には風穴が空いているのに、平然としている。時折口を動かしているが、声を発することはない。だが、瞳に宿る強い意思のようなものは感じられた。
「にゃ?」
俺はそれと同時に最近どこかで見たような感覚に襲われる。
そう、確かフォルティスの町の喫茶店前と、カリーナに案内された岬にいたあの女性のあの瞳のような・・・。
(わたしの声・・・聞こえますか?)
「え?」「にゃ?」
突然頭の中に女性の声が鳴り響いた。この声はソフィアにも聞こえたようだ。そして、今の声はどこかカリーナに似ているような気がする。
「どうしたんですの?」
カリーナには聞こえなかったようで、首を傾げている。
「今・・・声が聞こえて」
「声、ですの?」
ソフィアが教えると、カリーナは耳を澄ませるような仕草をする。俺も耳を澄ませるが、聞こえてくるのはスラヴァとモニカがアンデッド達と戦う音だけだ。
(わたしの声聞こえますか?)
「「っ!?」」
俺とソフィアは声が聞こえた方、アランを見た。
「アランさん・・・なのですか?」
ソフィアがおそるおそる尋ねた。
(やはり貴女達には聞こえていたのですね)
アランは身動きをしていない。だが、瞳だけは意志が宿るように強く感じる。
(わたしはニーナ。今はアランの身体を借り、貴方達に語りかけているのです)
「ニーナさん・・・ですか」
「っ!?ソフィアさん、どうしてわたくしのお母様の名前を・・・」
「え!?」
カリーナは驚いてソフィアを見てきた。ソフィアも驚いてカリーナを見た。
(時間がありません。アンデッドを操っているアランの意識が途切れてきています。わたしの娘を、モニカを解放して貰えませんか?)
「ソフィア、お母様はなんて言ってるのですか!?」
「えとえと」
ソフィアは同時に聞かれてあわあわし始める。
「えと、モニカさんを助けてほしいって」
「お姉様を?」
(今のカリーナにあの魔法は扱えません。でも貴方の魔力ならきっと・・・)
本当に時間がないのか、ニーナの声は少し焦りを感じる。
ふとスラヴァとモニカの方を見てみる。確かに最初よりアンデッドの数は減り、動きも鈍くなってきている。
(今から貴方の意識に我が家に伝わる
「これは・・・」
ソフィアを通して俺にも魔法の内容が伝わってきた。
それはどこかディケイルに教わった光属性の上級魔法と似ている。でもただの光属性の魔法ではないことがわかる。いや、それよりこの魔法は今現在の魔法ではない。これは・・・。
「・・・・・・リアン、出来そう?」
ソフィアのこの質問にはどういった意味があるのか少し考える。今のソフィアに扱えるのかということなのか。今のソフィアに耐えられるというものなのか。
ソフィアの保有魔力なら魔力量は大丈夫だとは思う。問題はその魔力を全て制御できるかどうかだ。制御は俺も手伝えるから、2人で協力すればなんとかなるかもしれない。でも、今の魔法とはまったく違うから上手くいくかどうかはわからない。
それでも、俺はソフィアと一緒なら出来ると信じ、ソフィアと視線を合わせて静かに頷く。
(もう1人のわたしの娘、カリーナに伝えてください。この魔法を扱えるように精進しなさい、と)
「・・・カリーナ」
「な、なんですの?」
カリーナはモニカとソフィアとアランの姿をきょろきょろとして見ていたのをやめ、ソフィアに視線を向けた。
「ニーナさんから伝言です。今から私が使う魔法を扱えるように精進しなさい、と」
「え、ええ」
カリーナの返事を聞いてソフィアは前へと歩き出す。
俺もソフィアの肩に乗り、今教えてもらった魔法の準備をする。
さて、俺も今回の魔法は初めて使う種類の魔法だ。しっかりと集中してやるとするか。
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