第67話
「うわぁ・・・」
「これは・・・」
「っ・・・・」
全速力で町に戻ってきた俺達は町の惨状を見て言葉を失った。
ソフィアもこの町の入り口辺りでココナから降りて、震える足でゆっくりと歩いていた。だが
「にゃにゃっ!!」
「ソフィア!?」
ソフィアが突然膝から崩れ落ちそうになる。
顔を見てみるとかなり青白くなっていた。
「大丈夫ですの!?ソフィア」
「う、うん。平気・・・」
「平気には見えないよ?」
そういえばこの光景ってソフィアの故郷が滅ぶ時のフルーリエと状況が少し似ている。だからか?
「にゃあ」
「ん、ありがとう」
俺は少し乱れていたソフィアの魔力を優しく正しく制御をしてやる。
すると、徐々に顔色が良くなってきた。
「もう大丈夫」
「本当に大丈夫ですの?」
「うん。早く行かないと」
ソフィアは自分の足で立ち上がり、先頭を歩き始める。
(・・・強くなったな)
俺はまだソフィアの魔力制御をしているからわかることがあった。
ソフィアは内心はかなり怖がっていることが、魔力を通じて伝わってくるのだ。
それに、肩に乗ってると僅かに震えているのもわかる。
それでもソフィアは自分の足で前に進んでいるのだ。
「アクアウォール!」
歩いていると、ミレイの声が聞こえてきた。
今ミレイが作った氷の壁の向こうでは、何かが氷の壁を壊そうとしているのがわかる。
「ミレイさん!」
「・・・ソフィアさん」
ミレイはちらっとこちらを見て気付いた。
「今助太刀するよ!」
「だ、だめっ!!」
ココナが壁の向こうに行こうとすると、ミレイが珍しく大きな声で叫んだ。
ココナが近付いた時、氷の壁が丁度崩れた。その先から黒い影を纏った何かが突っ込んで来た。
「えっ?」
「っ!?エアロショット!!」
「っだめ!!!」
ココナが攻撃を受ける前にソフィアが瞬時に魔法でサポートに入る。が、それをミレイは慌てた様子で止めようとする。
しかし、既に魔法は放たれており、止めることは出来ない。
(イブリスっ!!)
エアロショットが当たる直前、俺は相手がイブリスということに気が付く。以前のイブリスとはフォルムは異なるが、イブリスだということは分かる。
イブリスはソフィアの攻撃に反応し、一瞬で障壁を張る。しかし、ソフィアのエアロショットは軽々とそれを突き破り、イブリスの腹部を撃ち抜いた。イブリスは驚いた様子で跳躍して離れていく。
「っと、ありがと!」
「・・・え?な、なんで?」
ココナはなんとかイブリスから離れることが出来た。
ミレイは何か構えていたようだが、何か予想と違ったのか、疑問を抱いていた。
「ソフィア、あれってあの時の」
「たぶんイブリス・・・だよね?リアン」
「にゃあ」
「・・・いぶりす?」
当然初めて聞く名前にミレイは戸惑っている。
当のイブリスは少し離れた場所でこちらを警戒しているようだ。以前戦ったイブリスより華奢に見えた。というより、女性らしいフォルムをしている。
「・・・そうです。ソフィアさんのギフト」
「え?」
「あれ、障壁で防いだ魔法・・・跳ね返してきます。でも、ソフィアさんは『障壁貫通』持ってますから・・・魔法、通ります」
なるほど。そういうことか。だからさっきソフィアの魔法を止めようとしたんだな。
「ココナさんは・・・近付かない方がいいです」
「え、なんで?」
「あれに触れられたら・・・皆、倒れています」
「そうなの?でも前の時は」
俺達がそんな話をしている時に、イブリスが隙だらけと見たレジスタンスの誰かが、攻撃を仕掛けた。
魔法は跳ね返されると知っているからなのか、剣を持って攻撃をするが、イブリスの長い髪が動き出し、剣ごと絡め捕らわれてしまう。
「はなせっ!この・・・・・」
すると、その人はいきなりぐったりとしてしまった。
イブリスは動かなくなった人をゴミを捨てるように髪で放り投げる。
そのレジスタンスの人はもう動かなくなっていた。
「・・・・・・うそ」
「あれが魔力吸収・・・」
「魔力吸収ですか?なるほど・・・それなら」
ソフィアの呟きで、ミレイは倒れていく原因がわかり、納得していた。
(ヘンリー・ヘイグの時より魔力吸収が優れているのか)
俺はそう見ていた。というより、ヘンリー・ヘイグの場合はソフィアをいたぶることを目的としていたからなのか、戦闘の時は魔力吸収をあまり使用している感じはしなかった。
「でも、ソフィアさんの魔法・・・通るなら倒せるかもしれません」
「ココナは」
近付くと危険ということは、ココナには無理な相手だ。
「ココナさんは・・・、町の人の救助を・・・」
「う、うん!わかった!」
ココナは返事をするとすぐに走って救助活動を開始する。
「カリーナもココナと一緒に・・・ってカリーナ!?」
「・・・・・・・・・」
先程から話に参加していなかったカリーナが、いつの間にかイブリスの方へと歩き出していた。
イブリスはカリーナに気が付き、髪を長くして、今にもカリーナを捕らえようとする。
「カリーナっ!!」
「・・・・・・・・さま」
「っ!?・・・カ・・・・・ナ・・・・」
イブリスはカリーナの目の前で攻撃を止めた。
「ア・・・・アァァアア!!!」
イブリスは頭を押さえて、そのまま凄い勢いで町の外の方へと走り去ってしまった。
「・・・どうして」
皆は何故そうなったのか解らずにいる。それは俺も同じだ。
「・・・・・・カリーナ」
ソフィアがカリーナの寂しそうな背中に話し掛ける。
「・・・ソフィア」
カリーナの目には涙が浮かんでいた。
「・・・・・あれ、わたくしのお姉様・・ですわ」
「「「っ!?」」」
まさかの衝撃の事実に言葉を失ってしまう。
「ですが・・・モニカお姉様は・・・・・・5年前、わたくしを助けるために・・・お亡くなりになったはずなのです」
カリーナの続きの言葉は更に言葉を失うもこだった。
☆ ☆ ☆
「困りますねぇ」
「っ!?」
町から離れた場所の岬まで逃げてきたモニカに声が掛けられる。
「モニカさん、何故あの女から魔力吸収しなかったんですか?上等な魔力を持っていますよ。あれは」
「・・・・・・」
モニカと呼ばれたイブリスは黙り込んでしまう。
「・・・なるほど。教えられないのですね。それなら強制的にあの女を殺してもらいましょうか。貴方の心を壊してね」
「っ!?」
スラヴァはモニカの額に手をやる。すると、モニカの目が大きく見開いた。そして、瞳が虚ろとなっていく。
「ふむ。これぐらいの魔力が溜まれば感情を完全に殺すことが出来るようですね」
「ヤクソク・・・・・チガウ・・・・・」
「違いませんよ。貴方が役目を果たさなかったから手助けをするだけです。ほら、早く行きなさい」
「ア・・・・・・・・」
スラヴァは満足そうにして機械と化している左腕でモニカの背中を押した。
☆ ☆ ☆
「サーチ」
ソフィアは他の皆が救助をしている間にサーチの魔法で近くにイブリスがいないか確認する。
「・・・うん。今は近くにいないみたい」
「・・・・・・・・・」
ソフィアの側にはカリーナが俯いて座り込んでいた。
「カリーナ、大丈夫ですか?」
「・・・・・・ええ」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
それっきり会話は無くなってしまう。
カリーナは今回の襲撃で大きなショックを受けていた。その襲撃してきた相手が姉であることもそうだが、カリーナの父親である町長も殺されてしまっていたのだ。
つまり、肉親を、家族を失ってしまったのだ。
父親を殺されたことを知ってからは、カリーナの声は時折聞こえてくる嗚咽ぐらいだった。
今は少し落ち着きを取り戻して、返事を返してくれるようになっていた。
「・・・・・・ソフィア」
「なんですか?」
「少し昔話に付き合って頂けませんか?」
カリーナはソフィアにそう告げるのだった。
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