第69話
「アラン・・・さん?」
死んでいたはずのアランがカリーナの前で仁王立ちして、カリーナをモニカから守っていたのだ。
イブリスとなったモニカの腕は見事にアランの心臓を貫いていた。
「ア"・・・ラ"ン"」
「・・・・・・・」
モニカへ目を見開き、涙を流しながらアランの名前を呼んだ。
すると、アランの身体は崩れるようにして、モニカの方へと倒れた。
モニカはそれを正面から受け止め、愛おしそうに抱き締めた。
「・・・・・・何が起こってるの?」
「・・・アランさんはお姉様の恋人だったのですわ」
カリーナは俯きながら教えてくれた。その声は少し涙ぐんでいる。
「お姉様」
「・・・ガリーナ"」
モニカの目は先程の狂気が嘘のように落ち着いていた。
「ナンデ・・・わたしはコンナコトを・・・・」
モニカ自身、なんで今のようになっているかわかっていないようだ。
「貴方は私の命令に従っていればいいのですよ」
「ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"!!!!」
「貴方はっ!?」
モニカは再び狂気の声で叫び始める。そして、その後ろには。
「スラヴァ!!」
ヘンリー・ヘイグをイブリスとした人物、そして今回もモニカをイブリスとした人物だった。
「アクアショット!!」
「おっと」
ミレイがアクアショットでスラヴァに奇襲に近い形で攻撃を仕掛けた。
「いきなりですねぇ。貴方はなんなんですか?」
「その顔、忘れない。母の仇、取って見せます」
「母の仇?・・・その耳、エルフ族ですか・・・」
スラヴァは少し考える素振りを見せる。
「ああ、思い出しました。確か数年前にエルフェンの国に立ち寄った時に協力して頂いたあのエルフの方の娘さんですか。いやぁ、大きくなりましたねぇ。いや、そんなに変わってはいませんか」
「うる、さいっ!!アクアレイザー!!!」
ミレイのアクアレイザーは氷の細い槍を高速に伸ばすように放たれた。
だが、それはスラヴァの目の前に現れた障壁に阻まれてしまう。
「ふむ。私でもこれは使えるようになりましたか」
スラヴァは手応えを感じるように言った。そして、手をくるんと返すような動きをすると、ミレイが使った魔法と同じアクアレイザーがミレイに向かって放たれた。
「うっ!!」
「ミレイさん!!ヒール!」
アクアレイザーはミレイの太腿を貫き、赤い鮮血が舞った。ミレイはその場で倒れてしまう。それを見たソフィアは慌てて止血を始める。
「そちらも暫く振りですねぇ。ソフィア・ミール。どうです?前回のイブリスと比べて制御出来るようになったんですよ。まぁ、死体が、アンデッドが素体だと全体的な出力は下がりますがね。ただ感情をどう殺そうかとまだ難題が残ってますが」
スラヴァはすらすらと人の命を、亡くなった人のことも、どうでもいいように言い放つ。いや、実際に奴にとって人の命はどうだっていいのだろう。
そんな言葉を聞いたソフィアの雰囲気が一変する。
止血が終わったミレイから離れ、ソフィアがスラヴァを見据えた。
「人の命を・・・人の想いを・・・なんだと思ってるの!!」
そんな言葉と共に魔力の嵐が、ソフィアから溢れだした。
これは俺がソフィアを庇って死にかけた時と同じ状態だ。
「やはり貴方の潜在魔力はとてつもないですねぇ。早めに潰すのが賢明のようだ。行きなさい」
スラヴァはソフィアを見つつ、そんなことを口走る。
すると、モニカがソフィアに向かって襲い掛かって来た。何かの魔法が発動しているのか、両手には水の渦を纏っている。
「ア"ア"ア"ア"ァ"ァ"ァァァァァ!!!」
いきなり襲い掛かって来られると、いつもは慌てるソフィアだが、今回は違った。
「エアロブラスト」
ソフィアは冷静にモニカが目の前に来たタイミングでエアロブラストで、目の前に暴風を生み出し、モニカの両手の魔法ごとモニカを吹き飛ばした。
(今の魔力制御の速さ・・・)
今のエアロブラストは俺が殆ど気付かせることなく魔力制御をして発動させていた。
いつもなら、ソフィアの魔力制御には気付けていたはずなのに。
(この状態だから出来たことなのか?)
ソフィアはいまだに周りに膨大な魔力を纏っている。
「ア"ア"ア"ァ"ァ"ァァァァ!!」
モニカの周りに黒い水の球が現れる。
(リアン、ダブル)
「にゃ?」
ソフィアが声を出していないのに、頭の中でソフィアの声が聞こえた気がした。
俺はソフィアが魔力制御を始めたことに気が付き、同じ魔力制御を行う。
「ア"ア"!!」
モニカは周りに黒い水の球を多数生み出し、ソフィアを囲うように撃ち放った。
「エアロハンマー・ダブル」
ソフィアはエアロハンマーを2つ同時に違う方向に放った。
それは見事にモニカの魔法を全て吹き飛ばし、その内1つのエアロハンマーはモニカに吸い込まれるように途中で方向を変える。
(っ!?魔法の介入・・・だと!!)
基本的に魔法を放った後は操作が出来ないとされている。だが、今のエアロハンマーは途中で方向が変わった。
「アア・・・グッ・・・」
モニカは突然方向を変えた不可視の衝撃を受け、吹き飛ばされる。
「アイアンストライク」
「っ!?」
ソフィアは嫌な予感がして半歩下がった。そこに、ソフィアに向けて鉄球が飛んできて、足下に穴を空ける。
「今回は私も少し遊ばせてもらいますよ」
鉄球が飛んできた方にはスラヴァが不気味な笑みを浮かべて、機械化した左腕を前に出していた。
そして、スラヴァは倒れているモニカの近くに行き、頭を手で掴む。
「
「ア"ア"ア"ァ"ァ"ア"ア"ァ"ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ!!!!!」
スラヴァが一言何かを呟くと、モニカの身体から魔力が溢れてきた。
「あれは・・・」
「にゃあ・・・」
モニカの心臓辺りに強い魔力の塊があるのを発見した。魔力はそこから溢れてきているように見える。
「っ!?トレース!!」
一瞬で目の前に詰めてきたモニカの攻撃を、ソフィアはトレースでココナの動きを再現して、しゃがんでからの回し蹴りを放った。
だが、それはモニカの片腕で受け止められていた。
「ア"ァ"!!」
「あぐっ」
ソフィアはモニカに足を掴まれ、力任せに投げられてしまう。
俺も一緒にソフィアと一緒に投げ飛ばされたが、俺はスラヴァがこちらに向けて何か呟いているのが見えた。
「っ!?ストーンウォール!!」
ソフィアは何も見ずに俺の魔力制御に気が付き、ストーンウォールを発動してくれる。
ソフィアの目の前に現れた石壁は、一瞬で粉々に砕け散る。
「なかなか良いカンをしてますね」
やはり今のはスラヴァが攻撃してきていたようだ。
(でもなんだ?石壁が一瞬で粉々になるなんて)
「ありがと、リアんんっ!?」
ソフィアは小声でお礼を言いつつ立ち上が、途中で俺が突然魔力制御を始めたので、艶かしい声を上げる。モニカの手に黒い水が凝縮されていたのだ。
「ア、アクアレイザー!」
ソフィアも俺の意図に気付き、モニカの手にある黒い水をアクアレイザーで撃ち抜く。
「隙だらけですよ」
モニカの方に気を取られている間に、スラヴァが近くに接近していた。機械化した左手からはナイフのようなものが飛び出ている。
「トレース!!」
ソフィアは再びトレースを発動させる。
ソフィアが頭を下げた場所にスラヴァのナイフが切り、ソフィアの髪が何本が宙を舞った。
スラヴァはソフィアが避けたことに驚くが、そのまま左手から飛び出したナイフで切りつけてくる。
ソフィアはまだトレースの魔法が継続しており、回し蹴りを放とうとしている。そんなソフィアにスラヴァのナイフが吸い込まれていく。
(まずい!トレースが裏目に出たか!)
トレースは使用者が発動時に意識した行動が終わるまで中断が出来ない。ソフィアのトレースは回し蹴りを放つところまでのはずだ。
どう見ても、ソフィアの回し蹴りよりスラヴァのナイフの方が先に届いてしまうのが明確だ。
ソフィアもそれがわかっているからなのか、目を強く閉じている。
「これで終わりでっ!?」
スラヴァの驚く声が聞こえてきた。
「え?・・・・・・なんで」
ソフィアも目の前の光景に疑問の声を出した。
スラヴァは目の前に割り込んできたアンデッドの攻撃に邪魔されたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます